高等教育機関法制(読み)こうとうきょういくきかんほうせい

大学事典 「高等教育機関法制」の解説

高等教育機関法制
こうとうきょういくきかんほうせい

日本の法制では,学校教育法規定の下で,高等学校の卒業およびそれと同等の資格を入学資格とする学校に,短期大学を含む大学と専修学校の専門課程(専門学校)がある。また,大学卒業相当を入学資格としているものに大学院と大学の専攻科がある。中学校卒業を入学資格としているものの,修業年限が5年または5年半で卒業が短期大学と同等になるものに高等専門学校がある。これらのうち文部科学省が行う「学校基本調査」においては,大学院を含む大学,短期大学,高等専門学校を高等教育機関としており,専修学校は入学レベルに特定がない各種学校とともに,高等教育機関にも初等中等教育機関にも当たらないものとして別記されている。ただし,審議会答申などの文部科学省の政策文書の中で,専門学校は高等教育機関として扱われている場合も多い。

 こうした高等教育概念の曖昧さは,法制の曖昧さに由来している。そもそも,法令上には高等教育,高等教育機関という用語はない。2007年の改正前の学校教育法には「高等普通教育」の記述があったが,これは高等学校の教育のことであった。その記述も改正後には「高度な普通教育」になっており,高等教育(日本)は法令上の用語としては存在しないのである。

 もともと高等教育の用語はハイヤーエデュケーション(higher education)の訳語として普及したものであるが,欧米におけるハイヤー・エデュケーションは,ディグリー(degree)の意味での学位プログラムを指しており,中等教育の修了の上にある教育であっても,それ以外のものはポスト・セカンダリー・エデュケーション(post-secondary education),訳せば中等後教育であっても高等教育外のものと区別される。最近普及してきているターシャリー・エデュケーション(tertiary education)もハイヤー・エデュケーションとほぼ同義である。ユネスコが加盟国全体に共通なものとして設定している国際標準教育分類(ISCED)の1997年版では,レベル4を中等後・非高等教育(post-secondary non-higher education)としてレベル5・6の高等教育(higher education)と区別していたし,近年になって使用が開始されている2011年版では,レベル4の中等後・非高等教育をレベル5から8の短期ターシャリー(short-cycle tertiary),学士または同等(bachelor or equivalent),修士または同等(master or equivalent),博士または同等(doctoral or equivalent)と区別している。

 それと対照してみると,日本の高等教育概念はきわめて曖昧であることが分かる。まず,かつて高等学校の教育を高等普通教育(日本)としてきたように,もともと高等教育は高等学校の教育を意味した。これはアメリカの同等機関がハイスクール(high school)であることに対応してはいるものの,アメリカの場合はハイ(high)であってハイヤー(higher)ではない。実は,英語のハイヤーが比較級であるのには,相当の意味があると考えられる。そもそも英語では,初等教育(elementary)教育の次にくるのはsecondary education,そのまま訳せば第2段階教育であって中等教育ではない。つまり,それは初等教育の延長というニュアンスを持つ。それに対して比較級を用いたハイヤーは,それから隔絶した,質的に違うものというニュアンスを持つのであり,それは単に第2段階の卒業後の教育,ポスト・セカンダリー一般の教育ではない,学位に繫がる研究的な質を含んだ教育だけを意味しているのである。しかし日本の場合,大学ですら1991年まで,その卒業者の称号である学士を学位ではないとしてきたし,1991年から導入された短期大学卒業者の称号である準学士は学位ではないとしていて,2005年にいたってそれを短期大学士と改めて学位に列した。一方,高等専門学校の卒業者に同じく適用された準学士は今でも,学位ではないとされている。こうしたことから,日本の高等教育概念が学位を基準に用いられているものでないことは明らかである。

 その一方で,専門学校が高等教育機関に分類されたりされなかったりの状態にあるのには,それが当該の卒業者の称号の専門士,高度専門士が学位に列されないということとは関係のない理由がある。それは,この学校種が学校教育法第1条で学校の種類とされている,いわゆる一条校ではないからである。学校教育法は,実にイロジカルな規定を重ねている法律で,その第1章の第1条で,「この法律で,学校とは,幼稚園,小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,大学及び高等専門学校とする」と明記しておきながら,その第11章を「専修学校」とし,「第一条に掲げるもの以外の教育施設で,職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し,又は教養の向上を図ることを目的として次の各号に該当する組織的な教育を行うもの(略)は,専修学校とする」と,学校ではない教育施設を専修「学校」と名付けて法定しているのである。専門学校とは,そうした専修学校のうち,高等学校における教育の基礎の上に教育を行う課程である専門課程を置く専修学校が「称することができる」名称であって,他の学校の名称のような特定の学校種の名称ではないのである。ちなみに学校教育法には第12章雑則に「第一条に掲げるもの以外のもので,学校教育に類する教育を行うもの」で,専修学校以外のものを「各種学校」としており,さらに学校ならざる「学校」を法定している。
著者: 舘 昭

参考文献: 舘昭『改めて「大学制度とは何か」を問う』東信堂,2007.

参考文献: 舘昭『原理原則を踏まえた大学改革を』東信堂,2013.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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