フッ化水素(読み)ふっかすいそ(英語表記)hydrogen fluoride

共同通信ニュース用語解説 「フッ化水素」の解説

フッ化水素

蛍石硫酸を混ぜて生成した物質。毒性が強く生産場所や扱える企業が限られる。日本企業は高純度のフッ化水素を生産する技術に優れ、世界シェアは9割に達する。日本企業が製造したフッ化水素は、液体で韓国に輸出されている。主に半導体洗浄に用い、韓国の主要産業である半導体や有機ELディスプレーの製造に欠かせない素材となっている。(共同)

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改訂新版 世界大百科事典 「フッ化水素」の意味・わかりやすい解説

フッ(弗)化水素 (ふっかすいそ)
hydrogen fluoride

化学式HF。常温では無色,発煙性の液体。気体は無色,固体は白色。密度は液体で1.0015g/cm3(0℃),固体で1.658g/cm3(-87.2℃)。融点は-83.0℃,沸点は19.5℃。分子間の強い水素結合のため,低分子量の物質にもかかわらず,沸点が異常に高い。そのため気体における見かけの分子量は20よりはるかに大きく,温度,圧力に依存して一定値を与えない。90℃ではHFに相当する値を,また32℃ではH2F2とH3F3との中間の値をとる。電子線回折法による結果では,低温では(HF)nn=2~5)程度に重合していると考えられている。粘度は比較的小さく(-68.75℃で0.914センチポアズ,0℃で0.256センチポアズ),比誘電率は著しく大きい(-70℃で173.2,0℃で83.6)。高温におけるHFの双極子モーメントは1.91デバイ(双極子モーメントの単位で,CGSesuの10⁻18倍)と測定されている。気体の電子線回折の結果ではF…H-F…H-F…といった折れ曲がった直線形構造をもっており,F-H…F結合におけるH-F結合は1.00Å,H…F(水素結合)距離は1.55Åで,F…F…F結合角は140度である。固体は正方晶系に属する。H-F結合はイオン結合性が強い(約60%)。H2とF2とを直接反応させるか,KHF2溶融塩をフッ素が発生するまで電解して乾燥させたのち加熱分解してHFを得る。工業的には蛍石に硫酸を加えて熱し,生成物を蒸留して得る。フッ素化合物の製造原料触媒などに用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フッ化水素」の意味・わかりやすい解説

フッ化水素
ふっかすいそ
hydrogen fluoride

水素とフッ素の化合物。フッ化水素カリウムKHF2を熱するか、蛍石(ほたるいし)CaF2濃硫酸を加えて熱すると得られる。常温で無色発煙性の液体。式量が小さいのに融点や沸点が高いのは、水素結合により分子が会合しているためである。気体の蒸気密度は、90℃以上でHF、32℃付近では(HF)2~(HF)3に相当し、固体ではジグザグの鎖構造が認められる()。液体は電気を導かないが、無機・有機化合物をよく溶かす。水によく溶け、フッ化水素酸を生じる。フッ素化剤で、フロンガス(冷媒)、ペルフルオロ化合物、フッ素樹脂、フッ素の製造原料、アルキル化などの有機合成触媒としての用途がある。きわめて毒性が強く、吸入すると肺水腫(すいしゅ)をおこす。また気体が指にしみると爪の間が痛む。

[守永健一・中原勝儼]



フッ化水素(データノート)
ふっかすいそでーたのーと

フッ化水素
  HF
 式量 20.0
 融点 -92.3℃
 沸点 19.5℃
 密度 液体 1.166g/cc(-60℃)
       1.0015g/cc(0℃)

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化学辞典 第2版 「フッ化水素」の解説

フッ化水素
フッカスイソ
hydrogen fluoride

HF(20.01).フッ化水素カリウムを加熱すると得られる.工業的には,蛍石に濃硫酸を作用させてつくる.無色,特有の刺激臭のある発煙性液体.密度1.0015 g cm-3(0 ℃).融点-83.1 ℃,沸点19.54 ℃,臨界温度188 ℃.沸点がほかのハロゲン化水素に比べて異常に高いのは,水素結合による重合のためである.水,エタノールに易溶.水溶液はフッ化水素酸とよばれる.液体フッ化水素はこれまでに知られている最強の酸の一つである.硝酸のようなほかの酸は次のように塩基としてはたらく.

