高血圧性脳症(読み)こうけつあつせいのうしょう(英語表記)Hypertensive encephalopathy

六訂版 家庭医学大全科 「高血圧性脳症」の解説

高血圧性脳症
こうけつあつせいのうしょう
Hypertensive encephalopathy
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 頭痛、視力障害けいれん、意識障害などの症状が血圧上昇に伴って起こるものです。

 脳の血管には、血圧の上昇・下降に対して血管を収縮・拡張させて血管抵抗を増大・減少させ、脳の血流を一定に保とうとするはたらきがあります。これを脳血管の自動調節能といいます。しかしその調節能の範囲を超えて血圧が著しく上昇すると、脳血流は異常に増え、脳の毛細血管内から血管外へ血漿(けっしょう)成分がしみ出して脳にむくみを起こし、頭蓋内圧が亢進します。このような現象を高血圧性脳症といい、悪性高血圧子癇(しかん)(一種の妊娠高血圧症)などの際にみられます。

症状の現れ方

 頭痛、悪心(おしん)吐き気)、嘔吐などのいわゆる頭蓋内圧亢進(ずがいないあつこうしん)症状が起こります。さらに悪化するとけいれん、意識障害などを起こします。放置すると脳出血や心不全、腎不全により死亡します。

検査と診断

 血圧の著しい上昇がみられ、とくに拡張期血圧(低いほう)が120㎜Hg以上に上昇しています。頭部CTやMRIでは、脳のむくみの所見がみられますが、大きな梗塞(こうそく)や出血はありません。

治療の方法

 すみやかに血圧を下げる必要があります。降圧がすみやかに得られ、用量を調節しやすく、また効果が確実な静脈内投与の降圧薬で治療します。脳のむくみに対する抗脳浮腫薬(こうのうふしゅやく)や、けいれんがある場合には抗けいれん薬が必要です。

病気に気づいたらどうする

 ただちに神経内科専門医の診察を受けてください。

髙木 繁治

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

食の医学館 「高血圧性脳症」の解説

こうけつあつせいのうしょう【高血圧性脳症】

《どんな病気か?》


〈高血圧や腎臓病などを日ごろから改善する〉
 高血圧性脳症(こうけつあつせいのうしょう)は、脳動脈の動脈硬化と、急激な血圧上昇によって起こる疾患です。
 短時間のうちに、収縮期血圧が250mmHg、拡張期血圧が150mmHg程度まで上がると、脳圧が上がり、脳がむくんでしまいます。そのために、はげしい頭痛や嘔吐(おうと)、視力低下、言語障害、軽い意識障害などがみられます。そのまま放置しておくと、けいれんを起こしたり、昏睡状態(こんすいじょうたい)におちいることもあります。
 しかし、多くは血圧を下げることによって改善されます。
 重症な高血圧症、腎臓病(じんぞうびょう)、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)などによるものが多く、それらの疾患の予防・改善と、日ごろから血圧の上昇を防止することがたいせつです。

《関連する食品》


〈コレステロールを減少させる食品で予防〉
 動脈硬化と血圧の上昇を防止するためには、コレステロールを減少させる食品が有効です。
○栄養成分としての働きから
 シイタケに含まれるエリタデニンという成分は、コレステロールを体外に排泄する働きがあり、とくに天日干しの干しシイタケが効果があります。
 また、イワシサンマ、アジ、サバなどに豊富に含まれ青背の魚に含まれるDHAやIPAなどの不飽和脂肪酸(ふほうわしぼうさん)、リンゴやイチジク、イチゴ、キウイなどに含まれる食物繊維の一種のペクチンダイズなどの植物性たんぱく質、コンブやワカメ、寒天などに含まれるアルギン酸なども同様の働きがあります。
 また、毛細血管を拡張し、血圧を下げるには、アスパラギン酸が有効で、アスパラガスに多く含まれています。
○漢方的な働きから
 血圧を下げて、動脈硬化を防ぐには、タマネギを積極的に摂取しましょう。
 もちろんふだんどおりにタマネギを料理に使っても効果が望めますが、漢方的には薬用として利用するには、外側の薄茶色の皮を煎(せん)じて飲むようにします。約5gの皮を600mlの水で煮つめ、1日3回、空腹時にあたためて飲みましょう。

