電磁流体力学(読み)デンジリュウタイリキガク

デジタル大辞泉 「電磁流体力学」の意味・読み・例文・類語

でんじりゅうたい‐りきがく〔デンジリウタイ‐〕【電磁流体力学】

水銀プラズマなど電気伝導性をもつ流体磁界内で行う運動を研究する物理学の一分野。電磁気学流体力学とを基礎とし、プラズマの研究、また太陽黒点解釈などに応用される。磁気流体力学MHDmagnetohydrodynamics)。

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改訂新版 世界大百科事典 「電磁流体力学」の意味・わかりやすい解説

電磁流体力学 (でんじりゅうたいりきがく)

電磁場が流体の運動に及ぼす影響を議論する学問。日本では,電気伝導性の流体に対する磁場の影響を論ずる磁気流体力学magnetohydrodynamics(略称MHD)を指すことが多い。一般に水銀や溶融金属,あるいは電離気体(プラズマ)が磁場の中を運動すると起電力が発生し,そのために電流が流れて(誘導)磁場を生じ,その結果磁場を変えるとともに電流に磁場が及ぼす力のために運動が影響される。

 電磁流体力学の萌芽は,鉛直磁場の下で鉛直な電線からの放射電磁場があるとまわりの水銀が回転するという電磁回転や,1937年J.ハルトマンによる垂直な磁場のかかった溝の中の流れ(ハルトマンの流れ)の研究に見られる。とくに後者は電流の流れる流体に垂直な磁場を加えて管に沿う方向の動力を得,管に沿って液体を流そうとする電磁ポンプやさらに進んで電磁推進の基本となるものである。また逆に流れと磁場に垂直に生ずる起電力の測定は電磁流量計MHD発電に結びつくものである。しかし,磁気流体力学的効果がもっとも顕著に現れるのは,流れの電気伝導度σや流速U,スケール(代表長さL)が大きくて,いわゆる磁気レーノルズ数Rm=σμVL(μは透磁率)が大きい場合である。このときは磁場と液体の結合が大きく,磁場は流体に凍りついたようにこれとともに運動するとみなすことができる。このとき流体の密度をρとすると,磁束密度Bの磁場に沿って, の速度で伝搬する横波アルフェン波)の存在しうることがスウェーデンのアルフェンHannes Alfvén(1908-95)によって指摘され(1942),多くの実験によって確認されている。流体が圧縮性をもつときは音波との干渉が生じ,純アルフェン波のほかに磁場と伝搬方向のなす角によって伝搬速度の異なる異方性の2種の磁気音波の存在することが知られている。また以上の3種の波に対応して,一様な磁場のかかった物体を過ぎる定常流では前傾の定常波や衝撃波が存在するし,それに沿って磁場の不連続の可能性もある。電気抵抗や粘性の影響の下にアルフェン波は流されて拡散し,いわゆるMHD伴流を生む。

 磁気流体力学はアルフェンによる太陽黒点の理論に始まり,地球や太陽などの天体の磁気の生成・維持,変動を論ずる流体磁気ダイナモ理論,宇宙電波の起源などの天体物理学,地球物理学などに関連して発展した。プラズマを磁場によって閉じこめ,さらに圧縮して密度,温度を高めて核融合反応を行わせるプラズマの制御や,前述のMHD発電,推進など工学的にも広い応用をもっている。

 電磁流体力学の基礎方程式としては,ローレンツ力や電磁誘導起電力で連関した液体に対する運動方程式と,電磁場に対するマクスウェルの方程式を論ずる必要がある。しかし,電気的に中性で高周波や相対論的効果が無視できる場合には,後者は電流に対するオームの法則を用いることによって磁場の変化を支配する誘導方程式に帰着され,また前者のローレンツ力は磁場だけによるものとなる。
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百科事典マイペディア 「電磁流体力学」の意味・わかりやすい解説

電磁流体力学【でんじりゅうたいりきがく】

magneto-hydrodynamics(MHDと略)の訳。電気伝導性のある流体(溶融金属,電離気体つまりプラズマ等)が磁場内で行う運動を研究する学問。流体が磁場内を動くと電磁誘導により内部に電流が流れ,それが新しく磁場を発生する一方,その電流に磁場が作用して流体に力が働き運動状態を変える。このような電場・磁場・流体運動の相互干渉でふつうの電磁気学流体力学的現象と異なる運動を生じ,それぞれの基礎方程式に補正を加えて電磁流体力学の基礎方程式が得られる。原子核融合反応,MHD発電等に関する高温プラズマや,原子炉冷却材の溶融ナトリウムの運動,地球物理・天文学では地磁気のダイナモ理論,太陽風,太陽黒点,コロナ,星雲・恒星の内部構造,宇宙線・宇宙電波の成因など,電磁流体力学の適用は広範囲にわたる。→電磁流体波

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電磁流体力学」の意味・わかりやすい解説

電磁流体力学
でんじりゅうたいりきがく
magnetohydrodynamics

磁気流体力学または流体磁気学ともいう。電気伝導性の流体が電場や磁場の中で行う運動を研究する流体力学の分野。伝導性流体には水銀や融解ナトリウムなどの液状金属や電離気体 (プラズマ) がある。流体が気体の場合には磁気気体力学と呼ばれることもある。伝導性流体が磁場の中を流れると流体中に電流が誘起され,逆にこの電流は磁場を生じ,さらに磁場から力を受けて流れの状態を変える。このように流体の運動と磁場とは電磁気学の法則に従って密接に関連し合う。電磁流体力学の基礎方程式は流体の運動方程式およびマクスウェルの方程式であり,その研究分野は天体物理学,地球物理学,宇宙工学,MHD発電,核融合など多岐にわたる。天体物理学では恒星,太陽,地球の中心などでの伝導性流体の運動や,その中を伝わる横波 (アルベーン波 ) によって太陽黒点や天体磁気の成因,太陽コロナの加熱,宇宙線や宇宙電波の起源などが論じられる。宇宙工学では高層大気中を極超音速で飛ぶロケットや宇宙飛翔体の再突入の際に発生するプラズマ,イオン推力などが研究対象である。 MHD発電は,高温プラズマの流れが電磁誘導によって発生する起電力を利用して高い効率で直接に発電しようとする発電法である。また核融合においては,プラズマの磁場による閉じ込めが重要な研究課題となっている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「電磁流体力学」の意味・わかりやすい解説

電磁流体力学
でんじりゅうたいりきがく

磁気流体力学

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世界大百科事典(旧版)内の電磁流体力学の言及

【プラズマ】より

…このような理想的な100%電離気体をとくにプラズマと呼ぶことも多く,その物性,とくに電磁界との相互作用を研究する物理学の新しい分野としてプラズマ物理学が生まれ,最近とくに急速に発展しつつある。プラズマ物理学の中でも,とくにそれを電気的なふるまいを示す流体としての特徴を重視して研究する分野を電磁流体力学(MHDとも略称される)と呼んでいる。
【プラズマ研究の歴史】
 プラズマ研究の歴史を顧みると,前述のラングミュア以来主として放電物理という立場から弱電離プラズマの基本的性質が調べられた。…

※「電磁流体力学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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