総人口に占める高齢者人口の割合が高まっていく社会をいう。一般的に人口統計では、高齢者を65歳以上と定義することが多いが、60歳以上を高齢者とする場合もある。本項では65歳以上を高齢者として述べる。
総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)によって社会の高齢化の程度を表す。老年人口割合とよぶこともある。
日本の高齢者人口は、1947年(昭和22)の国勢調査では400万人弱で、総人口の4.8%に過ぎなかった。1960年には500万人強となったが、高齢化率は5.7%にとどまっていた。1960年代後半から徐々に高齢者人口は増加を始め、1970年には700万人強に達し、高齢化率が日本の人口統計史上初めて7%を超えた。この7%という水準を超えると高齢化率は急速に上昇していくことが、人口転換過程(多産多死から少産少死への人口動態変化)の研究から明らかにされており、1970年前後が日本の人口高齢化の始まった時期であるとみられている。その後、1979年に高齢者人口1000万人高齢化率8.9%、1998年(平成10)に同2000万人で同16.2%、2010年(平成22)同2900万人で同23.1%となるなど、人口高齢化は急速に進んだ。
この要因の一つとして、大正から昭和初期にかけての出生数の大規模な増加と、死亡率の低下(長寿化)があげられる。1947年(昭和22)の平均寿命は男性50.1年、女性54.0年であったが、2010年(平成22)は男性79.6年、女性86.4年と飛躍的に伸びた。年間60~90万人という急速な高齢者人口の増加は1990年代から始まったが、これは大正、昭和初期の多産時代に生まれた人々の加齢効果が反映されたものである。日本の高齢者人口の増加は過去に用意されていたといえる。
今後の高齢者人口の動向を、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口の結果からみると、戦後の大規模出生集団である1947(昭和22)~1949年生まれの「団塊の世代」が65歳になり始める2012年には、3000万人を超える。彼らがすべて65歳以上となる2014年には、高齢者人口は3300万人弱に達するが、増加はしだいに鈍くなり、2040年代に入ると緩やかな減少傾向に入るものとみられている。
一方、高齢化率の趨勢(すうせい)はまったく様子が異なる。2024年に30.0%、2055年には40.5%へと持続的に上昇を続け、2.5人に一人が高齢者になると推計されている。人口再生産を安定的に支える合計特殊出生率(以下出生率とよぶ)はおよそ2.07であるが、それを大きく下回る(2010年で1.39)低出生率社会が出現した結果、次世代の人口供給規模が縮小した。15歳から64歳の生産年齢人口規模は1995年(平成7)に8717万人とピークに達し、2000年に8622万人、2010年に8073万人と、その後減少し続けている。若者世代の人口減少が進むので、2020年前後から高齢者人口の増加が停滞化しても、高齢化率の上昇に歯止めがかからないことになる。
今後は、
(1)出生率が低く推移すれば高齢化率は高くなる
(2)これまでの少子化の影響を受けて、今後40~50年間は高齢化が進行する
(3)長期的には、出生率が2.07近くに回復すれば徐々に高齢化は収まり、現在想定されている水準より低く推移する
と考えられる。
日本が高齢化率40%という超高齢化社会になるかどうかは、今後の出生率の行方にかかっている。それゆえ、社会保障における少子化対策を含む家族政策のもつ意味は極めて大きい。欧州先進諸国は、家族政策の展開により一時期の少子化を脱し、多くの国々で出生率は反転上昇してきている。国連の将来人口推計によると、フランスの2050年の高齢化率は24.9%(2009年の出生率1.99)、イギリスは23.6%(同1.94)、ドイツが30.9%(同1.36)と、出生率動向の違いが高齢化へ及ぼす影響の大きさを示している。
高齢化社会の進展は、健康的で豊かな暮らしを営むために必要不可欠な医療需要を増大させ、医療資源の確保や経費、医療サービス提供体制、受給者の窓口負担ならびに保険者(健康保険組合など)の保険給付等に大きな負担を強いることになる。また、要介護老人の増加に対する社会的支援制度の拡充も必要である。年金保険・老人福祉サービス・高齢者雇用継続給付などへの影響も大きい。たとえば社会保障給付費の総額は、1970年(昭和45)では3兆5239億円であったが、2008年(平成20)では94兆0848億円と26.7倍になっている。
高齢化社会の支え手(働き手)人口の減少により、人口負荷(population onus)が高まり、政府の財政を圧迫し、現役世代への負担の増加や医療・福祉サービスの低下につながらないとも限らない状況を生み出しつつある。したがって、高齢者雇用の促進や男女共同参画社会の実現など、持続可能な社会保障の仕組み再構築が喫緊の課題である。
[髙橋重郷]
