日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
金閣寺(三島由紀夫の小説)
きんかくじ
三島由紀夫の長編小説。1956年(昭和31)新潮社刊。「私」は父から金閣の美しさを教えられ、金閣寺の徒弟になる。戦争末期の一時期に金閣との親和感をもつことのできた「私」は、敗戦とともに金閣への距離感を意識するが、金閣の幻影はなおも「私」の心を支配する。戦後の金閣寺の内部の堕落を知るにつれて「私」は金閣を焼くことを思い立ち、やがて放火する。三島の作品のうちでもっとも芸術的に完成されたものの一つで、ここでは金閣は美の象徴であるとともに、人の心を俗世間から孤立させる魔力でもある。戦中戦後のとらえ方のうちに、三島の昭和史への見方が投影されていると考えられる。
[磯田光一]
『『金閣寺』(新潮文庫)』