巨大な風車で風を受けてタービンを回し発電する方法。発電設備は主に風況の良い沿岸部や山間部などの陸上のほか、洋上にも設置されている。2011年の東京電力福島第1原発事故後、再生可能エネルギーの一つとして導入が進んだ。陸上より安定した風が吹くため効率的に発電できる洋上風力は、再エネ海域利用法などにより事業者が事実上限定されるが、陸上風力は森林法や自然環境保全法などを満たした上で設置できる。日本風力発電協会によると、21年末時点で国内に設置されているのは計2574基に上る。
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風のエネルギーを風車によって機械エネルギーに変換し、発電機を回して発電する方式をいう。
風の起源は太陽からの放射熱である。放射熱が大気や地表の状況の異なりによって分布が乱れ、温度差が生じて風が発生する。この風による風力エネルギーは、大気圏に入ってくる太陽エネルギーの約2%が変換されるといわれ、地球全体としてはきわめて大きなエネルギーとなる。風力発電の原理は、風の運動エネルギーを風車の回転運動に変換して取り出すものである。いま風のあたる受風面積をA、ρを空気の密度、vを風速とすれば、単位時間あたりの運動エネルギー、すなわちパワーはW=Aρv3/2で表される。つまり風力エネルギーは受風面積に比例して、風速の3乗に比例することとなる。このエネルギーのうち風車のタービンによって回転エネルギーに変換できるのは理論的に約60%が限界で、実際の風車エネルギーは空気の粘性、その他の影響などから約45%以下となる。つまり、受風面積半径1メートル、風速10メートル毎秒では約1キロワットの回転エネルギーが得られる。
[道上 勉・嶋田隆一]
風車の種類は水平軸風車と垂直軸風車に分けられ、前者の代表が高速タイプのプロペラ型で、減速比(風車と発電機の回転数比)を小さくできるので風力発電の用途に適している。風はその強さと向きを絶えず変化させるので、風力制御としてはこの変動する風を効率よく捕獲し、安定な出力を得るため、出力、回転速度を制御するピッチ制御と風向制御をつかさどるヨー制御が用いられている。
後者の垂直軸型は、ダリウス型が代表で風向きによらず発電できるためヨー制御は不要で、中心軸が避雷設備を兼ねるなど小型風車には適している。しかし回転速度が遅く、始動時のトルクが低いので弱風では始動しにくいなどの欠点がある。
プロペラ型風力発電の代表で1.5メガワットのシステムは、ローター(回転翼)の直径が66メートル、回転軸の高さ60メートルでジャンボジェット機を立てたような巨大な構造物である。風車が大きいほど高さが高いほど、能力が大きくなりワット当りコストが安くなるが、日本では陸上輸送の制限から2.5メガワットが限界であろう。輸送制限のない洋上風力発電では3メガワット、5メガワット機の導入が計画されている。
風力発電の先進国はドイツ、デンマーク、オランダである。とくにオランダの風車は観光資源としても有名であるが、これらの国は北海からの強い西風に恵まれている。これらの国では1975年ごろから始まる石油の高騰、原子力の衰退、地球温暖化に後押しされ、近代風力発電の開発に成功し、電力の30%を風力に頼るようになっている。ヨーロッパ全体では2020年に全電力の20%、2050年には50%を再生可能エネルギーでまかなうことを目標にしているが、そのほとんどは風力発電である。北海沿いの国では、暖房する冬に電力需要のピークがあり、北海からの強風は風力発電に都合がよく、政府主導による買い取り制度や、買い取り義務目標によって急速に進展している。世界の累積導入量は、1999年には14ギガワットだったものが、5年後の2004年には48ギガワットになって、10年後の2009年にはさらに160ギガワットと目覚ましい伸びを示している。これからは浅い北海にさらに大きな、1機5メガワットクラスの風車を数百機建設する洋上風力発電群の建設が計画されている。
発電システムとしては、羽の回転を、ギアを介さず、強力な磁石式の直径の大きな多極同期発電機で発電する方式が効率的である。多極ギアレス磁石式同期発電方式は半導体スイッチによるコンバーターで全電力を直流電力に変換し、インバーターで電力系統の配電線に接続する一方、ギア付き発電機方式は増速ギアを使って従来の発電機回転速度にして同期発電機を用いるか、または可変速交流界磁による巻線形誘導発電機を用いる。保守が困難で稼働率が重要な洋上風力発電では、コストが安く堅牢(けんろう)な、かご形誘導発電機方式も検討されている。
[嶋田隆一]
