〈頭取〉の語は,雅楽の音頭(おんどう)(管楽器の主席奏者),能楽の頭取(《翁》の小鼓方の統率者)から転じて頭(かしら)に立つ人の意に用いられる。相撲で力士を統轄し興行に参加する者や,銀行,会社の代表取締役のこともいう。歌舞伎では劇場の楽屋内の職掌の一つ。一番太鼓のころに出勤し,楽屋入口に近い頭取座,着到板の前に控え,病気休演や舞台事故の処置,無用な者の楽屋立入りの監視,仕切場からの化粧料,日払い,焚捨の配分,終演時に観客に対し〈切口上〉を述べるまで,一切の楽屋進行や取締をする。寛永期(1624-44)に猿若勘三郎が門弟の中から古老の役者を座元の名代として置いたのが始まり。初めは権威もあったが,後年,立者(たてもの)の専属と化してからは,幕内の単なる事務担当となった。文楽の頭取も,歌舞伎の頭取と似た役割をする。
執筆者:富田 鉄之助
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
雅楽、能楽、歌舞伎(かぶき)の演奏に際し主奏者となる人、あるいは音頭(おんど)をとる人、音頭取をいう。転じて、江戸時代に至っては一般に頭(かしら)だつ人をいう。たとえば、火消し人足や鳶(とび)の者などの集団の長である人、首領、頭目をさす。このほかに、とくに楽屋頭取や相撲(すもう)の年寄をいう場合もある。前者は、歌舞伎劇場で楽屋いっさいの総取締り役をする名題(なだい)下の役者の呼称で、楽屋2階への階段の反対側に設けられた一段高い所にあった「頭取座」に控え、大切りには口上を述べるなど、中心的な働きをし、物わかりよく、顔の売れた古参の役者がこれを務めた。後者は、相撲興行にあたって、力士を統轄する者をいう。現在では、銀行や会社、組合などの取締役の首席で、その代表者となって業務執行の任にあたる者をいう。
[棚橋正博]
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