アメリカにおいて通商交渉権限を大統領に一括して与える制度、またはその権限。英語のTrade Promotion Authorityの頭文字をとってTPAとよばれ、日本では「(大統領)貿易促進権限」「貿易一括交渉権」などと訳される。アメリカ合衆国憲法第1章第8条第3項では、連邦議会に通商協定を制限する権限があると定めているが、通商協定の条文を個別に議会で議論すると膨大な時間がかかるため、大統領に交渉権限を一任し、通商交渉の迅速化を目的とした制度である。議会は通商協定を一括承認するか、不承認かの権限のみを与えられ、原則として協定を部分修正できない。ただしTPAに基づく交渉に臨むに際し、政府は議会に対して交渉目的や優先順位をはっきりさせる必要があり、交渉中でも議会に交渉文書を開示しなければならない。
TPAを大統領に与えるには、上下両院でTPA法案を可決する必要がある。TPAは期間限定措置であり、アメリカが重要な通商交渉に臨むたびに成立・発効し、その後に失効することを繰り返している。20世紀にはファスト・トラック権限(Fast Track Negotiating Authority、早期一括交渉権限)とよばれ、1974年に成立し、同権限のもとで北米自由貿易協定(NAFTA)などを結んだ後、1994年に失効した。2002年には、当時の大統領ジョージ・W・ブッシュが初めてTPAという名称で一括交渉権を取得し、チリやシンガポールなどとの自由貿易協定(FTA)を締結し、2007年に失効した。オバマ大統領は2015年、環太平洋経済連携協定(TPP)の早期合意を目的にTPA法を成立させた。一般に、議会に通商協定内容が修正されるおそれがあると、他国政府は譲歩や妥協をしにくくなるため、TPA法は交渉妥結に不可欠とされている。政府がTPAを取得して交渉の裁量権が広がると、合意に向けた踏み込んだ提案や譲歩が可能になり、妥結しやすくなるとされている。
[編集部 2016年1月19日]
(2015-7-2)
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