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改訂新版 世界大百科事典 「高血圧性脳症」の意味・わかりやすい解説

高血圧性脳症 (こうけつあつせいのうしょう)
hypertensive encephalopathy

高血圧に伴って急激かつ一過性に脳症状の出現するものをいう。いかなる原因による高血圧でも生ずるが,悪性高血圧,糸球体腎炎および子癇などによることが多く,発症年齢は原因となる疾患のそれと同じである。脳症状としては,しだいに強くなる頭痛,嘔吐,てんかん様痙攣(けいれん)発作が多く,精神障害(錯乱),ついで意識障害(傾眠~昏睡)が出現する。視力障害(黒内障),失語,片麻痺などが生ずることがある。病因は,単一のものではなく,高血圧に伴う脳の循環不全,小梗塞(こうそく),小出血,脳浮腫などが関係していると考えられている。治療は安静にして降圧剤や抗痙攣剤を用いるが,脳症そのものの回復は良好であり,最終的な予後は高血圧を伴う基礎疾患の重篤度いかんによる。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「高血圧性脳症」の意味・わかりやすい解説

高血圧性脳症
こうけつあつせいのうしょう

著明な高血圧に伴って現れてくる急性の中枢神経障害。激しい頭痛、嘔吐(おうと)、悪心、視力障害などとともに、けいれん発作、意識障害、昏睡(こんすい)などの症状がみられる。高血圧は本態性、腎(じん)性、内分泌異常などいろいろな原因によっておこるが、急激に血圧が200ミリメートル水銀柱以上に上昇し、脳実質に細かい出血がびまん性に発生したためにおこる症状である。脳血栓や脳出血とは異なり、脳のびまん性障害を示してくるのが特徴である。視力障害は網膜の出血によっておこることが多く、眼底検査によって点状出血が確かめられる。びまん性の小出血と脳浮腫(ふしゅ)によっておこる症状であるため、治療としては、血圧を下げ、脳の浮腫をステロイド剤などによって除去すれば、脳症状はかなり改善してくる。高血圧の治療も根本的に行わなければ完全には治らない。

[里吉営二郎]

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家庭医学館 「高血圧性脳症」の解説

こうけつあつせいのうしょう【高血圧性脳症 Hypertensive Encephalopathy】

[どんな病気か]
 急激な血圧の上昇(典型的な例では、収縮期血圧250mmHg、拡張期血圧150mmHg前後と著しく高い)のために、脳圧が上がって脳がむくみ(脳浮腫(のうふしゅ))、激しい頭痛、吐(は)き気(け)、嘔吐(おうと)、意識障害、視力障害、手足のけいれんをおこした場合を、高血圧性脳症といいます。
[原因]
 進行した高血圧症、腎臓病(じんぞうびょう)、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、血圧を高くする物質を分泌(ぶんぴつ)する腫瘍(しゅよう)(褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)や原発性(げんぱつせい)アルドステロン症など)が原因でおこりますが、高血圧性脳症になるまで血圧が上昇するのは比較的まれです。
[治療]
 放置すると脳浮腫が強くなり生命にかかわるので、緊急に入院する必要があり、降圧薬を使用して血圧を下げ、症状を落ちつかせます。CTでくも膜下出血や脳出血でないことを確認した後、原因となっている病気の治療を行ないます。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「高血圧性脳症」の意味・わかりやすい解説

高血圧性脳症
こうけつあつせいのうしょう

脳虚血発作」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の高血圧性脳症の言及

【脳卒中】より

…また,中風(ちゆうふう∥ちゆうぶう)または中気という言葉が脳卒中と同義に用いられることもあるが,一般には,卒中発作後,後遺症として半身不随(片麻痺)などの運動麻痺を残した状態をいうことが多い。
[原因疾患]
 (1)脳出血(脳溢血(のういつけつ)),(2)脳梗塞(のうこうそく),(3)くも膜下出血,(4)高血圧性脳症などがある。脳出血は脳における急激な出血をいい,脳梗塞は脳動脈の狭窄や閉塞のために,その動脈に栄養される領域の脳組織が壊死におちいったものである。…

※「高血圧性脳症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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