翻訳|tritium
化学的な性質は水素とほぼ同じ放射性物質。原子炉内での核分裂などで発生するほか、雨水や大気、人間の体内にも存在する。トリチウムが酸素と結びついた水は通常の水と分離できないが、放射線のエネルギーは弱く、国内外の原子力施設では規制に従って海に放出している。東京電力福島第1原発の処理水には高濃度のトリチウムが含まれるため、大量の海水で薄めて国の基準値(1リットル当たり6万ベクレル)の40分の1未満にして海に放出する。
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三重水素ともいう。中性子2個,陽子1個からなる原子核(トリトンtritonまたは三重陽子という)をもつ,質量数3の水素の放射性同位体。化学記号は3HまたはT。最大エネルギー18 keVのβ線を放出し,半減期12.36年でヘリウム3(3He)に変換する。天然には,宇宙線の陽子p,中性子nが大気中の窒素N,酸素Oと相互作用して生成するが,主として次の反応による。
その生成率は,地表単位面積当り,単位時間当りの原子数で0.2~0.24/cm2・s,生成量は全地球上で28~34メガキュリー(1キュリー=3.7×1010ベクレル)と試算されている。トリチウムの自然存在量の99%は水の形となり,降水や水蒸気交換によって海洋に運ばれる。その結果,天然トリチウムの濃度は地表水中で水素原子1018個当り約1個であり,地球化学の分野では,この濃度(T/H)10⁻18を1トリチウム単位(記号TU)と表現することが多い。
人工的には,リチウムLiに中性子を照射することによって製造することができる。
また,ウランやプルトニウムの核分裂によっても生成し,その収率は1分裂当り約10⁻4である。また,核融合反応の原料として用いられるため,1952年以後,数多く実施された原水爆実験の結果3000メガキュリーに及ぶトリチウムが大気圏上層部に注入され,63年には,降水中のトリチウム濃度は天然濃度の1000~1万倍にも達したが,その後徐々に減少し,現在は,地表水で3~5倍のレベルにある。その他の人為的なトリチウムの発生源としては,核兵器生産,核燃料再処理,商用放射性同位体生産などがおもなものであり,原子力平和利用の進展に伴い,一般環境への放出もしだいに増加しつつある。
放射性同位体としてのトリチウムの利用法のおもなものとしては,時計,計器ダイヤル,標識などの夜間照明の光源としての利用,およびトレーサーとしての利用があげられる。前者は,硫化亜鉛結晶発光体に固形化したトリチウムをコーティングする方法,ガラス管内壁に発光体を塗布し,トリチウムガスを封入する方法などにより,いずれもトリチウムの放出するβ線で蛍光体を発光させる。1個の機器当りに使用されるトリチウム量はミリキュリー~キュリーの範囲であり,欧米では広く利用されている。後者は,有機化合物がおもに炭素C,水素H,酸素Oの諸元素で構成されていることから,これらを放射性同位体で標識化するには,トリチウムT(3H)か炭素14(14C)を用いなければならず,多数のトリチウム標識化合物が作られることになった。これらトリチウム標識化合物は,医薬品,農薬,食品添加物などの生物体内における吸収,分布,排泄,代謝の研究や,化学分野における反応メカニズムの研究に広く用いられており,その利用度はますます増加している。
執筆者:岩倉 哲男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
質量数3の水素の放射性同位体で,三重水素ともいう.3H あるいはTと記す.質量3.01605 u.原子核は陽子1個,中性子2個からなり,トリトンあるいは三重陽子とよばれる.トリチウムは半減期12.33 y でβ崩壊して 3He になる.β線の最大エネルギーは18.61 keV,平均エネルギーは5.68 keV である.体内に取り込まれた場合の生物学的半減期は12 d である.高層大気中で二次宇宙線に含まれる中性子と 14N との核反応14N(n,3H)12Cによって生成するため,天然にも通常の水素(軽水素,1H)の 10-17 程度ときわめて微量だが存在する.