チタンはアルミニウムより重いが,鉄の約1/2と軽い。一般に,強さは鋼にまさり,耐食性はステンレス鋼よりすぐれている。また,0℃以下の低温から500℃程度までの温度範囲で安定な性質を示す。このようにすぐれた点を兼ねそなえており,資源も豊富なので,重要な金属材料の一つとなっている。難点は製法が複雑であることから,鋼に比べ価格が高くなることで,高価でも性能のよい材料を必要とする用途に使用されている。現在アメリカでの用途は,耐食材料,民間の航空機,軍用の航空機やミサイルに,それぞれ大まかに1/3ずつ当てられている。チタン合金の本格的な工業的応用の始まりは,1952年に就航した最後のピストンエンジンの旅客機DC7であって,その後はジェット機の発達とともに発展してきた。チタン合金のように軽くて比強度の大きい材料なしでは,現在のような高性能の大型ジェット機は実現しなかったであろう。チタンは高温では酸素,窒素などときわめて結合しやすいために,製錬や溶解が難しく,1940年にクロルW.J.Krollが,鉱石を塩素で処理して四塩化チタンとし,マグネシウムで還元するクロル法を発明して,初めて本格的な工業生産が行われるようになった。溶解にはアーク溶解法が使われる。これは熱源がアークであるので燃料からの不純物はなく,雰囲気を制御するのでガスの混入もなく,しかも水冷銅るつぼを用いるので,るつぼからの不純物の混入もないすぐれた方法であるが,手間のかかるコストの高い方法である。
チタンの用途には大別して方向の違う二つがある。一つは強さよりもすぐれた耐食性に注目する場合で,工業用純チタンがおもに使われる。純度は99~99.5%程度で,おもな不純物は酸素と鉄であり,この量によって強さが変わる。ふつう25~50kgf/mm2程度であって,鋼に匹敵する。耐食性はステンレス鋼よりもよく,多くの酸,塩化物などの化学物質や海水に対する耐食性がすぐれている。化学工業のタンク,反応容器,あるいは海水を使う熱交換器のチューブなどに使われる。他の一つは強さと密度の比が高いことに注目する用途で,これにはおもに合金が使われる。純チタンの結晶構造は室温では最密六方晶(α相)であるが,高温では体心立方晶(β相)となり,また合金化によって室温でもβ相のものができる。したがって合金は,α相のもの,α+β相のもの,β相のものに区別される。チタン合金は宇宙・航空用などの厳しい条件で使われる材料として発達してきた関係で,目的に応じ仕様の違うさまざまの合金があるが,現在最も多く生産されているものはα+β型,Alを6%,Vを4%含む合金の6Al-4V-Tiである。熱処理によって約100kgf/mm2の強さとなり,加工性・耐食性がよく溶接も可能で,使用経験も豊富である。そのために他のチタン合金を選択するときの一つの標準ともなっている。α型チタン合金は低温で安定なα相をもとにしているので,数百℃では組織が安定している特徴があるが,歴史的に代表合金である5Al-2.5Sn-Ti合金は強度がやや低く加工もやや困難である。α相に少量の第2相を含む準α型合金8Al-1Mo-1V-Ti合金は,より高い強度をもつ。β型チタン合金は,高温安定相のβ相を常温での安定相とするためにFe,Ni,Co,Mn,Crなどを加えたものである。チタン合金中最も強力で,塑性加工が容易であるため,加工費節減の面から期待されている。
執筆者:大久保 忠恒
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チタンを主成分とする合金。チタンは高温では活性の金属であるので、温間加工、熱処理などには特別な注意が必要であるが、通常の塑性加工、機械加工は容易であり、構造材料としてしだいに利用されるようになった。チタンの耐食性はステンレス鋼よりも優れ、ごく特殊な例を除いて各種の酸やアルカリにはほとんど侵されないので、各種化学工業用耐食材料として純チタンあるいはパラジウムやタンタルを加えた耐食チタン合金が用いられている。チタンには882℃に同素変態があるので、鋼の場合と同じように、その合金は適当に熱処理することによって機械的性質を大幅に変化させることが可能である。おもな添加元素はアルミニウム、マンガン、鉄、スズ、モリブデン、バナジウムなどであり、適当な組成と熱処理の組合せによって超高張力鋼に相当する強度が得られる。チタンの比重は4.50と軽いので、チタン合金は軽量で強度の高い優れた材料であり、超音速機、ジェットエンジン、宇宙ロケット部品などに使用される。実用温度範囲は零下198℃から480℃にわたる。耐食性に優れ、さらに他の金属材料よりも弾性率を低くできることから、近年はステンレス鋼にかわるインプラント材として体内で使用されることも多い。
[及川 洪]
チタンを主成分とし,アルミニウム,スズ,マンガン,鉄,クロム,モリブデン,バナジウムなどを単独または複合して添加した合金.チタン合金は耐食性にすぐれていることから化学工場の装置材料として,また高温度での比強度が高いことから航空機のエンジンやまわりの機体材料などに用いられている.チタンは生体適合性が高いことから,生体材料への用途が拡大している.チタン合金はその金属組織によって合金系をα,α+βおよびβ形の三つに大別できる.それぞれの代表的なチタン合金をあげると,α形には,Ti-5質量% Al-2.5質量% Sn,α+β形には,Ti-8質量% Mn,Ti-4質量% Al-4質量% Mn,Ti-6質量% Al-4質量% V,β形には,Ti-13質量% V-11質量% Cr-3質量% Al合金がある.いずれもアルミニウムを数質量% 含有している.このアルミニウムはα相を強化することだけでなく耐酸化性を向上させ,水素脆性を押さえる役割もしている.現在もっとも強力な合金はβ形のTi-13質量% V-11質量% Cr-3質量% Al合金であり,適当な熱処理を行うことによって150 kg mm-2 の引張強さが得られる.またもっとも多く用いられているのは,焼入れ,焼戻しを行ったα + β形のTi-6質量% Al-4質量% V合金である.[別用語参照]軽合金
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(徳田昌則 東北大学名誉教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…また板として製版用に,電気防食材料として鋼構造物の防食にも用いられる。チタン合金は融点が高く,耐熱性に優れ,耐食性はきわめてよく,高強度のものが得られる。高価であるが,航空機機体,ジェットエンジン,化学工業プラントなど特殊な環境下におかれる構造材として特有の用途のある重要な材料である。…
… 飛行機の速度がM2.7(マッハ2.7,音速の2.7倍)を超えるようになると,空力加熱のため機体表面温度が200℃に近くなるので,アルミニウム合金は強度が低下し使用できなくなる。このような高速機用の材料として期待されているのが,チタン合金である。チタン合金は軟鋼の2~3倍の強度をもち,強度重量比はアルミニウム合金より高く,また,疲労に強い,亀裂が延びにくい,腐食しにくいという利点をもつが,素材が高価で,成形加工がむずかしく,切削性も悪いなどのため,現在のところ一般の飛行機では,防火壁,耐熱部,フラップのレールなど,限られた個所にのみ使われている。…
※「チタン合金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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