頚（読み）くび

精選版 日本国語大辞典

くび【首・頸】

1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
   1. ① 脊椎動物の頭と胴をつなぐ細くなっている部分。哺乳類や鳥類ではよく発達しているが、爬虫類以下の動物では、はっきりと分化していない。人間などの多くの哺乳類では七個の頸椎(けいつい)によって支持されているが、鳥類や爬虫類では種によって大きく異なる。広義には、生物の頭部とそれ以外の部分を隔てている部分をさす。頸部(けいぶ)。
      1. [初出の実例]「已にして素戔嗚尊と其(そ)の頸(クヒ)に嬰(うな)ける五百箇(いをつ)の御統(みすまる)の瓊(に)を以て」(出典：日本書紀（720）神代上（水戸本訓）)
   2. ② 物の、①に似た形。また、該当する部分。
      1. (イ) 一般的にいう。
         1. [初出の実例]「頭は倶に瓶の頸(クヒ)に繋け稍し寛縦なら令(し)む」(出典：蘇悉地羯羅経承保元年点（1074）中)
      2. (ロ) 琵琶の、鹿頸の別称。
         1. [初出の実例]「甲腹厚く覆手こはく頸ふとき比巴は、音ちいさくて」(出典：八音抄（1237頃）)
      3. (ハ) 琴(きん)の転軫(てんじん)の下の部分の称。
   3. ③ ( 領・襟 ) 衣服の、①をおおう部分。えり。
      1. [初出の実例]「其の襟(きぬのクビ)を取りて引き堕して」(出典：日本書紀（720）天武元年六月（北野本訓）)
   4. ④ ①を含めて、そこから上の部分。あたま。
      1. [初出の実例]「いとおほきにて、くびもすくよかなり。白き絹に柑子をつつめるやうに見えて、いと白くうつくしげなり」(出典：宇津保物語（970‐999頃）蔵開上)
   5. ⑤ ( 首を切られるの意から )
      1. (イ) 関係が断たれること。縁が切れること。
         1. [初出の実例]「とてもこんどはおさまらねへ此ものまへは首(クビ)だろう」(出典：洒落本・青楼真廓誌（1800）二)
      2. (ロ) 職を失うこと。失職。解雇。免職。
         1. [初出の実例]「ふざけた畜生だで折角辛苦して入(へえ)った一座をたちまちクビだ」(出典：春泥（1928）〈久保田万太郎〉向島)
   6. ⑥ 顔。容貌。また、よい顔、美貌、あるいはそのような人。美人。
      1. [初出の実例]「かかる所には看板の首(クビ)といふものありて、よい顔を門口のきっはしへ出してまねかすれば」(出典：洒落本・浪花色八卦（1757）花菱卦)
   7. ⑦ 遊女または茶屋女をさしていう語。
      1. [初出の実例]「『林沖さん花おしゃうさん。きついおみかぎりでこまります』『きのわるいくびだぞ。ちくしゃうめ』」(出典：洒落本・通気粋語伝（1789）上)
   8. ⑧ 見る目、嗅ぐ鼻だけの二つの頭部をもった鬼。地獄で、亡者の生前の善悪の業の一切を閻魔に告げ、罪の軽重を判定させるという。
      1. [初出の実例]「地ごくても目あかしをする首二つ」(出典：雑俳・柳多留‐二（1767）)
2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙 衣服など、身につけるものを数える時に用いる。
   1. [初出の実例]「水早 一頸、絹一丈五尺代」(出典：高野山文書‐文治元年（1185）一一月九日・阿氐河庄年貢送文案)

たて‐くび【項・頸】

1. 〘 名詞 〙 うなじ。えりくび。
   1. [初出の実例]「童(わらは)のたてくびをとりて、ひきとどめて云様」(出典：宇治拾遺物語（1221頃）一)

出典　精選版 日本国語大辞典