日本大百科全書(ニッポニカ) 「鶴亀(能)」の意味・わかりやすい解説
鶴亀(能)
つるかめ
能の曲目。初番目・脇(わき)能物。五流現行曲。喜多(きた)流は『月宮殿(げっきゅうでん)』という。中国の帝王をシテとする破格の脇能であり、詞章としてはもっとも短編の能であるが、新年の寿(ことほ)ぎを主題とし、好まれてきた作品である。謡曲の稽古(けいこ)始めに習う曲でもある。官人(間(あい)狂言)が帝(みかど)の月宮殿行幸を告げる。玄宗皇帝(シテ)が群臣(ワキ・ワキツレ)を従えて登場。四季の節会(せちえ)の最初の儀式であることを謡い、参賀の人のおびただしさと、宮殿の壮麗さが描写される。鶴と亀(ツレ)の祝賀の舞ののち、皇帝も自ら立って慶(よろこ)びの舞を舞い、宮殿に還御の態で終わる。鶴を女姿、亀を男姿とし、子方で演ずることもあり、大人のツレの場合は能面をかける。シテは素顔のまま演ずる。
謡曲からとった長唄(ながうた)『鶴亀』は幕末の10世杵屋(きねや)六左衛門の作品で、名曲の誉れが高い。常磐津(ときわず)に『細石巌鶴亀(さざれいしいわおのつるかめ)』がある。
[増田正造]