誘導弾ともいう。弾頭を目標の近くに運搬し炸裂(さくれつ)させるため,自分のもつ推進装置で主に空中を飛行するとともにその飛行経路を変更する手段を有する無人飛行体で,目標に向かって外部から誘導されるか,みずからを誘導するものと定義される。英語では〈飛び道具〉を意味するmissileに〈誘導される〉の意味のguidedを付してguided-missile(略号GM)と表現されており,日本ではこれを誘導ミサイル,または略して単にミサイルと呼んでいる。誘導飛翔(ひしよう)体(狭義のミサイル)のほか,指揮管制装置,発射装置,点検器材等もミサイル・システムに含まれる。推進装置をもたない誘導爆弾・誘導砲弾,水中を航行する誘導魚雷,誘導装置をもたないロケット弾,弾頭をもたないRPV等はミサイルとは区別され,また宇宙ロケットや人工衛星も,弾頭をもたないので本項目にいうミサイルの定義には含まれない。
一般に武器の有効性を評価するための要素としては,攻撃範囲,破壊力,命中精度,相手の防御網の突破力,味方の人的損耗率等があげられる。ミサイルと運用効果の類似した武器システムとして,砲と航空機がある。砲は簡単・堅牢で,信頼性が高く消耗部分のコストが安いが,砲身や,砲弾発射の際の大きな衝撃を吸収するための大重量の機構が必要であり,また遠方や移動中の目標に対しては命中精度が落ちる。航空機は,機動性,展開性に優れ,搭乗者の高度な判断による融通性があり,ミサイルの不得意な哨戒,偵察等もできるが,人的損失は避けられず,また飛行場を破壊されると使用できない。これに対して,ミサイルのもつ長射程,大きな破壊力,誘導による高い命中精度,高速あるいは低空飛行による優れた防御網突破能力,無人という特性は,砲や航空機に比べて上記の有効性に合致している。
大量のミサイルが初めて実戦に供されたのは第2次大戦であり,その代表例はドイツで完成したV1,V2である。
爆撃機の無人化は,諸国で研究されたが,ドイツ空軍は飛行機型の機体にパルスジェットエンジンを搭載し,あらかじめ定められた経路を約160m/sの速度で目標に向かう無人機を開発し,1944年6月からロンドン等の攻撃に使用した。これがV1(報復兵器Vergeltungs Waffe 1)である。低速のため,順調に飛行した約7500発中,ほぼ半数が高射砲や戦闘機により撃墜された。
一方,第1次大戦後,アメリカ,ドイツ,ソ連等で宇宙旅行のためのロケット技術の研究が進められていたが,ドイツ陸軍はペーネミュンデに広大なロケット研究所を作り,W.vonブラウンらの技術者を集めてA4ロケットを開発させた。これが後にV2となったものである。V2は1段式ロケットで,全長約14m,直径約1.6m,重さ約13t,垂直に発射された後,慣性誘導により姿勢を徐々に水平方向に傾け軌道修正を行い,適正な点でロケットエンジンを停止し,引き続き慣性飛行を続けて最大約1.6km/sの超音速で最大約300kmを飛翔した。1944年9月から実戦に登場し約4000発がロンドンをはじめ連合国側目標に向け発射され,防御手段のないため連合国側を大いに悩ませた。
ドイツではV1,V2のほかにも,射程5000kmをめざした多段式ロケットや,無線誘導の対空ロケット等各種ミサイルが考案され,液体ロケットエンジン,慣性・無線の誘導技術等の基礎的な発展がみられ,中には実用に供されたものもあった。日本では戦時中航空機から発射するミサイルの発射テストまでこぎつけたが,実用にはいたらなかった。アメリカのロケット弾は,第2次大戦前および戦時中を通じて低調であり,ソ連も固体燃料多連装無誘導ロケット〈カチューシャ〉が活躍したものの,ミサイル開発は低調であった。
戦後,ソ連はいち早くペーネミュンデ研究所やロケット工場を占領し,多くの研究資料,技術者を本国へ送り,アメリカもV2とブラウンらの技術者を入手し,こうしてドイツで始まったミサイルは,以後,米ソの競争の下で究極兵器といわれるまでに進歩する。
