音声を記録すること。一般にその再生も可能である。現在実用されている方法を大別すると、機械録音、光学録音、磁気録音の三つがあげられる。音声を連続信号のまま記録するアナログ録音方式が長年使われてきたが、現在は特別の場合を除いて連続信号をデジタル信号に変換してから記録するデジタル録音方式が主流である。いずれの録音方式も、まず、スピーチ、音楽、自然界の音などをマイクロホンを通して電気信号に変換したのち、各方式に応じて信号処理が行われる。
[金木利之・吉川昭吉郎]
音声信号を、カッターとよばれる針の機械的振動に変え、円板状の録音板表面に、上下または左右の波形の溝を切って音声を記録する方式で、一般にレコード盤への収録に用いられている。カッターにはその駆動の方式により動電型、電磁型、圧電型などの種類があるが、電磁型がじょうぶで簡便なためよく用いられる。これはコイル、永久磁石、可動鉄片、カッター針などにより構成され、増幅器出力の音声電流をコイルに流すと可動鉄片が振動し、その動きがカッター針に伝えられるものである。
[金木利之・吉川昭吉郎]
音声信号を電気信号に変換したのち、さらに光の強弱に変えて録音する方式。ランプの発する光のように位相が不規則な光(インコヒーレント光という)を使用する方式と、レーザー光のように位相がそろった光(コヒーレント光という)を使用する方式がある。映画フィルムのサウンドトラックの録音は、長年普通のランプを使うアナログ方式であったが、レーザー光によるデジタル方式のサウンドトラックも使われるようになった。コンパクトディスク(CD)には記録、再生ともにレーザー光が使用される。これは従来のアナログレコードと異なり、音声は連続的な信号でなくデジタル信号として記録される。CDは直径12センチメートル、厚さ1.2ミリメートルのディスクを用いる。再生においてまったく接触部を用いないため摩耗する部分がなく、繰り返し使用しても音質の劣化はない。ダイナミックレンジ(音の振幅の範囲)が90デシベル以上で、ひずみも0.05%以下という非常によい特性があり、再生時間は最大74分である。当初、ディスクはユーザーが自分で消去や記録を行うことはできず、もっぱら録音済みのパッケージメディアとして使われてきた。しかし、現在ではユーザーが自分で記録できるCD-R(compact disc recordable)や消去と記録が可能で書き換え記録(上書き)ができるCD-RW(compact disc rewritable)があり、だれでも高品質の録音・再生ができるようになった。またCD-Rの7倍近くの記録容量をもつDVD-R(high definition DVD recordable)、消去と記録が可能で上書きができるDVD-RW(high definition DVD rewritable)、CD-Rの35倍の記録容量をもつBD-R(Blu-ray Disc recordable)、消去と記録が可能で上書きができるBD-RE(Blu-ray Disc rewritable)なども次々に開発されている。
[金木利之・吉川昭吉郎]
磁気テープ録音は、音声電流を磁気ヘッドのコイルに流して、ヘッドのギャップに磁気的変化をつくり、このギャップに磁気テープを接触させてテープを移動させることで、テープ上に残留磁化の変化として音声信号が連続的に記録される。再生する場合は、テープをヘッドに接触させて移動させると、テープに記録されていた残留磁化がヘッドの磁力線を変化させ、コイルに微小な音声電流が発生するため、これを増幅して音声信号を得る。テープ上の記録を消去する場合は、テープにヘッドを接触させて、そのヘッドに直流を流すか、耳に聞こえない程度(30~70キロヘルツ)の高い周波数の交流を流す。このように磁気録音は一つの装置で録音、再生、消去を行えるものが多い。このような装置をテープレコーダーという。テープレコーダーを構成する磁気テープ、磁気ヘッド、テープ走行系などの機械部分や、サーボ系をはじめ電子回路素子に至るまで研究が進められ、大幅に性能が改善されている。しかし、音声を連続信号として記録するアナログ方式を採用する以上、磁気録音の性能の改善はほぼ限界に近い。その原因は、磁気テープ上の磁性体の塗布むらによる記録・再生時における雑音発生、振幅の大きな音声信号による磁気ヘッド、磁気テープの非直線性ひずみの発生、さらに、テープ走行系の回転むらによる時間的な音声信号の変動、などに基づく。
これらの欠点を本質的に改善する手段として、デジタル録音方式がある。これは記録媒体に直接音声波形を記録するのではなく、PCM(pulse code modulation、パルス符号変調)という手法を使って一度パルス信号(一般に「0」および「1」の二値の符号列を使う)に変換してから記録する。再生においては、パルスの有無さえ区別できれば元の信号が正確に再現できる。デジタル録音方式は非常に広い周波数帯域を必要とするが、次のような特長がある。(1)ダイナミックレンジが広い、(2)雑音やひずみが少ない、(3)音声信号の帯域幅が広い、(4)コピーを繰り返しても信号が劣化しない。
