デジタル大辞泉 「青年」の意味・読み・例文・類語
せい‐ねん【青年】
[補説]書名別項。→青年
[類語]若者・
もはや子どもではなく,しかもいまだ大人ではない人間の存在形態を広く指す。若者ともいう。どの年齢層をもって青年と呼ぶかは,時代と文化によって著しく異なる。だが今日いう青年は,18世紀半ば以降の近代産業社会の所産である。
古来から,年齢に応じての人間の変化が何ほどか認識され,いわゆる青春期の兆候が漠然とながら気づかれていた。たとえばアリストテレスは人の一生を子ども,青年,老人に3区分したが,青年は7歳から40歳ころまでを幅広く指した。
西欧では,18世紀にいたるまでどの社会層でも,子どもは7,8歳になると親を離れて他の家で召使や徒弟や寄宿学生として暮らした。その7,8歳ころから20歳代半ば以降に結婚して自立するまでの,比較的長い移行期に半依存状態にある者が広く青年と呼ばれた。彼らは,幼いころから職業訓練を始め,大人の性的役割を早くから引き受けていたが,その身体上の第二次性徴の訪れは19世紀半ばですら今日より数年ほどは遅れていた。そのためにライフサイクル上の諸課題は継起的であるよりも併発的であり,青年の境界はあいまいで自立性に乏しく,現在の青年期にあたる時期は,子どもと大人の両時期に引き裂かれていた。
産業社会は,工業化と社会分業の進展,そして近代家族,母性の神話,学校といった諸装置の発達によって,ライフサイクルを線型化するとともに,青年という独自の存在形態を生み出した。第1に,細分化されたライフサイクル上で青年は比較的自立した移行期の位置を占めており,同時に青年期内部での分化が進んだ。今日では,第二次性徴の見られる女子10歳,男子12歳ころから14,15歳ころまでを青年期前期(思春期前期),14,15歳ころから18,19歳ころまでを青年期中期(思春期後期),18,19歳ころから30歳ころまでを青年期後期と区分する場合が多い。第2に,青年は孤独と内面の嵐の中に,自我の確立をめざすという顕著な行動特性を示した。第3に,青年は生産労働者という社会的役割の予備部門となった。第4に,青年は産業社会のイデオロギーを内面化し,その秩序を再生産する者であった。第5に,そうしたすべての社会的役割を逸脱し,未到の文化の創造に挑戦することが期待されたのも青年であった。
産業社会の進展は,青年期を引き延ばしつつ,青年期後期をそれ以前の青春期adolescenceから区別される独自のユースyouthの時期に造型してきた。ユースとしての青年は,産業社会のモラトリアム(人生の免責・猶予期間)の矛盾が生み出した存在といえる。すなわち産業社会は,生産力を増大して,一方では,すでに性的に成熟した個体が,成人の負う社会的責任や義務を免除され,自由な遊びと実験の中にアイデンティティ(自己の存在証明,自己同一性)の形成におもむくモラトリアムを社会的に制度化するとともに,他方ではそのモラトリアムを主として学校教育に編入し,アイデンティティの自由な振幅を禁圧して,勤勉,合理性,競争,独立性,能率などを偏重する技術主義的な自我を育成しようとする。こうしたモラトリアムの矛盾のなかから,技術主義的な自我の独裁下に,アイデンティティの自発的退行と呼ばれる,産業社会が抑圧してきた潜勢力が高度産業化の進んだ1960年代以降に顕在化した。それは,産業社会から身を引くアイデンティティの能力であり,そのことによって,無垢(むく)なもの,性的なもの,秩序解体的なもの,人間的なもの,感性的なもの,創造的なもの,夢想的なものを解放する力である。ユースとしての青年は,こうしたアイデンティティの自発的退行によって特徴づけられ,一方では文化コードの変革者や若者のコミューンやエコロジー運動,あるいは〈緑の人々die Grünen〉におもむき,他方では,逸脱や非行や暴力の諸形態をとって現れる。
産業社会の内側からの突破の歴史的要請に従って,ユースとしての青年を導き手に,それに第三世界の青年像の提示とがあいまって,今日,技術主義的自我の独裁下に〈もう一つの青年像〉の産みの苦しみが萌芽的ながら始まっている。第1に,この青年は線型的な人生の階梯を歩むよりも,むしろ循環的・螺旋的なライフサイクルを生きようとする。第2に,この青年はもはや自我の確立をめざすことなく,逆に自我からの超出とより広い自己との遭遇を求める。第3に,この青年は生産価値から生活価値への移行を体現している。第4に,この青年はイデオロギーでなくコスモロジー(宇宙論)に関与する。第5に,この青年は子どもと大人の間に継時的に位置づけられるのでなく,子ども・若者・壮年・老人の属性をいわば横倒しにして共時的に抱えて生きる集合的存在となる,と考えられる。
→青年期
執筆者:栗原 彬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
森鴎外(おうがい)の長編小説。1910年(明治43)3月から翌年8月まで『昴(スバル)』に連載。Y県から上京した作家希望の美青年小泉純一は、まず、作家大石路花(ろか)を訪ねて満足せず、ついで、作家平田拊石(ふせき)の講演を聞いて、心をひかれつつも釈然としないところを、医大生大村荘之助(しょうのすけ)の講釈によって自得する。一方、たまたま観劇の場で知り合った坂井法学博士の未亡人と肉体関係をもつに至り、それに幻滅するという体験を経て、古伝説を現代化した作品を書こうと思い立つ。夏目漱石(そうせき)の『三四郎』を意識しつつ、当代の知識青年の心的成長を扱った作品で、当時としては珍しい思想小説である。ただし、小説としての膨らみには欠けるところがある。
[磯貝英夫]
『『青年』(岩波文庫)』
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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