内科学 第10版 「食道憩室」の解説
食道憩室(食道憩室・食道良性狭窄)
定義・概念
食道憩室は食道壁から管外に囊状に突出した状態のことである.ほかの消化管の部位と同様に消化管壁のすべての構造を伴うものを真性憩室,筋層を欠くものを仮性憩室とよぶ.
原因・病因
ほとんどが後天的なものである.どんな年齢層にもみられるが,加齢とともに頻度が高くなる傾向がある.消化管内圧の上昇によって押し出される圧出性憩室と食道の周囲の炎症などによって食道壁が牽引されて起こる牽引性憩室がある.好発部位により成因が異なり,咽頭食道憩室(Zenker憩室)は圧出性の仮性憩室であり,横隔膜上憩室も圧出性の仮性憩室であることが多い.中部食道憩室(Rokitansky憩室)は気管分岐部周囲の組織の炎症や瘢痕化によって起こる牽引性の真性憩室である.食道運動障害を伴うことが多いが,はっきりとした関連は報告されていない.
臨床症状
憩室が小さい場合には無症状であることが多いが,まれに嚥下障害や胸痛,吐逆による夜間の咳の原因となることもある.
診断
食道X線造影検査が最も有用な検査であり,食道外側へ囊状の突出として描出される.また,内視鏡でも憩室そのものの確認が可能であり,癌合併の有無の検索に有用である.
合併症
食道運動障害を伴うものが多いため検索が必要である.また食道の通過障害を伴うものでは,吐逆による誤嚥性肺炎を伴うものがある.まれではあるが,出血,穿孔,瘻孔形成,食道癌の合併などの報告もある.
治療
無症状のものは治療の必要はない.通過障害や合併症を伴うものでは外科的切除を行う場合もある.中部食道や横隔膜上憩室で圧出性のものは食道運動障害を伴うことが多く,特に横隔膜上のものは食道アカラシアに伴うものがあり,憩室切除に加え,筋層切開などの手技を同時に行う必要がある.[保坂浩子・草野元康]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報