食道憩室(読み)しょくどうけいしつ(その他表記)Esophageal diverticulum

六訂版 家庭医学大全科 「食道憩室」の解説

食道憩室
しょくどうけいしつ
Esophageal diverticulum
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 食道憩室は、食道壁の一部がポケット状(嚢胞状(のうほうじょう)、テント状)に外側突出した状態で、表面は粘膜におおわれているものです(図11)。

原因は何か

 嚢胞壁に筋層がある先天性のものと、後天性のものがあります。

 また、発生のきっかけにより、食道の圧が高くなって筋層が弱くなった部分または筋層がない部分から粘膜が突出した内圧性憩室、食道の周囲に炎症があってテント状に突出した牽引性(けんいんせい)憩室があります。

 後者の典型的な例は、結核性(けっかくせい)リンパ腺炎(せんえん)が食道壁へ波及して、癒着した食道壁が引っ張られて憩室となる場合です。

症状の現れ方

 ほとんどが無症状で、多くは上部X線検査、内視鏡検査で偶然に見つけられるものです。

 症状を起こすものに、食道の入口にある憩室(ツェンカー憩室)があります。憩室内に食物が入り、袋が大きくなって食道を圧迫し、食物が飲み込みづらくなったり、つかえる感じがあります。また、袋のなかに食物が入ったまま横になると、食物が逆流して誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こしたり、袋にある食物が腐って口臭の原因になります。

検査と診断

 上部X線検査が有用で、嚢胞状、テント状の突出が認められれば診断できます。内視鏡検査では、入口部の憩室は見えにくい場合がありますが、憩室内の粘膜上皮観察には適しています。粘膜面の観察は、時に憩室内にがん合併することがあるため必要です。

治療の方法

 治療は、小さいものに対しては必要ありません。憩室による食道の圧排の強いもの、炎症を繰り返すもの、誤嚥の原因になる場合は、外科的な治療を行います。外科的治療は、嚢胞を切除する方法(憩室を切り取る)と、切除せずに縫縮する方法(縫い縮める)があります。

病気に気づいたらどうする

 検診などで、偶然に食道憩室と診断された場合、多くは経過観察で十分ですが、時に憩室様にみえる異なる病気もあるため、一度は専門医を受診することをすすめます。

村田 洋子


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「食道憩室」の解説

食道憩室(食道憩室・食道良性狭窄)

(1)食道憩室(esophageal diverticulum)
定義・概念
 食道憩室は食道壁から管外に囊状に突出した状態のことである.ほかの消化管の部位と同様に消化管壁のすべての構造を伴うものを真性憩室,筋層を欠くものを仮性憩室とよぶ.
原因・病因
 ほとんどが後天的なものである.どんな年齢層にもみられるが,加齢とともに頻度が高くなる傾向がある.消化管内圧の上昇によって押し出される圧出性憩室と食道の周囲の炎症などによって食道壁が牽引されて起こる牽引性憩室がある.好発部位により成因が異なり,咽頭食道憩室(Zenker憩室)は圧出性の仮性憩室であり,横隔膜上憩室も圧出性の仮性憩室であることが多い.中部食道憩室(Rokitansky憩室)は気管分岐部周囲の組織の炎症や瘢痕化によって起こる牽引性の真性憩室である.食道運動障害を伴うことが多いが,はっきりとした関連は報告されていない.
臨床症状
 憩室が小さい場合には無症状であることが多いが,まれに嚥下障害や胸痛,吐逆による夜間の咳の原因となることもある.
診断
 食道X線造影検査が最も有用な検査であり,食道外側へ囊状の突出として描出される.また,内視鏡でも憩室そのものの確認が可能であり,癌合併の有無の検索に有用である.
合併症
 食道運動障害を伴うものが多いため検索が必要である.また食道の通過障害を伴うものでは,吐逆による誤嚥性肺炎を伴うものがある.まれではあるが,出血穿孔,瘻孔形成,食道癌の合併などの報告もある.
治療
 無症状のものは治療の必要はない.通過障害や合併症を伴うものでは外科的切除を行う場合もある.中部食道や横隔膜上憩室で圧出性のものは食道運動障害を伴うことが多く,特に横隔膜上のものは食道アカラシアに伴うものがあり,憩室切除に加え,筋層切開などの手技を同時に行う必要がある.[保坂浩子・草野元康]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「食道憩室」の解説

しょくどうけいしつ【食道憩室 Esophageal Diverticulum】

[どんな病気か]
 食道の一部が外側に張り出す病気です。
 食道の弱い部分が内圧に押されて張り出してくる内圧性憩室(ないあつせいけいしつ)、周囲の組織が食道と癒着(ゆちゃく)し、食道を引っ張るためにおこる牽引性憩室(けんいんせいけいしつ)とがあります。
 憩室の発生した部位に応じて、咽頭(いんとう)食道憩室、気管分岐部(きかんぶんきぶ)憩室、横隔膜上(おうかくまくじょう)憩室に分けることもあります。
[症状]
 飲み込みにくい、声がれ、胸やけ、上腹部痛などを感じる人もいますが、まったく症状がなく、食道や胃のX線検査で偶然、発見されるケースもしばしばです。
[治療]
 出血、穿孔(せんこう)(憩室に孔(あな)があく)などのトラブルが発生したり、症状がとくに強い場合は、手術をして憩室を切除します。
 それ以外は治療の必要はありませんが、憩室にがんが発生することがあるので、年、1回程度の内視鏡検査が必要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「食道憩室」の意味・わかりやすい解説

食道憩室
しょくどうけいしつ

消化管憩室」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の食道憩室の言及

【食道】より

…また一般に胃の消化不良のときは,噴門の閉じ方が不完全となり,不快な胸焼け,おくび,口臭などの原因となる。【和気 健二郎】
[食道のおもな病気]
 食道のおもな病気には食道閉鎖症,食道異物,食道炎,食道潰瘍,食道アカラシア,食道癌,食道憩室などがある。(1)食道閉鎖症 先天的に食道の一部が欠損し内腔が連続していない奇形である。…

※「食道憩室」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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