政府が、国内で取引される商品と外国との間で取引される商品とを差別するように、関税以外の方法で直接間接の選別的規制を行うのを非関税障壁という。NTBと略称される。非関税障壁が国際協定などで問題となるのは、それが貿易を通じた世界の資源の適正配分を阻害し、各国の経済的厚生を低下させるからである。その意味では、国際間の資源の適正配分を損なわない貿易の規制は、選別的な規制であっても、非関税障壁ではないとされることもある。またそれは、外国との間で取引される商品を国内で取引される商品とは差別して規制するものであるから、資源の適正配分にひずみを生じるような政府の規制でも、取引全体に無差別に影響を及ぼすような措置は非関税障壁ではない。
非関税障壁にはさまざまなものがあり、1975年までにガット(GATT、関税および貿易に関する一般協定。世界貿易機関=WTOの前身)に通報された非関税障壁の項目数は800を超え、ガットはそれらを、政府の行政関与、税関および行政手続、各種基準、輸出入制限、輸入課徴金に区分した。非関税障壁はまた、(1)直接的輸入非関税障壁、(2)直接的輸出非関税障壁、(3)間接的非関税障壁、に分類されることもある。(1)は、政府が輸入を抑制するためにとる規制で、輸入割当制、輸入課徴金、輸入担保金、輸入ライセンス、国家貿易、差別的貿易金融制度などが、その例である。とりわけ輸入割当制は、その効果が直接的で確実であることから、しばしば用いられてきた制度である。(2)には、輸出補助金、輸出金融優遇措置、輸出優遇課税制などがあり、これらは輸出を促進することを目的とするものであるから、非関税障壁とよぶよりは、関税以外の政策手段によってもたらされる取引のゆがみといったほうが適切であろう。(3)は、もともと貿易の規制を目的としてとられる政策措置ではなく、別の目的でとられた措置がいわば派生的・間接的に貿易にも影響を及ぼすもので、内国消費税、政府調達、関税評価、工業規格、安全規格、食品衛生法、計量法、行政指導などがある。
貿易を規制する手段として、関税はその高さを客観的に把握することができるため国際交渉もやりやすく、ケネディ・ラウンドの関税交渉でかなりの引下げが実現したが、非関税障壁はつかみにくく、軽減や廃止は遅れ、その交渉が東京ラウンドの多角的貿易交渉で一つの重要な課題となった。交渉の結果、補助金に関する合理的な国際規律や相殺関税の発動要件を細かく規定した補助金・相殺措置協定、規格・認証制度の公開や外国供給者への開放などを定めた規格協定、政府調達の国際的開放などを決めた政府調達協定、関税評価方法の明確化や統一化を規定した関税評価協定、輸入手続の公開性と簡素化を規定した輸入手続許可(ライセンシング)協定、民間航空機・部品などの購入に対する政府の不介入などを規定した民間航空機協定、ダンピング防止税の発動要件や手続を明確にしたダンピング防止協定が生まれ、貿易のルールが整備された。
[志田 明]
『小島清・小宮隆太郎編『日本の非関税障壁』(1972・日本経済新聞社)』▽『エーリッヒ・バッツァー、ヘルムート・ラウマー著、鈴木武訳『日本の流通システムと輸入障壁』(1987・東洋経済新報社)』▽『田村次朗著『WTOガイドブック』(2001・弘文堂)』
自由な輸出入の流れを妨げている代表的な貿易政策の手段として関税があるが,それ以外にも貿易の障壁となる政策手段や制度,規定等が多数存在する。これら関税以外の貿易の障壁を非関税障壁という。NTBと略称する。たとえば,(1)政府関与関係(輸出補助金,政府調達等),(2)税関手続に関するもの(関税評価制度,評価手続,関税分類等),(3)各種の規準(工業規格,衛生・安全基準等),(4)各種の輸出入制限(輸入数量制限,輸出自主規制等),(5)輸入課徴金等(輸入担保金,課徴金等)などが挙げられよう。非関税障壁のなかには,輸出入を抑制しようという意図をもって行われる政策手段だけでなく,もともとは他の目的をもっている政策や規定が結果として輸出入の障害となっているものも多く含まれている。
非関税障壁が大きな関心を集めだしたのは1964年から67年にかけてのGATT(ガツト)の第6回貿易交渉(ケネディ・ラウンド)の前後からである。すなわち,第2次大戦後,GATTによる関税交渉によって関税率が徐々に引き下げられてきたが,とくにケネディ・ラウンドにおける大幅な関税一括引下げは,それまで関税の陰に隠れてあまり目だたなかった非関税障壁を貿易阻害要因として注目させるようになった。そして,1973年から79年にかけての第7回貿易交渉(東京ラウンド)では,関税引下げとともに,非関税障壁に関する交渉が進行し,いくつかの協定が締結された。さらに1986-93年のウルグアイ・ラウンドでは,日本の代表的な非関税障壁である〈残存輸入制限〉は,米を唯一の例外としてすべて廃止された。
自由貿易を促進し貿易からの利益を拡大していくには,関税の引下げ,撤廃とともに,非関税障壁の軽減,撤廃が必要である。これまで8回行われたGATTの貿易交渉は,関税引下げに関して大きな成果を挙げてきたといってよい。しかし,1970年代後半以降,世界的不況を背景として新保護貿易主義が台頭し,非関税障壁に基づく〈管理貿易〉が著しく増加しており,関税障壁の低下とは対照的に,非関税障壁の改善がほとんど進んでいないことが問題とされてきた。とくに日本に対しては,対アメリカ,対ECの大幅輸出超過を背景に,その通関手続,輸入検査基準,動植物の防疫手続,さらに独特の流通機構や系列取引などが,非関税障壁として改善が要求された。
執筆者:倉沢 資成
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…その結果,熱帯産品問題を中心として発展途上国側の不満が高まった。また非関税障壁軽減の重要性が指摘されたにもかかわらず,交渉の成果は〈アンチ・ダンピング・コード〉の設定にとどまった。これらの諸問題を解決し,より一層の貿易自由化を促すため73年9月に東京で開催されたGATT閣僚会議では,〈東京宣言〉が発表され,東京ラウンド交渉が正式に開始された。…
…輸出規制としては,戦略的目的からする輸出規制(たとえば,アメリカの輸出管理法による対ソ輸出規制)及び経済的目的からする輸出規制(日本の対米輸出規制)がありうる。輸入規制はきわめて多岐にわたるが,関税障壁と非関税障壁とに大別することができる。非関税障壁としては,輸入数量制限,輸入カルテル,ダンピング規制,相殺関税,政府調達の規制など多種多様なものがあげられる。…
…平均引下げ率は約40%で,引下げ後の最終平均税率はアメリカ4%強,EC5%弱,日本約3%となり,日本が最も低い水準となる。東京ラウンドではまた非関税障壁(NTB)にも重点がおかれ,貿易の技術的障害に関する(スタンダード)協定,輸入許可手続に関する(ライセンシング)協定等非関税措置に関する六つの国際協定,民間航空機に関する協定,貿易の枠組みの改善に関する合意および酪農品・食肉に関する2取決め,農業分野の協議枠組みが合意された。GATT【香田 忠維】。…
…広義には,関税や非関税障壁を撤廃し自由貿易の実現を目指す政策の施行をいう。狭義には,国際収支上の理由によって輸入制限を行うことを認めたGATT(ガツト)12条国から,これを認めない11条国になることに伴って行われる貿易自由化政策の実施をさす。…
※「非関税障壁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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