鉱山災害(読み)こうざんさいがい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉱山災害」の意味・わかりやすい解説

鉱山災害
こうざんさいがい

鉱山における死傷者、施設の破損などを伴う災害。鉱山は、おもに作業場が地下にあるため、他産業にみられない特殊な災害要因があり、他産業よりも災害率が高い。近年の鉱山災害の傾向は、鉱山保安法が施行された直後の1950年(昭和25)当初に比べればかなり減少している。1990年(平成2)および2008年における鉱業労働災害死亡者数はそれぞれ44人と8人であり、大幅な減少を示している。その要因として、近年の石炭鉱業再建のための合理化政策、スクラップ・アンド・ビルド政策の進行のため、経営条件の悪い炭鉱、保安不良の炭鉱の閉山が相次いだことがあげられるが、そのほかに、鉱山関係者による保安管理組織の整備、保安技術の向上、保安意識の高揚などをあげることができる。

 鉱山災害の内訳をみると、2000年の稼動延べ100万人当りの災害率では、石炭鉱山では39.53と、全鉱山での15.73に比べて高くなっている。1950年以降1985年5月まで、死亡者10人以上の重大災害は55回発生した。そのなかで1963年11月、三池炭鉱炭塵(たんじん)爆発(死亡者数458人)、1965年6月、山野炭鉱で発生したガス爆発(死亡者数237人)はもっとも大きな災害であった。この55回のうち36回はガス爆発によって起こっている。そのほか坑内火災落盤、坑内出水、ガス突出自然発火炭塵爆発の原因によって生じている。1985年以降は、死亡者10名以上の重大災害は発生していない。1990~2005年の年間死亡者数は0~4人である。

 1981年10月の北炭夕張炭鉱夕張新鉱のガス突出による坑内火災(死亡者計93人)は夕張新鉱の再開発を断念させるに至る大事故であった。その原因としては、現場付近の地層が地下1000メートルの深部で、地質構造的に包蔵ガスが多く、いくつかの予兆があったにもかかわらず、ガス抜き不十分なまま坑道掘進を進めたことがあげられる。また火災原因については、ガス突出時に救護隊が圧気管修理のために持ち込んだビニルシートが発生させた静電気か、隊員の身体への帯電であろうと推定されている。1985年5月の死亡者62人を出した三菱(みつびし)・南大夕張炭礦(たんこう)のガス爆発事故もほぼ同様の原因によるという事故調査委員会の報告が提出されている。日本では激減した炭鉱災害だが、世界的にみると、2005年に中国に限っても死者25名以上の爆発事故が5件起きており、同年2月の遼寧(りょうねい/リヤオニン)省孫家湾炭鉱の爆発事故では死者・行方不明者が200名以上に達した。また、2010年8月に起きたチリのサンホセ鉱山の落盤事故では、発生から70日ぶりに33人全員が救出され、世界中の注目を集めた。

[黒岩俊郎]

鉱山災害の区別

鉱山災害は、重要災害と頻発災害とに区別される。

[黒岩俊郎]

重要災害

多数の死傷者を出し、また鉱山施設や鉱物資源に多大の損害を与えるおそれのある災害を重要災害とよんでいる。そのなかで死亡者3人以上または死傷者5人以上を発生した災害をとくに重大災害とよんでいる。重要災害には次のようなものがある。

(1)ガス爆発 炭層から生じるメタンが5~15%の範囲で空気と混合した場合、爆発性となる。

(2)炭塵爆発 空中に浮遊する炭塵が1立方メートル中50~1500グラムの場合、爆発性を帯びる。

(3)ガス突出 坑道掘進中などに突然大量のメタンが噴出、それに伴って災害が生じる。

(4)坑内火災 自然発火その他の原因による坑内火災は、しばしば大災害になりやすい。

(5)出水 地下の水脈や水の満ちた旧採掘跡、海底などから坑内へ水が浸入する場合がある。

[黒岩俊郎]

頻発災害

1回当りの死傷者数も少なく、また災害の程度も低いが、発生回数が非常に多く、鉱山の災害件数、罹災者数の80~85%を占める次のような災害を頻発災害とよんでいる。

(1)落盤 採掘中、天盤や側壁などが落下崩壊することによる災害。

(2)運搬事故 立坑(たてこう)のロープが切断したり鉱車に挟まれるなどの災害が意外に多い。

(3)飛石・転石 採掘中の飛石や側面からの転石による災害。

 頻発災害には入らないが、鉱山では、火薬の取扱い中や発破(はっぱ)作業中に発生する事故や、ガス中毒や酸素欠乏による窒息など、特有の災害がある。

[黒岩俊郎]

