改訂新版 世界大百科事典 「開胸術」の意味・わかりやすい解説
開胸術 (かいきょうじゅつ)
thoracotomy
肺癌をはじめとする肺腫瘍や肺結核などの肺の病気,心臓や食道の病気で,外科的に胸を開いて処置しなければならないとき行われる手術方法。ふつう全身麻酔下で,肋骨に沿って筋肉を切り,肋骨を切り取らないで胸を開くが,大きく広く開ける必要があるときは,1~2本の肋骨を切断することもある。この手術によって胸腔を開くと,大気圧より低圧に保たれている胸膜腔に,切開口から空気が侵入するため,中の肺が縮んで呼吸ができなくなる。そのため,開胸に際しては,気管内にチューブを入れ,麻酔ガスとともに加圧した酸素を肺に送り込み,肺を膨らませて,人工的に呼吸を行わせながら(これを陽圧人工呼吸という)手術を行う。胸を閉じた後はチューブを入れて,持続的に吸引し,胸腔内の圧力を下げる。
開胸術の歴史
初期の開胸術は,自然呼吸下,通常の大気圧下で行われた。これを平圧開胸という。しかし,これでは肺が虚脱し,呼吸が異常となって危険なため,異圧装置(加圧したり減圧したりする装置)を用いて肺を膨らませる方法がE.F.ザウエルブルフによって考案され(1904),これによって,開胸時,肺虚脱が予防されることが明らかにされた。ところが,当時は広く用いられるに至らなかった。次いで1928年に,グーデルA.E.GuedelとウォーターズR.M.Watersらが現在のような気管内チューブを考案し,さらに相当の年月を経て,現在の開胸方法が定型的なものとなった。日本では,1938年の日本外科学会総会で,平圧開胸か加圧(陽圧)開胸かが大論争となり,当時は加圧開胸は有害との説に傾き,現在とはまったく異なる見解が示された。
執筆者:吉竹 毅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報