翻訳|rodent
固い植物の実や草を食べるのに適したかぎづめをもった小型の哺乳類で齧歯目Rodentiaに属する。
体重は最小がカヤネズミの5~7g,最大がカピバラの約50kg。ウサギ目に似るが切歯(門歯)が上下とも1対しかない。切歯は長大で,終生根ができず弧を描いてのび続ける。大部分が歯質よりなり,固いエナメル質がその前面にしかないため,先端はのみ状を呈し,クルミやマツの実のような固い殻をかじって穴を開けるのに適する。犬歯と前位の前臼歯(ぜんきゆうし)がなく,切歯の後ろに歯のない部分(歯隙(しげき))があり,ここに口唇が外側から入り込んでいて,かじりかすが口の奥に入るのを防ぐ。左右の下顎(かがく)骨の先端おとがいはふつう癒着せず可動性で,切歯の先端を自由に開閉できる。このため,切歯の先端をそろえてドングリなどの殻の割れ目に差し込み,次にそれを開いて巧みに殻を割る。あごの関節と一部が吻(ふん)側に達する強大な咬筋(こうきん)は,下あごを前方に動かし,下の切歯をのみのように使うのに適する。これに反して下あごを上に引き上げる働きをする側頭筋は小さく,この筋肉が着く下あごの筋突起はしばしば消失する。臼歯の形態は変化に富むが,いずれもエナメル質のひだが発達していて歯冠部が長く,かつしばしば終生成長し,繊維の多い食物をすりつぶすのに適する。ひじの関節は自由に動き,前足で食物をもって食べるものが多い。多くは足裏全部を地につけて歩く蹠行(しよこう)性で3~5本の指とかぎづめを備える。尾は多くはうろこで覆われ,敵に押さえられると簡単に切れたり皮が抜け落ちることが多く,護身に役だつ。皮が抜けた尾は自分で切断する。体毛はときにとげ状に変化する。胃は単一でふつう盲腸がある。精巣は多くは鼠径(そけい)の位置にあり,陰茎には陰茎骨がある。大脳は小さく,小脳は大脳に覆われず露出する。胎盤は円盤状。
昆虫などの動物を食べるものもあるが,ほとんどのものは植物食で,一般に妊娠期間が短く産児数が多く成長が早い。そのためレミング,ハタネズミなどはしばしば大増殖をする。しかし寿命はふつうきわめて短い。人間を利用して分布を広げた住家性のネズミを除いても,南極大陸とニュージーランド以外の世界中に分布し,熱帯から寒帯までの砂漠,草原,森林,高山,ツンドラなどあらゆる環境にすむ。地中の穴にすみ,夜地上に出て食物をとる夜行性(水晶体は他の多くの哺乳類同様無色)のものが多いが,サル類と同様水晶体が黄色で昼間だけ活動するリス,シマリス,もっぱら地下にすむメクラネズミ,ハダカモグラネズミ,樹上生のリス,ヤマネ,キノボリヤマアラシ,水生のミズネズミ,ビーバー,マスクラット,ヌートリア,跳躍するトビネズミ,カンガルーネズミ,トビウサギ,滑空するウロコオリス,ムササビ,モモンガなど適応放散が著しい。農作物を食害し,伝染病,寄生虫を媒介するものもあるが,毛皮獣(チンチラ,ビーバー,ヌートリア,マスクラット,リスなど)や実験動物(テンジクネズミ,マウス,ラット,ハムスターなど)として重要なものがあり,猛禽(もうきん)類や小型の肉食動物の食物としても無視できない。
現生哺乳類の中でもっとも種類が多く,その約4割を占め,少なく見ても約1750種が知られる。化石の研究がまだ不完全なため系統の不明なものが多く,分類がきわめて混乱している。最古の化石は北アメリカ暁新世のパラミス(パラミス科)であるが,すでに明白にこの目のものでも食虫目などに似たところがなく,他の目との類縁関係はまったく不明である。
現生種はふつう3亜目28科に分類される。(1)リス亜目 もっとも原始的な類で,他の哺乳類同様咬筋が眼窩(がんか)の前の孔(下眼窩孔)を貫通しない。ヤマビーバー科(パラミス科に近い),リス科,ホリネズミ科,ポケットネズミ科,ビーバー科,ウロコオリス科,トビウサギ科の7科がある。(2)ヤマアラシ亜目 下眼窩孔が非常に大きく,咬筋の内層が眼窩の中を通ってこれを貫通し吻側に出る。しかし中層は頰骨(きようこつ)に着くだけで,下眼窩孔には特殊な外壁(咬板)ができていない。下顎骨の後端にある角突起は他の目と違って外方に折れ曲がり,大きな中層の付着部になっている。