鉢返し(読み)ハチガエシ

デジタル大辞泉 「鉢返し」の意味・読み・例文・類語

はちがえし〔ハチがへし〕【鉢返し】

尺八曲の一。虚無僧托鉢たくはつして布施を受けたとき、返礼として吹く曲。

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改訂新版 世界大百科事典 「鉢返し」の意味・わかりやすい解説

鉢返し (はちがえし)

尺八楽の古典本曲の一曲。曲名は江戸時代の虚無僧(こむそう)の托鉢たくはつ)の習慣に由来する。すなわち,托鉢中に米や金などの喜捨を受けてその入れ物(鉢)を相手に返す際に,虚無僧は頭を下げて挨拶することはなく,その代りにこの曲を吹奏するものだったという。作法は同様でも吹奏曲は虚無僧寺の系統により異なるので,いくつかの流派に同名の異曲が伝わっている。明暗対山流では《鉢返し曲(はちがえしのきよく)》と呼び,短くても独立した一曲として扱う。錦風流(根笹派)では《鉢返》と書き,いちおう独立の曲ではあるが,たいていは《通里(とおり)》《門付(かどづけ)》の後に続けて,3曲連続で1曲として演奏される。《通里》も《門付》もやはり托鉢用の曲で,前者は行脚歩行中の奏曲,後者は喜捨を乞う門前の奏曲である。琴古流では《鉢返し》の曲自体の演奏は行われず,《一二三鉢返寿調(ひふみはちがえしことぶきのしらべ)》と称する一曲として演奏されているが,それは《一二三調(ひふみしらべ)》という原曲の中ほどに《鉢返し》原曲を挿入し,さらに別な新しい手をも加えて編曲したものである。《鉢返し》は本来の用途からして短い曲である。古風を尊ぶ流派ではそのまま伝承されるが,用途と関係なく音楽として吹奏する流派では,それなりに編曲された形で伝承されているのである。
虚無僧
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鉢返し」の意味・わかりやすい解説

鉢返し
はちがえし

尺八楽の古典本曲の曲名。虚無僧が托鉢中に米銭の喜捨を受けたとき,その返礼として吹く曲。琴古流では,『一二三鉢返調 (ひふみはちがえしのしらべ) 』の一部分になっているが,明暗流では『鉢返曲 (はちがえしのきょく) 』として独立し,「一二三調」と別々になっている。

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