鉱山災害の防止

鉱山災害は、多くの場合、いろいろの原因が交錯して起こる。たとえば、坑内にメタンが充満してもそれだけでは大災害にならない。爆発に有効な混合比、その他種々の要素が必要である。その要素を一つずつ除去して、坑内を最高水準の保安状態に保つことが必要である。鉱山災害を防止し、保安を確保するために、鉱山の自主的な努力がなにより必要である。これの監督指導には、経済産業省に置かれている原子力安全・保安院(鉱山保安課)および地方の産業保安監督部があたっている。

[黒岩俊郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「鉱山災害」の意味・わかりやすい解説

鉱山災害 (こうざんさいがい)
mine disaster

鉱山ではおもな作業場が地下にあり,他の産業に比べて作業環境が概して悪いためかつては災害も多かった。表1に見られるように,災害度数率(100万延労働時間当り死傷者数)は,鉱業が最も高く,これに次ぐのが林業である。1982年の日本の鉱山災害率は表2に示すとおりであり,回数でも罹災者数でも79%は石炭鉱山で発生している。さらに災害の原因を石炭鉱山で見ると,表3のとおり,取扱い中の器材鉱物,運搬関係の災害が目だつ。以前は落盤または側壁の崩壊が多かったが,炭鉱の近代化,大型化が進み,坑道支保の鉄化,採炭切羽支保の自走枠化により落盤事故が減少する一方,重機械類の導入,鉱車の大型化等が進んだ結果といえる。この傾向は金属・非金属鉱山の場合でも見られ,罹災者数では,取扱い中の器材鉱物19.6%,運搬装置17.3%(1982)となっている。これらは一時に多数の死傷者を生ずることはないが度数が多く,これを頻発災害といっている。分類上では,ガス・炭塵爆発(ガス爆発粉塵爆発),ガス突出山はね自然発火,火災,水害,風害,雪害,震災,または火薬類の紛失・盗難,その他の火薬類についての事故,死者1人以上を生じた災害,同時に休業見込み4週間以上の負傷者を含む罹災者3人以上を生じた災害,同時に罹災者5人以上を生じた災害を重要災害といい,重要災害のうち同時に死亡者3人以上または罹災者5人以上を生じた災害を重大災害という。

 災害の度数はあまり高くないが,いったん起きた場合とくに重大災害となるおそれのあるのはガス・炭塵爆発,ガス突出である。1963年11月に起こった三池炭鉱の爆発では死者458人を含む死傷者合計1175人を出し,また81年10月には夕張新炭鉱でガス突出および二次災害(ガス爆発)が発生し死者93人,重軽傷者39人の罹災者を生じた。このように多くの死傷者が出た場合には,鉱山変災という言葉を使うことがある。変災の起きる原因は種々あるが,多くの場合それらの原因が交錯して初めて起きる。それゆえ,一つの要素でも見のがして放置すべきでない。原因となるべき諸要素が最高度に排除されて初めて保安上安全な鉱山であるといえる。金属鉱山と炭鉱を変災の面から比較すると,炭鉱はメタンガス,炭塵の発生といった災害発生の要素が多いといえる。
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百科事典マイペディア 「鉱山災害」の意味・わかりやすい解説

鉱山災害【こうざんさいがい】

坑内作業を中心とする鉱山では発生する災害の頻度(ひんど),強度とも著しく高い。落盤によるものや,運搬・器材取扱作業中の事故が多いが,特にガス爆発炭塵(たんじん)爆発などは瞬時に多数の死傷者を出し,鉱山変災と呼ばれる。災害防止には保安の徹底,作業員の再教育などが必要であるが,いわゆる合理化はややもすると保安の軽視となりやすい。→鉱山保安
→関連項目ガス突出坑内ガス採炭

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鉱山災害」の意味・わかりやすい解説

鉱山災害
こうざんさいがい
mine disaster

鉱山における死傷者または施設の破損および資源の損失などを伴う事故。重要災害と頻発災害に分けられる。前者はガス・炭塵爆発ガス突出自然発火,火災など多数の人命に危険を及ぼし,かつ,鉱山施設および資源に多大の損害を与えるおそれのあるもの。後者は落盤,運搬,取扱い中の鉱物や器材などによるもので,1回の災害による罹災者数は少いが,発生件数の多いもの。前者は予防対策の向上により発生件数はきわめて少いが,後者を徹底的に防止することは容易ではない。一般に坑内災害の 30~40%は落盤と運搬事故で占められている。鉱山災害の程度は,稼働延べ 100万人あたり災害率,稼働延べ 100万時間あたり災害率 (度数率) ,強度率などで示される。鉱山災害を減少させるには鉱山施設の不安全状態をなくすとともに,鉱山労働者の不安全行為をなくすことが大切である。

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