改訂新版 世界大百科事典 「鎮痙薬」の意味・わかりやすい解説
鎮痙薬 (ちんけいやく)
antispasmodic
内臓平滑筋の異常な収縮・痙攣(けいれん)をゆるめ,痙攣による内臓痛を除く薬物をいう。2種類に大別され,一つはアトロピンによって代表される副交感神経抑制薬(抗コリン薬)で,向神経性鎮痙薬とかアトロピン様作用薬ともいう。アセチルコリンと抑制的に拮抗し,神経の興奮の伝達を遮断し,痙攣をゆるめる。他の一つは平滑筋細胞に直接作用して痙攣を抑える薬物で,向筋肉性鎮痙薬あるいはパパベリンがこの代表的な薬物であることから,パパベリン様作用薬などともいう。副交感神経抑制薬も大量を用いると向筋肉性鎮痙作用を示す。向筋肉性鎮痙薬は,内臓痛のほか,喘息(ぜんそく)や血管拡張薬として血管痙攣,狭心症に用いられる。向筋肉性鎮痙薬は違った化学構造のものを含み,おもなものには次のようなものがある。(1)パパベリン アヘンアルカロイドの一種であるが,麻薬ではない。すべての平滑筋の収縮をゆるめるので,非特異的平滑筋弛緩薬の代表とされている。作用機序としては,細胞外のカルシウムイオンCa2⁺の細胞内への流入の抑制,環状AMPの分解酵素であるホスホジエステラーゼ活性の阻害による細胞内環状AMPの蓄積,および酸化的リン酸化反応の抑制などが考えられている。内臓痛にも用いるが,臨床的効果は少ない。狭心症,高血圧に用いられる。類似の化合物としてペルパリンやオイパベリンがある。
(2)メチルキサンチン誘導体 テオフィリンが代表的で,ホスホジエステラーゼ活性を阻害し,環状AMP量の増加をおこし,平滑筋を弛緩させる。アミノフィリン(テオフィリン-エチレンジアミン)やテオナ(テオフィリン-ノスカピン)などがあり,気管支拡張薬として喘息に,また狭心症,胆管・胆囊の痙攣に用いられる。
(3)Ca2⁺拮抗薬 細胞外のCa2⁺の細胞内への流入を抑制して収縮をゆるめる薬物で,ベラパミル,ニフェジピン,ジルチアゼムなどがある。
(4)マグネシウム塩 胆汁分泌促進薬として胆石痛などに用いられる。
(5)カテコール-o-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬 フロプロピオンやフロログリシンなどを鎮痙薬として胆管系疾患,尿路結石に用いる。
執筆者:高柳 一成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報