土地ないし施設を霊的な疫災から守護する神。鎮主とも書く。もと鎮安守護の意で鎮守府,鎮守使など一般に形容語とするが,日本では平安朝以来独立の成語として鎮守神をさす。もと大乗仏教の護法善神の思想により寺院の守護神として勧請(かんじよう)したもので,興福寺の春日明神,高野山の丹生(にう)明神,比叡山の山王権現,東寺の鎮守八幡宮など多くは寺院の建立以前からの地主神(じぬしがみ)を改めてまつった。これには本来,強力な来訪神が在地の神霊を慰撫し服属せしめる方式が生かされており,鎮守神としての奉斎がおのずから他の諸霊を制する神威を高めることになる。そこでまもなく鎮守神祭祀の風が一般化し,一国鎮守,王城鎮守,家宅鎮守などの信仰が普及した。古くは《本朝世紀》天慶2年(939)4月19日の条に〈鎮守正二位勲三等大物忌明神〉の称号が見え,《本朝文粋》の願文にも〈鎮主熱田宮〉とある。《神道集》には〈信濃国鎮守諏訪大明神〉と記し,《源平盛衰記》に厳島神社を〈安芸国第一の鎮守也〉としている。《上野国神名帳》に鎮守十二社とあるように複数をあげる例もあり,《二十一社記》にも〈王城鎮守とて廿一社を定置〉とある。城内鎮守として有名なのは,1590年(天正18)に徳川家康が江戸城内の旧祠山王権現を鎮守として紅葉山にまつり,後に赤坂山王(現,日枝神社)を建立した例がある。また《江戸砂子》には,富岡八幡宮に〈当社四隅鎮守〉として丑寅(東北)の鬼門に蛭子神など境内の四方に鎮守神をまつったことを記している。なお平安時代から地方の荘園に領主の鎮守神を盛んに分祀したこともあってしだいに村落部にも鎮守信仰が普及し,近世には氏神や産土(うぶすな)神をも鎮守と称するようになった。今日では〈村の鎮守〉とか〈鎮守の森〉が地域の氏神の社を意味するようになったが,やはり鎮守(神)という言葉には土地や建物を守護する地縁的な神格の意味が強く,その点で氏神や産土神の血縁的な神格の表現と微妙な違いが残っている。
執筆者:薗田 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
特定の土地・建築物を守護するために祭られた神。ふつう氏神や産土神(うぶすながみ)・地主神など村に鎮座する神を意味するが,これは近世以降の傾向で,国・王城・城内・荘園・寺院の鎮護のために祭る神にもいう。諸国の一宮はその国の鎮守であり,王城鎮守には伊勢神宮以下21社があてられ,寺院鎮守では東大寺の八幡神,城内鎮守では江戸城の日吉(ひえ)山王(現,日枝神社)の例がある。神格の高い神を勧請することが多く,在来の土着の神の神威をはばかり,地鎮祭を行ってから祭る。鎮主とも書く例があるのはこのためとする説がある。土着の神の多くはこれらの勧請神に吸収された。血縁的社会結合よりも地縁的社会結合が重視されると,地主神・産土神が鎮守となって氏神の勢力を抑えた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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