近世初期,隆達(1527-1611)が節付けした歌謡。単に隆達または隆達小歌,隆達の歌などともいう。隆達は泉州堺の生れ,高三(たかさぶ)を姓とする。その祖先は漢人の劉氏と伝え,1174年(承安4)来日して博多に住し,帰化して高(たか)三郎兵衛を称し,代々この名を用いた。北朝の貞治(1362-68)ころ,9代三郎兵衛道玄のときに堺に移住,薬種と交易を業とし,このころ高三と通称して苗字とした。隆達は隆喜の末子で,早くから僧籍に入り,高三家の菩提寺,堺の顕本寺(けんぽんじ)(法華宗)内に自在庵を営み,自庵隆達と号した。1590年(天正18)長兄隆徳の死にあい,後嗣が若年のため還俗して家業を継いだが,天性器用な彼は連歌,声曲,書画等各方面に才能を発揮し,なかでも先行の室町小歌に同調,みずから小歌を作詞するとともに,今様(いまよう),小歌節,謡曲等の音曲を折衷・調和して,世にいう〈隆達節〉を編み出した。歌詞は〈尺八の一節切(ひとよぎり)こそ音(ね)もよけれ,君と一夜(ひとよ)は寝も足らぬ〉のような恋歌が80%以上を占め,他は無常観に根ざす歌か賀の歌。詩型は音数律的形式からいえば七五七五の半今様型が最も多く,次に七七七七型,五七五七七型,七七七五型等の順である。主として扇拍子や一節切,尺八,小鼓等で伴奏されたが,後には三味線に合わせてうたうこともあったという。
最流行期は天正(1573-92)の末から文禄・慶長(1592-1615)ころ,隆達の在世時代で,その盛行ぶりは仮名草子《恨の介》や《東海道名所記》,《陰徳太平記》《昔々物語》《足薪翁之記》等の記述からも察せられる。隆達の名声は織田信長,豊臣秀吉ら戦国武将にまで達した(《わらんべ草》《焼残反古》)。実に隆達は室町小歌の完成者であり,近世小歌の祖といえよう。
現在知られている隆達節の歌数は500余首。伝本は約34種で,自筆本と称するものも数種あるが,転写本が多い。
執筆者:浅野 建二
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近世初期の流行歌謡。隆達小歌あるいは単に隆達ともいう。創始者の高三(たかさぶ)隆達(1527―1611)は泉州堺(さかい)の薬種商の末子に生まれ、日蓮(にちれん)宗顕本寺の僧となったが、兄隆徳の没後還俗(げんぞく)した。生来器用な彼は、連歌(れんが)、音曲、書画などに才能を表し、自ら小歌を作詞してこれを歌い、名声を得た。この隆達節がもっとも流行したのは文禄(ぶんろく)・慶長(けいちょう)期(1592~1615)で、その後、元禄(げんろく)・宝永(ほうえい)期(1688~1711)ごろまでは流行し続けた。
曲節は現存しないが、おそらく先行する数種の音曲を折衷し、そこに彼独自の節回しを加えたものと思われる。伴奏には主として扇拍子や一節切(ひとよぎり)、小鼓などが用いられた。自筆、他筆を含めて500首以上の歌詞が現存するが、すべてが隆達の作というわけではない。内容の70%以上は恋歌で、詞型は7575の半今様(はんいまよう)型がもっとも多く、近世小歌調の七七七五調はきわめて少ない。その意味で、隆達節は中世歌謡から近世歌謡への過渡的小歌として、歴史上重要視されている。
[千葉潤之介]
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安土桃山時代に隆達が歌いはやらせた小歌。「隆達小歌集」に伝えられる詞章は約500首あるが,恋を主題にした歌が多数を占めている。隆達自作のほか,古歌の節も付け直して新しい旋律を創造し,扇拍子で歌ったという。宝永期頃まで歌われたが,他の歌謡の流行で衰え,その曲節は伝わらない。
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…中世初期の小歌は,おもに傀儡女(くぐつめ),遊女,白拍子(しらびようし)などの女性遊芸者群によって広められたが,また当時の公家や禅僧の日記類によれば,宮廷,貴紳の間に出入りした平家語りの座頭や連歌師,猿楽者,田楽法師,放下師などの専門芸能者によって〈舞〉と結合して謡われた小歌が,やがて宴席に列する女中衆の口唱にものぼったことがうかがわれる。 小歌を集成したものとして,1518年(永正15)成立の《閑吟集》や,それ以後,安土桃山期(1573‐1600)にかけて編集された《宗安小歌集》《隆達節唱歌》などがあるが,他に《狂言小歌集》や断片的に諸書に散見する小歌資料も多く,これらは戦国時代の風流(ふりゆう)踊(小歌踊)歌を包含して,近世初期の女歌舞妓踊歌や三味線組歌に組織せられ,その余響はさらに箏歌(ことうた),御船歌(おふなうた),流行歌(はやりうた),民謡類にまで及んだ。狂言小歌【浅野 建二】
[近世小歌]
室町末期から近世初期にかけてもてはやされた隆達節は約500首が現存しており,その歌には七五七五の4句からなる今様調が多いが,七七七五という近世調も散見される。…
※「隆達節」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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