『阿藤 誠著『現代人口学――少子高齢化の基礎知識』(2000・日本評論社)』▽『河野稠果著『世界の人口』(2000・東京大学出版会)』▽『岡崎陽一ほか監修、エイジング総合研究センター編著『21世紀高齢社会の基礎知識――少子・高齢社会とは』(2002・中央法規出版)』▽『大淵 寛・橋重郷編著『少子化の人口学』(2004・原書房)』▽『白波瀬佐和子著『少子高齢社会のみえない格差――ジェンダー・世代・階層のゆくえ』(2005・東京大学出版会)』▽『国立社会保障・人口問題研究所編『日本の将来推計人口――平成18年12月推計』(2007)』▽『京極高宣・橋重郷編『日本の人口減少社会を読み解く――最新データからみる少子高齢化』(2008・中央法規出版)』▽『津谷典子・樋口美雄編『人口減少と日本経済――労働・年金・医療制度のゆくえ』(2009・日本経済新聞出版社)』▽『厚生労働省監修『厚生労働白書』各年版(ぎょうせい)』▽『内閣府編『高齢社会白書』各年版』▽『United NationsWorld Population Prospects ; The 2010 Revision(2011)』
人口構造が高齢化していく状態にある社会をいう。人口の高齢化を示す指標はいろいろあるが,通常は総人口に占める高齢(65歳以上)人口(65歳以上人口,老年人口ともいう)の割合を示す老年人口の年齢構造係数(老齢人口比率)とか,生産年齢人口(15~64歳人口)に対する老年人口の割合を指数化した老年人口指数などがよく使用される。人口高齢化の原因は,その社会の人口が人口移動のない封鎖人口であるかぎり,出生率,死亡率の低下がある程度持続された結果とされている。なお出生率,死亡率の低下が持続的に続くという状態(人口転換現象とか人口動態革命という)は,社会が産業化する過程と関連しておこることが,経験的に明らかにされていることから,高齢化社会は産業化と結びつけて,後期産業化社会あるいは脱産業化社会と合わせて,論議をする場合もある。
日本の高齢化社会の始期をいつごろとするかについては必ずしも一致した見解があるわけではないが,総人口に占める高齢(65歳以上)人口の割合が7%台になった1970年ころを始期とする主張が一般的である。そしてその後の高齢人口割合の推移をみていくと,80年に9.1%,90年に12.1%,95年に14.6%となっている。厚生省の社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると,2000年に17.2%,2010年22.0%,2020年26.9%,2030年に28.0%と急速に高まっていくとされている。今後の日本の高齢化社会は出生率の低下傾向が続くことによって,新たに少子・高齢化社会という言葉が登場するようになってきている。このなかでとくに留意すべき点として,(1)人口高齢化の速度が異常に速いということ,(2)老年人口の比率が著しく高く,絶対数が多いこと,(3)増大する高齢人口のうち,とくに80歳以上の高齢者が激増していくこと,(4)これまでの高齢化社会は従属人口指数(年少人口と老年人口の和を生産年齢人口で割った指数)が史上最低まで低下していくなかで高齢化を迎えたのに対して,21世紀の高齢化は従属人口指数が急速に高まっていくなかで展開していくこと,などがあげられる。
これに加え今後の経済,社会の変動と関連する人口の動きのなかで,これからの高齢化社会にいくつかの留意すべき問題が生じてくる。たとえば核家族化がいっそう進み高齢単身世帯や高齢夫婦世帯が増えるなどの事情によって家族形態や家族機能が変化し,経済構造の変化,高学歴化,女性の社会参加の機会の増大などが顕著になっていく。このために一方では80歳以上の高齢者の増加に伴う虚弱あるいは障害老人の激増が予想され,他方では家族介護や女性の介護負担によって支えられてきた介護問題が深刻化し,介護の社会化は避けることのできない問題となってきている。また予想以上の少子・高齢化の進展と従属人口指数の高まり等によって,従来予想していた以上に社会保障給付費の増加がみられるのに対して,それを負担する条件は従来以上に悪化するために,社会保障構造そのものの見直しは必至となってきている。これに加え高齢者や女性の労働力化率の促進が課題となり,高齢化社会における雇用問題に新しい課題を生み出すことになる。あるいは人口の社会移動の変化により,地域別の人口高齢化にいろいろの変化が現れる。たとえばこれまで人口高齢化が著しく進展してきた過疎地域の高齢化がこれまで以上に進むとともに,他方では人口移動率の低下,定住化傾向の進展によって,これまで比較的おくれていた大都市地域でも今後急速に人口高齢化が進展し,都市型高齢化社会が現れ,21世紀に本格化する高齢化社会に新しい問題を投げかけることになる。
このような変化とは別に,日本の高齢化社会は,現在とは異なる経済・社会・文化などの発展状況とのかかわりのなかでとらえることも重要である。たとえば経済の低成長やサービス経済化の進展が人口高齢化にどのような影響を与えるかとか,あるいはマイクロ・エレクトロニクスやロボットなどの先端技術の発展や情報化社会の進展が高齢化社会に与える影響など,本格化する高齢化社会をとらえるいろいろの視点がありうるのである。
したがって人口高齢化を契機に現れる高齢化社会の課題は,たんに増大する高齢者の問題とか,あるいはこれら高齢者の老後生活に欠かすことのできない保健,福祉あるいは年金などの所得保障の問題だけではなく,より広く多面的にとらえられる必要がある。すなわち高齢化社会の課題は高齢者問題にとどまらず,各世代の問題として,ひいては全国民の課題として理解されなければならない。そして高齢化社会の問題を明らかにするためには,いろいろな学問・研究領域の協力を内容とする学際的接近が必要になるとともに,高齢化社会への対応を図るためには行政面でも各省庁の枠をこえた努力が求められることになる。
→人口 →老人福祉 →老年学
執筆者:三浦 文夫
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