鼠咬症(読み)ソコウショウ(英語表記)Rat-bite disease

デジタル大辞泉 「鼠咬症」の意味・読み・例文・類語

そこう‐しょう〔ソカウシヤウ〕【××咬症】

ネズミ・猫・イタチなどにかまれて1週間ないし数週間して発病する感染症スピロヘータの一種またはスピリルムとよばれる病原体が原因で、傷口が熱をもって赤くれ、寒け・発熱・頭痛・関節痛リンパ節肥大などを伴う。

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精選版 日本国語大辞典 「鼠咬症」の意味・読み・例文・類語

そこう‐しょうソカウシャウ【鼠咬症】

  1. 〘 名詞 〙 ネズミ、ネコ、イタチなどにかまれて後、一~数週間して起こる一種のスピロヘータ病。傷口が熱をもって赤くはれる。寒気、発熱、嘔吐(おうと)、頭痛、関節痛、リンパ腺肥大などを伴う。鼠毒(そどく)。〔育児読本(1931)〕

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六訂版 家庭医学大全科 「鼠咬症」の解説

鼠咬症
そこうしょう
Rat-bite disease
(感染症)

どんな感染症か

 鼠咬症はネズミ、とくにラットに咬まれることで起こる感染症です。非常にまれな病気で、病原体はモニリホルム連鎖桿菌(れんさかんきん)と鼠咬症スピリルムという2種類の細菌です。

 モニリホルム連鎖桿菌による鼠咬症は、ラット以外にもマウスやリス、あるいはこれらの齧歯類(げっしるい)を補食するイヌやネコに咬まれて発症することもあります。鼠咬症スピリルムの場合は、ほとんどはラットが原因です。

 ごくまれですが、汚染された水やミルクを介した集団発生もあります。

症状の現れ方

 モニリホルム連鎖桿菌の感染の場合は、通常3~5日の潜伏期ののち、突然の悪寒(おかん)、回帰性を示す発熱(上がり下がりを繰り返す)、頭痛、嘔吐、筋肉痛などインフルエンザのような症状で発症します。

 90%以上の患者さんに、暗黒色の麻疹(ましん)はしか)のような発疹が四肢の内側や関節の部位に現れますが、数日で消えます。また、痛みを伴う多発性関節炎を起こします。合併症としては心内膜炎、膿瘍(のうよう)の形成、肺炎、肝炎、腎炎、髄膜炎(ずいまくえん)などがあります。

 鼠咬症スピリルムでもほぼ同様ですが、関節炎を伴うことはほとんどありません。

検査と診断

 臨床的には診断は困難なので、実験室診断に頼らざるをえません。患部あるいは血液などの体液から、病原菌を証明することで診断します。モニリホルム連鎖桿菌は人工培地で培養できますが、近年はPCRポリメラーゼ連鎖反応)法で遺伝子レベルの診断も可能になってきています。私たちの研究室で行った調査では、国内で捕獲されたドブネズミの92%、クマネズミの58%が陽性でした。

 一方、鼠咬症スピリルムは人工培地での培養は成功していないので、動物へ接種したのち顕微鏡観察で菌の証明をします。

 ペスト野兎病(やとびょう)結核猫ひっかき病、パスツレラ症、回帰熱ブルセラ症レプトスピラ症淋病(りんびょう)マラリアなどとの区別が必要です。

治療の方法

 ペニシリンが第一選択薬ですが、テトラサイクリンドキシサイクリンも有効です。

病気に気づいたらどうする

 ラットなどの齧歯類に咬まれた場合は、すみやかに傷口を消毒する必要があります。医療機関を受診し、ネズミなどに咬まれたことを告げ、適切な処置を受けてください。

山田 章雄

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鼠咬症」の意味・わかりやすい解説

鼠咬症
そこうしょう
rat-bite fever

ネズミなどにかまれたのちに突然発熱し、波状熱を呈する感染症。日本では古くから鼠毒(そどく)とよばれていたもので、1915年(大正4)伝染病研究所の二木謙三(ふたきけんぞう)らによって病原体が分離され、鼠咬症スピロヘータと命名されたが、これはスピリルム・ミヌスSpirillum minusとよばれるグラム陰性のらせん菌で、両端に鞭毛(べんもう)をもち、いわゆるスピロヘータに類似するが、まったく異なるシュードモナス類Pseudomonasに属する細菌である。

