鳴く虫(読み)なくむし

改訂新版 世界大百科事典 「鳴く虫」の意味・わかりやすい解説

鳴く虫 (なくむし)

音色が鑑賞できる昆虫をまとめて呼ぶ場合の俗称であるが,人によって包含する種類は異なる。一般的には直翅目のコオロギ科とキリギリス科に属する昆虫を指しバッタ科のものは除かれる。なお,セミ類を含めることもほとんどない。日本には古くから虫の音を楽しむ風潮があって季題にも多くの種類があげられている。元来山野で虫の音を楽しむもので,今でもこうした催しが各地で開かれているが,江戸時代(寛政年間)に虫売という商いができ,続いて飼育繁殖させる技術も開発され,家庭で各種の鳴く虫を飼い,音色を楽しむようになった。日本には約130種の鳴く虫が分布し,コオロギ科はその半数を占めている。

 コオロギ科の種類は頭が丸く体は外見上扁平で黒褐色のものが多い。また多くのものが地上で生活している。しかしいずれも例外がある。例えばカンタンは淡黄色で灌木の上で生活し,アオマツムシは鮮やかな緑色で高木の上で鳴いている。エンマコオロギをはじめ多くのコオロギ類は地上や朽木の中などにすみ,雌は針状の産卵管をつきさして地中に卵を産む。

 キリギリス科の種類は頭の先がとがっているものが多く触角は長い。体は外見上左右に扁平で後脚が発達している。緑色の種類が多いがクサキリのように褐色のものもある。産卵管は平たく刀か鎌のような形で,種類によって植物の組織内に産むものと地中に産むものとがある。いずれも鳴くのは雄で,前翅にある翅脈上の〈やすり〉をもう一方の翅の硬い部分で摩擦して音を出す。コオロギ科は右翅の裏,キリギリス科は左翅の裏にやすり(発音用突起)があり翅の重ね方が逆である。種類によってリズムメロディーが決まっていて周波数も幅はあるが一定である。例えばスズムシは3.9~4.5kHzである。同一種でもひとり鳴き,ラブソング,けんか鳴きと鳴き方を変え,同種間または異性とのコミュニケーションの媒体になっている。しかし従来唱えられているほど合目的的でもなく寄ってきた雌に雄が直ちに反応しないなど今後に残された研究課題は多い。

 なお,近年雌も発音して雄と交信するとか,コオロギ類の雌が雄のように鳴く動作をするなど興味深い事実が次々に明らかにされつつある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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