IKAROS(読み)いかろす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「IKAROS」の意味・わかりやすい解説

IKAROS
いかろす

宇宙航空研究開発機構JAXA(ジャクサ))が開発した小型ソーラー電力セイル実証機。IKAROSとはInterplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun(太陽放射加速による惑星間帆船の意)からつけられている。宇宙ヨット一種である。

 2010年(平成22)5月に金星探査機あかつき」とともにH-ⅡAロケットにより打ち上げられた。

 直径1.6メートル、高さ0.8メートルの円筒形の本体と、展開したときに約14メートル×約14メートルになる正方形の帆の部分で構成され、質量は約310キログラム。帆は厚さ7.5マイクロメートルのポリイミド製の膜面で構成され、それに厚さ25マイクロメートルの薄膜太陽電池が一部に取り付けられている。IKAROSは、この帆に太陽光の圧力を受けて宇宙空間を推進する「光子帆船」の実験機であり、また同時に、帆に取り付けられた太陽光発電セルの電力でイオンエンジンを駆動するハイブリッド推進(太陽光推進とイオンエンジン推進)の検証も行う。

 2010年6月に帆を展開し、太陽光での推進による加速を確認した。その後は姿勢および軌道制御などの航行技術の実験を実施。また、オプションで装備されたGAP(GAmma-ray burst Polarimeter、γ(ガンマ)線バースト偏光検出器)により世界で初めてγ線バーストの偏光度を測定した。さらにALADDIN(Arrayed Large-Area Dust Detectors in INterplanetary space、大面積宇宙塵(じん)検出器)で地球より太陽に近い領域での宇宙塵の分布を解明し、VLBI(Very Long Baseline Interferometry、超長基線電波干渉法)計測用マルチトーン送信器で高精度軌道決定の実験を行った。

[山本将史 2021年7月16日]

『日経サイエンス編集部編『宇宙大航海――日本の天文学と惑星探査のいま』(『別冊日経サイエンス』175号・2010・日本経済新聞出版社)』『森治著『宇宙ヨットで太陽系を旅しよう――世界初! イカロスの挑戦』(岩波ジュニア新書)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵 「IKAROS」の解説

IKAROS

独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した、小型ソーラー電力セイル実証機。太陽光圧を主な推進力として利用する世界初の惑星間航行宇宙機で、2010年5月に金星探査機「あかつき」打ち上げに伴う副衛星として軌道に投入された。
「IKAROS」は、円柱状の本体(直径1.6m、高さ0.8m)と、宇宙空間に放出されてから展開する正方形の凧(たこ)のようなソーラーセイル(対角線長20m、厚さ0.0075mm)によって構成されている。ソーラーセイルは、ヨットが帆に風を受けて進むように、超薄膜の帆に太陽光圧を受けて進むことから、宇宙ヨットなどとも呼ばれる。なお、ヨットが帆に受ける力とセンターボードの抵抗によって、風上に向かって斜め方向に航行できるのと同じように、ソーラーセイルもセイルに受ける力と向心力や慣性によって、光の来る方向にも進むことができる。
一般に、ロケットエンジンは何らかの推進剤を後方に噴出して、その反動によって進む。したがって、そのための燃料などをあらかじめ搭載しておく必要があり、イオンエンジンも含めて航続距離(期間)は有限である。これに対して、ソーラーセイルは、太陽が放出する光やイオンを帆に受けて、これを反射するときの反動で進む。得られる推力は大きくはないが、空気抵抗のない宇宙空間では、航行に必要な光子圧が得られる範囲であれば、その力と慣性によって航行を継続できる。小惑星探査機「はやぶさ」などでも太陽光圧を使った姿勢制御が行われたが、光子加速を実際に推進力として航行したのは「IKAROS」が世界初である。なお、姿勢制御はセイル面の液晶デバイスによって光の反射特性を変えることで行っている。
この他、「IKAROS」は、セイル膜面の一部に薄膜太陽電池を貼り付け、電力の発電実証も行った。このため「ソーラー電力セイル」と称している。この発電によって得た電力を、様々な機器に利用するとともに、将来の探査機ではこの電力でイオンエンジンを駆動するハイブリッド推進の採用を計画している。
IKAROSの名は、Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sunの略称だが、羽根を蝋(ろう)で固めて飛び立ったギリシャ神話のイカロスの名にちなむ。10年12月には金星フライバイを実施し全ての実験を終了、翌1月には、全てのミッションを完了・達成したことが報告され、定常運用を終了した。現在は12年3月までの後期運用計画が進められている。10年代後半にはこれらの成果を活かして、直径50m級の膜面を持ち高性能イオンエンジンを搭載した中型機を開発し、木星およびトロヤ群小惑星の探査を目指す予定である。

(金谷俊秀  ライター / 2011年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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