 病原体を保有するネズミ、ネコ、イタチなどにかまれてから1~3週、あるいはそれ以上の潜伏期を経て突然発熱し、4~5週間繰り返し波状熱を呈する。最初の発熱後に咬傷部が暗赤色に腫脹(しゅちょう)し、リンパ節の腫脹もみられることがある。頭痛や関節痛なども伴うが、関節炎はまれである。治療には抗生物質が用いられ、とくにペニシリンが有効である。イエネズミの保菌率は数%から数十%といわれ、ネズミにかまれたら傷の消毒をすることがたいせつで、医師の指示に従って予防的に抗生物質を用いる。

 なお、このほかストレプトバシラス・モニリホルミスStreptobacillus moniliformisとよばれるらせん菌の感染による鼠咬症もあり、ハーバーヒル熱Haverhill feverともよばれる。この場合は、ネズミの咬傷ばかりでなく、汚染物などからの経口感染や研究室感染もあるという。潜伏期は2~7日で、暗赤色の麻疹(ましん)様発疹がみられたり、重篤な場合には非化膿(かのう)性関節炎がおこったり、急性の場合には敗血症や心内膜炎などもみられる点が、スピリルム・ミヌスによる場合と異なる。治療にはペニシリン、ストレプトマイシン、テトラマイシンなどが用いられる。

[柳下徳雄]

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家庭医学館 「鼠咬症」の解説

そこうしょう【鼠咬症 Ratbite Fever】

[どんな病気か]
 ネズミにかまれた傷口から、鼠咬症スピリルムまたはストレプトバチルスが感染しておこります。ときには、ネコ、リス、イタチなどのかみ傷から感染することもあります。
[症状]
 鼠咬症スピリルムが感染した場合は、かまれてから2~3週間たったころ、いちおう治った傷の部分に赤いしこりができて潰瘍(かいよう)になり、リンパ節(せつ)が腫(は)れ、発熱と発疹(ほっしん)が現われます。熱は、寒けや震えをともない、39℃前後に達し、頭痛がひどくなります。
 熱は数日で自然に下がりますが、3~4日すると再上昇します。このような発熱と解熱を数回くり返します。
 発疹は、初め、指頭大のものがかみ傷付近にできますが、発熱を重ねるにつれてほかの部分にも現われてきます。なお、熱以外の症状は、熱と並行して出たり、消えたりします。
 ストレプトバチルスが感染した場合には、潜伏期が5日前後で、寒け、頭痛、発熱で発病しますが、かみ傷の部分の反応は強くなく、リンパ節も腫れません。
 四肢(しし)(手足)に出血斑(しゅっけつはん)や水疱(すいほう)が現われ、約半数の人に関節炎がおこります。病原体で汚染された食品を摂取して感染した場合は、これまで述べた症状のほかに、嘔吐(おうと)や筋肉痛がおこります。
[治療]
 病原体がどちらであっても、ペニシリン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン系の抗生物質などが有効です。

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改訂新版 世界大百科事典 「鼠咬症」の意味・わかりやすい解説

鼠咬症 (そこうしょう)
rat-bite fever

鼠毒ともいう。ネズミの咬傷によって感染する感染症。病原菌はスピロヘータのSpirillum minusで,1915年二木謙三らによって発見された。5~28日の潜伏期ののち,咬傷部に発赤,腫張,疼痛を生じ,悪寒戦慄(せんりつ)を伴う発熱,筋肉痛,頭痛などの全身症状に加え,皮膚には紅斑が現れる。またリンパ節も腫張し,圧痛がある。発熱は数日でいったん解熱するが,ふたたび2~4日の間隔で発熱をくりかえす。検査では好中球を主とする白血球の増加がみられ,リンパ節の穿刺(せんし)液からは病原菌を検出することができる。治療はペニシリンなどの抗生物質を用いた化学療法によるが,予後は良好である。なお,ネズミの咬傷による感染症には細菌のStreptobacillus moniliformisによるものもあり,周期熱,リンパ節炎,発疹を伴う。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鼠咬症」の意味・わかりやすい解説

鼠咬症
そこうしょう
rat-bite fever

鼠咬症スピリルムという病原菌をもつネズミに咬まれて伝染する急性感染症。潜伏期 10~15日。咬傷部の腫脹,発赤に続いて頭痛,発熱,リンパ節腫大などが現れる。数ヵ月で自然に治癒するが,慢性化することもある。サルバルサン剤,抗生物質 (ペニシリン,テトラサイクリン,ストマイなど) が有効。

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