家庭医学館 「院内肺炎」の解説
いんないはいえん【院内肺炎 Hospital Aquired Pneumonia】
院内感染による肺炎とは、なんらかの病気のために入院中に、病気の原因となる微生物が肺の中に侵入しておこった肺炎のすべてをいいます。
私たちの口内や上気道(じょうきどう)には、いろいろな微生物がすみついています(常在細菌叢(じょうざいさいきんそう)という)。土壌や空気の中にも無数の微生物がいます。健康なら抵抗力があるため、こうした微生物が感染しても病気になることはありません。
しかし、たとえば悪性腫瘍(あくせいしゅよう)・糖尿病(とうにょうびょう)・腎不全(じんふぜん)などの病気にかかっているとか、長いこと寝たきりであるとか、抗がん剤・副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン・免疫抑制薬のような薬を使っているとか、放射線を当てる治療を受けているとか、高齢者であるなど、からだの抵抗力が低下した場合に、ふつうは問題にならない微生物が、増殖し、病原性を発揮してくることがあります。このような状態でおこった感染を日和見感染と呼びます。
院内肺炎には、日和見感染でおこったものが多く含まれています。原因となる微生物としては、細菌では、緑膿菌(りょくのうきん)、黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)、とくに多剤耐性黄色(たざいたいせいおうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)(MRSA)によることが多く(この項目のMRSA(多剤耐性黄色ブドウ球菌)肺炎)、グラム陰性桿菌(いんせいかんきん)、嫌気性菌(けんきせいきん)など、複数の菌が感染することもあります。また、重病の入院患者さんや免疫抑制薬を使っている人に、アスペルギルス属やカンジダ属などの真菌(しんきん)(かび)性の肺炎がおこることもあります。とくに、副腎皮質ホルモンを長期間使っている人は、ニューモシスチス・カリニやサイトメガロウイルスによる肺炎にかかりやすくなります。
肺炎は、院内肺炎と市中肺炎(「市中肺炎(院外肺炎)」)に区別されますが、その大きな理由は、両者の死亡率のちがいからです。市中肺炎では感染者の5~6%が死亡するのに対し、院内肺炎では20~60%と非常に高い死亡率になります。これは、もともと病医院には、さまざまな薬に抵抗力をもった病原体が多くいて、その毒性は弱くても、もとの病気(基礎疾患)やその治療のために抵抗力が弱まった患者さんにおこる院内感染であるため、死亡率が高くなるのです。
以下に代表的な院内感染による肺炎について述べます。