改訂新版 世界大百科事典 「ダルマキールティ」の意味・わかりやすい解説
ダルマキールティ
Dharmakīrti
7世紀ころのインドの仏教論理学者。生没年不詳。法称と漢訳される。ディグナーガによって基礎づけられた仏教論理学を徹頭徹尾簡略化,厳密化することによって完成し,その後のインド仏教哲学とインド思想全般に深刻な影響を与えた。著書に《プラマーナバールティカ(量評釈)》《プラマーナビニシュチャヤ(量決択)》《ニヤーヤビンドゥ(正理一滴論)》《ヘートゥビンドゥ(因一滴)》《サンバンダパリークシャー(観相続)》《バーダニヤーヤ(諍正理)》《サンターナーンタラシッディ(他相続成就)》の7論がある。彼の思想は論理学,認識論,言語哲学の3部門にわたっている。論理学において,彼は理由→帰結という論理的必然関係を,理由が帰結から生じる場合(煙→火)と,理由が帰結を本質とする場合(桜→木)との2類型に分け,かつその関係の根拠をスババーバプラティバンダ(属性の限定あるいは本質との結合)という唯一の原理に帰した。認識論においては,認識される内容は認識主観の上に現れた形象であるとする唯識説に形象真実と形象虚偽の2説あることを明かし,かつそれらをも否定する中観の立場をも示した。また言語哲学においては,言葉は実在を表示しないとするアポーハ説を推し進め,言語のもつ仮構性とそれに裏打ちされた世俗的な有効性,表現機能を解明した。主著《量評釈》はとくに難解で,インドとチベットで膨大な注釈書群を生み出した。
執筆者:松本 史朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報