HNO3 + HF → H2NO3 + F

液体フッ化水素は誘電率が非常に大きく,多くの無機および有機化合物を溶かす.水素よりイオン化傾向の大きい金属のほとんどは侵される.アルカリ金属,アルカリ土類金属,銀,鉛,亜鉛,水銀などの酸化物,水酸化物と反応してフッ化物をつくる.ガラスなどのケイ酸塩と反応して四フッ化ケイ素を生じる.ポリエチレン,銅,白金などの容器に貯蔵される.フレオン(冷媒)や有機フルオロカーボンなどフッ素化合物の製造,ガラスの目盛付けや模様付け,金属表面のフッ化処理,アルキル化パラフィン製造の触媒などに用いられる.きわめて毒性が強い.[CAS 7664-39-3]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フッ化水素」の意味・わかりやすい解説

フッ化水素
フッかすいそ
hydrogen fluoride

化学式 HF 。蛍石に硫酸を作用させて得られる無色,刺激性の強い気体。腐食性が強く,有毒。比重 1.27,融点-83.7℃,沸点 19.7℃。水,アルコールに易溶。ベンゼン,トルエンなどの有機溶媒にも溶ける。水溶液はフッ化水素酸で,腐食性が強く,ガラスなどのケイ酸質をおかす。電球つや消し,フッ化水素酸の二次製品 (フッ化カリウム,フッ化マグネシウム,フッ化バリウム,フッ化セリウムなど) 製造,メッキ (亜鉛メッキの際の酸洗い) ,分析試薬などに用いられる。

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百科事典マイペディア 「フッ化水素」の意味・わかりやすい解説

フッ(弗)化水素【ふっかすいそ】

化学式はHF。比重0.987,融点−83.0℃,沸点19.3℃。流動しやすい無色の発煙性液体。各種の物質をよく溶かす。水に易溶。水溶液はフッ化水素酸(フッ酸とも)といい,弱酸性。有毒。市販のフッ化水素酸はふつう約40%の水溶液。白金,金には作用せず,銀,銅には常温で徐々に作用,鉛ではその表面を侵し,他のほとんどの金属を溶かし,ケイ酸質を腐食するため,ガラスの刻食,電球のつや消し,黒鉛の灰分除去等に利用。半導体表面加工のエッチングにも使われる。ホタル石粉末に濃硫酸を加えて熱することにより,工業的には得られる。ポリエチレン製などの容器に保存。

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知恵蔵mini 「フッ化水素」の解説

フッ化水素

水素とフッ素の化合物で、無色の気体。蛍石に硫酸を加えるなどの方法で得られる。水溶液のフッ化水素酸は腐食性が極めて強く、フロンガスの原料となるほか、半導体の回路形成やガラスのつや消しなどに使われる。半導体生産に使われる高純度のものは日本メーカーが約8割のシェアを握るとされる。2019年7月、政府はフッ化水素を含む化学製品3品目について、韓国への輸出手続き簡略化の優遇措置をやめることを決めた。

(2019-7-18)

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世界大百科事典(旧版)内のフッ化水素の言及

【大気汚染】より

…大気汚染防止法では,燃焼に伴い発生する硫黄酸化物とばい塵,電気を熱源に使ったときにでるばい塵および物の燃焼,合成,分解に伴い発生する有害物質がばい煙とされている。ここで有害物質とは,カドミウム,鉛とこれらの化合物,塩素,塩化水素,フッ素,フッ化水素,フッ化ケイ素および窒素酸化物である。 硫化水素H2S無色腐卵臭のある有毒気体で,火山ガスや鉱泉に含まれ,硫黄を含むタンパク質の腐敗でも生ずる。…

【ハロゲン化水素】より

…フッ化水素HF,塩化水素HCl,臭化水素HBr,ヨウ化水素HIおよびアスタチン化水素HAtの総称。ハロゲン原子と水素原子との結合はフッ化水素を除いてはイオン性よりもむしろ共有結合性で,結合のイオン性の程度はつぎのようである。…

【フッ化水素酸(弗化水素酸)】より

…フッ化水素HFの水溶液。フッ酸ともいう。…

※「フッ化水素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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