日本における風力発電の開発は海外での風力エネルギー利用の研究開発が活発化し始めた1975年(昭和50)ごろから開始され、環境保全上の重要なクリーンなエネルギーとして国のサンシャイン計画のなかで100キロワット級風力発電プラントの開発が取り上げられた。1980年始めは出力50キロワット機が主力であったが、1995年(平成7)時点で500キロ~800キロワット機が主力となり、1996年以降には1000キロ~1500キロワット機が登場した。現在は輸送制限の関係で最大の2500キロワット機が普及段階に達している。設備容量の現状は2007年(平成19)時点で、世界全体で100ギガワットのうち、日本が1.5ギガワット、アメリカ約16ギガワット、ドイツ22ギガワット、スペイン15ギガワット、イギリス2.4ギガワットとなっておりヨーロッパを中心に多く建設されている。2007年からはドイツが伸び悩む一方、インド、中国での風力発電の普及は目覚ましい。日本では地域の電力会社が発電と送配電を独占してきたので買電だけの運営はなじみがなく、民間、NPO(民間非営利組織)、地方自治体が風力発電設備をつくっても電力会社が電気を買い取ってくれない状況があった。グリーン電力として2012年までに3ギガワット(300万キロワット)の導入を義務化して目標としたが(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法=RPS法といわれた)、結局、国内全体で目標は達せられなかった。本格的普及は東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所事故のあと、その必要性が議論されている電力事業の構造改革がなされてからと思われる。大規模な開発例としては2008年青森県六ヶ所(ろっかしょ)村に1500キロワット機が34台、全体で51メガワットが完成している。単機容量の最大は、北海道根室(ねむろ)市の昆布盛(こんぶもり)にある風力発電所の2.5メガワット機である。日本はヨーロッパのように平野が広くなく山岳が多いため、建設が困難でこの容量が最大であるが、今後は洋上にさらに大型機を多数配置する洋上風力発電群の開発が期待されている。
日本では、発生電力の電力会社への卸売りに関して、2003年よりRPS法による買い取り量の目標と義務化を行い、さらに2012年7月1日より「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」で買い取り価格の保証制度などが実施され、このことが引き金となり急速に普及が進んでいる。
[嶋田隆一]
(金谷俊秀 ライター / 2011年)
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風のエネルギーを用いた発電。風車を用いて発電機を駆動するのがふつうであるが,風力でイオンを運ぶ直接発電も考えられる。風車としては水平軸形のプロペラ形風車と垂直軸形のダリウス形風車がよく用いられる。大規模で電力系統に接続されるものから,離島や山間僻地などの独立小電源まで幅広い利用範囲がある。風の条件に恵まれた場所に多数の風車をおいて発電する方式をウィンドファームと呼ぶが,アメリカ,カリフォルニア州に多い。大規模なものではプロペラの直径99m,出力3200kWがハワイのオアフ島に建設された。垂直軸のダリウス形ではカナダで直径64m,高さ56m,出力4000kWの例がある。またヨーロッパでも数多くの実施例や開発計画がある。例えばデンマークでは1997年現在風車4300基,総発電量の約5%をまかなっているという。日本では東北電力が青森県竜飛岬に建設した300kW,275kW各5基が代表例である。
風力は時間的変動が大きいので,とくに独立電源として用いる場合は蓄電池を充電するなどの貯蔵,あるいは他の発電方式と組み合わせるなどのくふうが必要になる。
執筆者:河野 照哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし,原子力発電の安全性についての不信感がぬぐいきれないことや,環境問題への関心の高まりを背景として,再生可能エネルギーへの期待は急速に高まっている。風車の技術進歩によるコストダウンが進んだ結果,アメリカの太平洋岸やデンマークなどの北欧諸国では風の条件のよい所で風力発電の建設が積極的に進められており,世界エネルギー会議の調査では1993年には,世界の風力発電設備能力は約320万kWに達している。また,太陽光発電については,大量生産によるコストダウンをねらって,各国が補助政策による需要の拡大を図っている。…
…以下に例をあげてみよう。
[風車,風力発電]
風車は古くはインドや中国などで,脱穀や製塩のために水を引き入れる道具として使われていた。ヨーロッパには12世紀ごろイスラム教徒によって伝えられ,14,15世紀ごろまで主として粉ひきの動力源として用いられていた。…
※「風力発電」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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