中国が北方民族から馬などを買うために開いた定期市。明代に長城付近で開いたものが重要である。まず1405年(永楽3)ウリヤンハイや海西女直のために遼東の開原に開き,のち建州女直のため撫順(ぶじゆん)に開き,明末に及んだ。モンゴル(韃靼)のためには1551年(嘉靖30)に一時開いたが,本格的には71年(隆慶5)アルタン・ハーンとの和議成立後,大同,宣府などで開き,明末まで続いた。オイラート(瓦剌)との馬市は1438年(正統3)から10年間だけ大同で開いた。馬市は年1回の大市と月ごとの小市が開かれ,初め官市が中心だったが,のち私市が盛んになった。交易品は北方民族側は馬,その他の家畜,毛皮など,明側は絹,穀類,銅・鉄器などであった。明は最初軍馬購入の必要から市を開いたのだが,のち馬はあまり必要でなくなった。しかし北方民族との友好関係の維持のために中止できず,馬以外の商品も購入する形で市を存続させた。馬市は北方民族と中国のあいだに古くから行われた〈絹馬交易〉と同質のものである。
執筆者:吉田 順一
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馬を売買する市。馬は古代では多く貢納・交易などにより調達されていたが、中世以降、武家の軍事的需要および経済的発展に伴う農耕馬、運輸用の駄馬としての需要が急増し、牛市と並んで馬市が立つようになった。『祇園執行(ぎおんしぎょう)日記』にみえる1343年(興国4・康永2)の京都五条室町の馬市は、文献上に現れた古い例とされている。戦国時代になると、諸大名は軍事上の必要から、領内の馬市の保護育成に努めた。織田信長が安土(あづち)城下町を経営するにあたって、馬市を安土にのみ認めたことなどはその一例である。江戸時代になると馬の需要はいっそう拡大し、各地の馬市も整備されたが、古くからの馬産地帯であった東北地方諸藩の馬市が名高い。幕府や藩などの買上げも行われたため、領主の規制を強く受けた馬市もある。たとえば南部藩では、城下町盛岡のほか26か所に馬市を設けさせ、市場は代官が管理し、藩の役人が出張して売買に立ち会い、藩用の御用馬は優先的に買い上げた。明治以後にも、馬は農耕、運搬、軍馬として重視されたため、東北地方ではとくに産馬の奨励が行われ、馬の定期市がにぎわったが、戦後、農業機械化の進行とともに衰えた。
[村井益男]
中国、明(みん)代に遼東(りょうとう)と宣大に設けられた定期市(いち)。女直(じょちょく)、ウリヤンハイ(兀良哈)、オイラート(瓦剌)、タタール(韃靼)など明の北方に位置した諸民族との馬を中心にした交易を名目としたが、実際には明側は多大の出費を要したのであり、北アジア諸民族の侵攻を防ぐための懐柔政策の一つであった。遼東馬市は女直、ウリヤンハイのために永楽(1403~24)初期に開原、広寧(こうねい)に設置され、のちには建州女直を対象として撫順(ぶじゅん)にも開かれ、万暦(1573~1619)末年まで続いている。宣大馬市はオイラート、タタールを対象とし正統年間(1436~49)の大同開市に始まり、ついで宣府、のちには寧夏(ねいか)、甘粛(かんしゅく)にも及んだ。途中で変遷はあるが明末まで続いた。政府買取りの官市のほかに民間取引の私市も開かれ、家畜、毛皮の北方産物と、織物、穀物、日常雑貨の中国物産が交易された。
[松村 潤]
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…この米場は,江戸期大坂の堂島米市場の先駆をなすものである。京都にも馬市があったが,戦国時代には,各地に,馬市,牛市が立てられた。美濃国大矢田市も,美濃紙特産地の市として,紙が取引の主要商品であり,その紙を買い付けて京都へ運ぶ専門の商人,近江湖東の枝村商人が存在したのである。…
…貴人の乗用という観念が強かったため庶民,農民は通常乗馬せず,農耕にも一部地方を除いて使役されず,わずかに厩肥が肥料として使用されたにとどまる。 馬の売買はおそらく鎌倉時代から盛んになったと思われ,室町時代には奈良や京に馬市が立ち,また諸所の社寺の門前市でも馬の取引が行われた。近世には盛岡,秋田,仙台,岩沼,白河など産馬地の奥羽地方や江戸馬喰町(のち浅草),信州木曾福島などに大きな馬市があった。…
※「馬市」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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