人工的には原子炉を用いて 6Li や 3He からそれぞれ6Li(n,α)T反応,3He(n,p)T反応によってつくることができる.また,加速器では 9Be とDとの反応からつくることができる.原子炉のうちの軽水炉においては,ウランやプルトニウムの三体核分裂によりトリチウムがわずかに生成する.重水炉では重水素の熱中性子捕獲反応によって生成する.トリチウム分子 T2 の融点は20.62 K(D2,18.73 K ;H2,13.96 K),沸点は25.04 K(D2,23.67 K ;H2,20.39 K)である.トリチウム水(T2O)の融点は4.48 ℃(D2O,3.81 ℃ ;H2O,0.00 ℃),沸点は101.51 ℃(D2O,101.42 ℃ ;H2O,100.00 ℃),解離定数は25 ℃ において0.06×10-14(D2O,0.195×10-14 ;H2O,1.01×10-14)である.トリチウムはβ線を放出する放射性同位体なので,化学反応機構の研究などでトレーサーとして利用されている.また,トリチウムは核融合反応を起こしやすいので,水素爆弾の主要原料として用いられた.将来,核融合炉の核燃料として,重水素とともに使われるものと予想されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
水素の同位体で、重水素の一つ。三重水素ともいう。記号はTまたは 3H。1934年イギリスのE・ラザフォードらにより核反応 2D(d,p)3Tで初めて合成された。その4年後放射能をもつことが発見された。0.0186メガ電子ボルトのβ-線を放ってヘリウム3Heになる。半減期は12.33年。大気上層で宇宙線による核反応 14N(n,t)12Cにより合成され、大気中にごく微量にみつかるヘリウム3の供給源となる。原子炉の核反応 6Li(n,α)3Tによって人工的に合成され、トレーサーとしての広い用途のほか、核融合反応の燃料として、またその人工制御にも用いられる。なお、トリチウムの原子核をトリトンという。
[守永健一]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これらは,ふつうの水素のそれぞれ約2倍,3倍の比重をもつ著しく重い同位体であるから,重水素と呼ばれる。しかし通常はそのうち安定で広く存在する2Hを重水素あるいはジュウテリウムdeuterium(化学記号D)と呼び,不安定な放射性元素で天然に微量しか存在しない3Hは三重水素あるいはトリチウムtritium(化学記号T)と呼んでこれと区別することがある。またこれらに対し,ふつうの水素1Hを軽水素あるいはプロチウムprotiumとも呼ぶ。…
…先の核融合利得Qfは単純な場合,この閉込め時間τ,プラズマの温度T,そして密度nの3者によって決定され,とくにnとτはnτという積の形で出てくる。すなわちQfはTとnτの関数であって,最も反応の起こりやすいDT反応(ジュウテリウム2Hとトリチウム3Hの反応)を例にとると,Qf>1の達成条件として T≌(1~2)×108K (数億度) (nτ)≌1014s/cm3 (1cm3当り1014個の粒子が1秒閉じ込められる)が求められている。ここで同じnτ値であっても慣性閉込めによる核融合におけるτは10-10秒(=100ピコ秒),磁気閉込めによる核融合におけるτは約1秒であって,その違いに応じてプラズマの密度とか圧力は両者の間で大きく異なってくる。…
…これらは,ふつうの水素のそれぞれ約2倍,3倍の比重をもつ著しく重い同位体であるから,重水素と呼ばれる。しかし通常はそのうち安定で広く存在する2Hを重水素あるいはジュウテリウムdeuterium(化学記号D)と呼び,不安定な放射性元素で天然に微量しか存在しない3Hは三重水素あるいはトリチウムtritium(化学記号T)と呼んでこれと区別することがある。またこれらに対し,ふつうの水素1Hを軽水素あるいはプロチウムprotiumとも呼ぶ。…
※「トリチウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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