脊椎(せきつい)動物において、意志によって行われる運動を随意運動といい、骨格筋にみられるが、この障害を麻痺とよぶ。麻痺はその程度によって完全麻痺と不全麻痺とに分類されるほか、その部位によって、たとえば一側の上下肢におこれば片(へん)麻痺、両側の上肢または下肢に対称的におこれば対(つい)麻痺などとよばれる。随意運動は、大脳皮質運動領から錐体(すいたい)路を経て、脳神経核あるいは脊髄前角細胞を介して、末梢(まっしょう)神経により骨格筋に刺激が伝達されておこるものである。このため、麻痺はまた、上部の障害によって筋緊張の亢進(こうしん)、深部反射の亢進を伴う痙性(けいせい)麻痺と、脳神経核あるいは脊髄前角細胞、およびそれより末梢(つまり下部)の障害によって筋緊張の減退、反射の減弱、消失を伴う弛緩(しかん)性麻痺とが区別されており、麻痺の状態により障害部位の推測が可能である。麻痺がある場合、臨床的には、握力および関節の屈伸力などの筋肉の脱力状態と、その部の体位、姿勢の異常を観察する必要がある。小児麻痺といわれるポリオは、ウイルス感染による急性灰白脊髄炎で、脊髄前角細胞の病変による弛緩性麻痺を特徴とするが、発育しつつある脳組織が障害された後遺症としておこり、知的障害、けいれんなどを合併する脳性麻痺は痙性麻痺の型をとる。なお、神経路の障害以外に、筋自体や神経筋接合部の障害、またはヒステリーによっても麻痺をおこすことがある。さらに、進行麻痺という用語があるが、これは神経梅毒による認知症を主症状とする麻痺性痴呆(ちほう)と同意語であり、振戦麻痺は老人脳の黒質におこる変性病変に由来する強剛と、ふるえを主徴とするパーキンソン病のことである。
[渡辺 裕]
頭部,四肢または体幹の筋肉の随意運動が障害された状態をいう。随意運動は,大脳中心前回の運動中枢から錐体路を経て脳幹の運動神経核および脊髄前角細胞へ至る上位ニューロン,そこから筋肉へ分布する末梢運動神経(下位ニューロン),神経筋接合部,および筋肉の働きにより遂行される。この経路のどこかが障害されると麻痺が生ずる。上位ニューロンの障害では病変部以下の半身麻痺(片麻痺)をきたすことが多いが,脳幹や脊髄の障害では両側性麻痺を示すこともある。いずれの場合も,深部反射の亢進と筋トーヌスの亢進を伴う痙性麻痺の形をとる。下位ニューロンの障害では,その支配領域に筋トーヌスの低下を伴う弛緩性麻痺をきたし,深部反射は減弱ないし消失し筋萎縮を伴う。神経筋接合部の障害では特有の疲れやすさを伴う筋無力症状を示し,筋肉自体の障害では筋萎縮を伴う麻痺を示す。
→運動ニューロン疾患
執筆者:楠 進
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