改訂新版 世界大百科事典 「雇用調整」の意味・わかりやすい解説
雇用調整 (こようちょうせい)
経済界の不況や企業の業績の悪化によって滞貨ができ,商品の価格が下落すると,生産機械の一部操業中止またはスピードダウンを行って生産を抑えるいわゆる操業短縮(操短)が,個々の企業であるいは業界の申合せで行われる。また収支状況の悪化に対処するため,経費の削減を図る必要に迫られる。雇用調整とは,通常,このような場合の労働需要の減少に対して,企業内労働力の供給量を減少させる諸措置をいう。一般に,労働力の供給量に直接関係しない賃金抑制措置なども含めていわれる。雇用調整の方法としては,(1)労働時間の短縮(所定外労働時間の抑制,所定内労働時間の短縮,休日の増加),(2)新規採用等の削減・中止(臨時労働者の契約更新停止,中途採用の中止,新規学校卒業者の採用削減・中止等),(3)配置転換(通常のローテーションとしての配置転換の範囲を越えての部門への配置転換,子会社等への出向),(4)賃金の抑制(所定内給与の引上率の縮小,引上げの中止,引下げ),(5)一時帰休(帰休制度),(6)希望退職の募集,(7)解雇など,いろいろある。
1950年代までは,不況の時期に大量解雇による雇用調整が行われ,激しい労使紛争を引き起こしたこともあったが,その後の高度成長の過程では,大規模かつ長期にわたる雇用調整はみられなかった。しかし,高度成長時代の終りを画する73年秋の第1次石油危機以後の長期不況のもとでは,減量経営の名のもとにさまざまな方法による大規模かつ長期にわたる雇用調整がみられるようになった。ただこの時期には,高度成長の過程での蓄積によって企業体質が強化されていたこと,日本特有の終身雇用慣行が確立強化されてきたことなどから,解雇による方法は最後まで避けるように労使とも努力するのが一般的である。雇用調整が必要な場合でも,最初は労働時間の短縮,新規採用等の削減・中止,賃金引上げの抑制など労働者に対する打撃が少ない方法がとられ,それでも対処しきれない企業でも配置転換,一時帰休ですますものが多く,人員整理を必要とする企業でもその多くは希望退職の募集にとどめ,指名解雇を行うものは少ない。もっとも,希望退職の募集であっても,〈肩たたき〉の併用など,やり方によっては事実上強制退職と同じことになってしまうが,実際にはこのようなものも多いといわれている。
また雇用調整が大規模に行われるようになったため,74年,雇用保険法に基づき,解雇等による失業の発生を予防することを目的として,雇用調整給付金制度が設けられた。これは,景気の変動など,個別企業の通常の努力によっては対応することが困難な理由により事業活動の縮小を余儀なくされた業種(労働大臣が指定)に属する企業に対して,一時帰休の実施に伴って支払った休業手当につき一定の給付金を支給するものであった。その後81年に,教育訓練,出向に関する給付金など類似のものと整理・統合され,雇用調整助成金となっている。
執筆者:柳本 紀男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報