新世界にキノボリヤマアラシ科,テンジクネズミ科,カピバラ科,パカラナ科,パカ科,チンチラ科,カプロミス科,オクトドン科,クテノミス科,チンチラネズミ科,エキミス科の11科,旧世界にヤマアラシ科,アフリカアシネズミ科,イワネズミ科,デバネズミ科,グンディ科の5科がある。しかし新世界の11科をテンジクネズミ亜目とし,旧世界の5科中グンディ科をリス亜目に含め,他を所属不明と見る人もある。(3)ネズミ亜目 前の2目より遅く漸新世初頭に現れたもっとも進化した類で,咬筋の内層は下眼窩孔を通過し,中層は頰骨だけでなく下眼窩孔の外壁(咬板)にも着く。ネズミ科(キヌゲネズミ,メクラネズミ,タケネズミ,トゲヤマネなどを別の科とすることがある),ヤマネ科,サバクヤマネ科,オナガネズミ科,トビネズミ科の5科がある。
執筆者:今泉 吉典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱齧歯目に属する動物の総称。この目Rodentiaの仲間は小形で、切歯(門歯)が上下とも1対あり長大で根がなく終生伸び続け、堅いエナメル質がその前面にしかないため、のみ状を呈し、クルミ、クリのような堅い殻の実や種子をかじるのに適する。犬歯と前位の前臼歯(ぜんきゅうし)がなく、切歯の後ろに歯のない部分(歯隙(しげき))があり、ここに口唇が入り込んでいて、かじりかすが奥に入るのを防ぐ。左右の下顎(かがく)骨は普通癒着せず可動性で、切歯の先端を自由に開閉できるため、切歯をそろえてどんぐりなどの殻の割れ目に差し込み、それを開いて巧みに殻を割る。あごの関節と、一部が吻(ふん)側に達する強大な咬筋(こうきん)は、下顎を前方に動かし、下の切歯をのみのように使うのに適する。臼歯は繊維の多い食物をすりつぶすのに適し、歯冠部が長くしばしば終生成長する。肘(ひじ)の関節は自由に動き、多くは蹠行(しょこう)性である。指は3~5本で鉤(かぎ)づめを備える。通常は鱗(うろこ)がある尾は、敵に押さえられると簡単に切れたり皮がむけることが多く、護身に役だつ。胃は単一、普通は盲腸がある。精巣は多くは鼠径(そけい)部に位置し、陰茎には陰茎骨がある。多くは植物食で、一般に繁殖力が強く、成長が早い。人間について分布を広げた住家性のネズミを除いても、南極大陸とニュージーランド以外の世界中に分布し、熱帯から寒帯までの砂漠、草原、森林、高山、ツンドラなどにすむ。穴にすみ地上で食物をとるものが多いが、もっぱら地下にすむメクラネズミ、樹上生のリス、水生のミズネズミ、ビーバー、跳躍するトビネズミ、滑空するウロコオリス、ムササビなど適応放散が著しい。農作物を食害し、伝染病、寄生虫を媒介するものもあるが、毛皮獣(チンチラ、ビーバー、リスなど)や実験動物(テンジクネズミ、マウス、ラットなど)として重要なものがある。祖先は暁新世に北アメリカにいたパラミス(パラミス科)である。現生哺乳類中もっとも種類が多くその約4割を占め、最低1600種あり、普通は次の3亜目28科に分類されるが、系統の不明なものが多く、分類は混乱している。
(1)リス亜目 ヤマビーバー科(パラミス科に近い)、リス科、ホリネズミ科、ポケットネズミ科、ビーバー科、ウロコオリス科、トビウサギ科の7科がある。
(2)ネズミ亜目 ネズミ科(キヌゲネズミ、メクラネズミ、タケネズミ、トゲヤマネなどを別の科とすることがある)、ヤマネ科、サバクヤマネ科、オナガネズミ科、トビネズミ科の5科がある。
(3)ヤマアラシ亜目 新世界にキノボリヤマアラシ科、テンジクネズミ科、カピバラ科、パカラナ科、パカ科、チンチラ科、カプロミス科、オクトドン科、クテノミス科、チンチラネズミ科、エキミス科の11科、旧世界にヤマアラシ科、アフリカアシネズミ科、イワネズミ科、デバネズミ科、グンディ科の5科がある。しかし新世界の11科をテンジクネズミ亜目とし、旧世界の5科中グンディ科をリス亜目に含め、他の4科を所属不明とみる人もある。
[今泉吉典]
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