映画フィルムの端に磁性体を塗布してつくったサウンドトラックの録音は、テープレコーダーと同様な原理で行われる。この際、映像の映写にはフィルムを瞬時に止めながら間欠的に送られる(35ミリメートル幅の商用映画の場合、1秒間に24こまずつ)が、音声の再生にはフィルムを一定速度で連続的に送る必要がある。このため、一般に映像より音声をフィルム上の位置で先にくるように記録して、映像の間欠的変化が音声に影響しないようにしてある。このような磁気録音ができるフィルムには35ミリ、16ミリ、8ミリがあり、とくに35ミリフィルムではシネマスコープ用としていくつもの磁気トラックをもったものもある。
ディスク状の媒体を用いる磁気録音として、1992年(平成4)にソニー社によって開発されたミニディスク(MD)があり、光磁気録音という方法を用いる。ディスクには常温では磁化されない特別な磁性粉が塗布されており、信号で変調された強力なレーザー光を用いて局所的に加熱しながら磁性粉を磁化することで信号の記録が行われ、記録時より弱いレーザー光を照射することで再生が行われる。
[金木利之・吉川昭吉郎]
録音とは音の信号を再生することを目的として,入力信号に対応させて録音媒体の状態や形状を変化させ,音の信号を保存・記録することをいう。例えば録音媒体として磁気テープを用いる磁気記録の場合は,入力信号に比例した磁化の変化の状態をテープ上に作る。円盤録音では入力信号に比例した溝の形状の変化を作ることにより音の信号を記録する。
人類最初の録音は1877年T.A.エジソンによって成功した。円筒に巻いたスズ箔に手回し式で録音したもので,フォノグラフと呼ばれた。同じ時期フランスのC.クロスも成功している。その後は蠟管,円盤レコード,映画フィルム(いわゆるトーキー),針金,磁気テープ,そして最新のビデオディスクまで,録音の素材とともに方式も改良が重ねられている。録音には,個人が音を楽しむことのほか,資料(その変形としての留守番電話,脅迫犯人の声のような犯罪捜査資料など)の保存機能と,同一音の大量複製のためのオリジナルづくりの機能がある。音楽産業は主として後者によって成立している。
現在実用されている録音の方法は,磁気録音,円盤録音,光学録音の三つに大別される。(1)磁気録音 一般の録音機に用いられているようにテープの走行方向に磁化を与える長手方向磁化longitudinal magnetizationと,磁気テープの長さ方向と厚み方向に垂直な方向に磁化を行う幅方向磁化transverse magnetizationがある。また磁気テープの厚み方向に磁化を行う垂直方向磁化perpendiculer magnetizationが最近研究が進められている。(2)円盤録音 音の電気信号でカッター針を駆動して,ラッカー盤の表面を切削することによって,溝を形成し録音を行う。現在行われている方式としては,溝の変調振動の方向が録音媒体の進行方向に対して直角で,かつ録音媒体の表面に対して平行となる録音で,横波録音lateral recordingと呼ばれる方式と,溝の変調振動の方向が録音媒体の表面に対して垂直となる録音の高低録音vertical recordingの二つの方式がある。ステレオ録音はこの2方式を組み合わせた録音方式で,横方向の溝の変化と,垂直方向の変化を一つの溝に形成している。(3)光学録音 映画フィルムの録音に一部使用されているが,方式としては,音の信号の録音されるトラックの横幅を透明部と不透明部とに分け,各瞬時における透明部の幅が電気信号の振幅に対応して変化するようにした面積式録音variable-area recordingと,音の録音されるトラックの各瞬時における透明度が,電気信号の振幅に対応して変化するようにした濃淡式録音variable-density recordingの2方式がある。
最近,音の信号をディジタル化したPCM録音が実用化されているが,磁気テープを用いるものは,基本的には磁気録音の原理が用いられ,音の信号のかわりに,ディジタル信号が記録される。PCMの円盤の場合は光学録音を行っており,原理的には濃淡式録音であるが,再生の場合透過光を利用するのではなく,反射光を利用している。また,扱う信号がディジタル信号なので反射の強さではなく,有無を検出している。
→ディジタルオーディオ →テープレコーダー →レコード
執筆者:岡村 黎明+竹ヶ原 俊幸
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…音声信号その他の情報を磁気テープの上に記録,再生するための装置。
[歴史]
磁性媒体を用いて,録音,再生を行うという考えは,T.A.エジソンが蓄音機を発明した約10年後の1888年に,アメリカのスミスO.Smithが電磁誘導作用により磁性体の帯に音声信号を録音し,またその磁性体から音声信号を再生することができるという着想を発表している。世界で初めての磁気録音再生の実験は,デンマークのポールセンV.Paulsenによって,98年に実施された。…
※「録音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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