相手国の政治,軍事,産業の中枢を破壊し,戦争遂行能力を奪う戦略爆撃は,第2次大戦において大規模に実施され,連合軍側の勝利に大きく貢献したが,第2次大戦末期に原子爆弾が出現すると,この大破壊力をもつ核兵器を長距離運搬する手段が重要な課題となり,ミサイルもその一環として検討されることになった(なお,この種のミサイルは後日戦略ミサイルと呼ばれることになる)。アメリカでは大戦中の戦略爆撃機の存在があまりに大きく,戦後もこれの開発が引き続き進められた。一方,V2を基礎とする,原爆を運べる大型長距離ミサイルの開発の可能性は,新しい技術や工業に多額の投資を要するわりに誘導精度が上がらず,このため1947年ミサイル開発計画を中止し,陸軍で小型ロケットの研究を続けるにとどまった。しかし,52年水爆が開発され,地対空ミサイル〈ナイキ〉がテストで戦略爆撃機に対する有効性を実証し,またソ連が大陸間弾道ミサイルintercontinental ballistic missile(略号ICBM)開発に大規模に取り組んでいるらしいとの情報等にかんがみ,ICBMの重点開発が検討され,その結果54年から〈アトラス〉の設計・製造を開始した。
ソ連は1949年原爆の実験に成功すると,その運搬手段としてV2を基礎にミサイルの研究・開発を着々と進め,57年8月ICBM完成を発表した。この射程は8000km,弾着誤差は10~20kmと報道された。同年10月4日,このようなICBMとして利用できる大型ロケットを実用化したことの証(あかし)として人工衛星〈スプートニク1号〉を打ち上げ,遅れてICBM開発に乗り出したアメリカに大きな衝撃を与えるとともに,ミサイル・ギャップをつけた。その後の激しいミサイル競争により,大陸間弾道ミサイル等の戦略ミサイルの開発・配備が着々と進められ,またロケット技術,核弾頭小型化,電子技術の発達等により絶えず性能向上がはかられている。さらにこれらミサイル技術をもとに,人工衛星,惑星ロケット等の打上げが進められている。
第2次大戦後の冷戦下における米ソの戦略は,ミサイル技術,核弾頭技術等を背景に時代とともに変化してきているが,ICBMと潜水艦発射弾道ミサイルsubmarine launched ballistic missile(略号SLBM)および核爆弾または空中発射巡航ミサイルair-launched cruise missile(略号ALCM)搭載の戦略爆撃機を戦略部隊の3本柱として組み立てられてきたことは変りない。また,戦略核ミサイルより射程の短い中距離核ミサイルまたは戦域核ミサイルと呼ばれる一群のミサイルも配備されてきた。
イギリスは初期の戦略爆撃隊構想を変更し,1970年以来アメリカ供給のSLBM〈ポラリス〉にイギリス製核弾頭を装着し,ライセンス生産したポラリス型原子力潜水艦に搭載配備している。フランスは,1960年代初頭に原爆実験,引き続き水爆実験に成功し,戦略爆撃機を配備した。また70年代初頭に地下に基地をもつ中距離弾道ミサイルintermediate range ballistic missile(略号IRBM)と,SLBM搭載原子力潜水艦を配備し,その後も軽量・小型化と射程延伸をはかっている。
中国は,1960年代に原爆・水爆の実験と並行して核ミサイルを開発し,70年代にかけて準中距離弾道ミサイルmedium range ballistic missile(略号MRBM),IRBM,ICBMを配備した。その後も固体燃料のICBM(東風31)を開発中である。SLBMは80年代前半に配備したようである。
戦闘場面において地上施設,車両,艦艇,航空機等の相手側兵器を攻撃,破壊する一群のミサイルは戦術ミサイルと呼ばれる。短距離戦術核ミサイルのほか,第2次大戦中のドイツの対空ロケット,誘導爆弾等を始祖とした通常弾頭の各種ミサイルが含まれ,第2次大戦後,米,英,ソ,仏等で開発,装備が進められてきた。1956年10月のスエズ動乱以来,各種戦術ミサイルが大きな戦果をあげ,ミサイルの有効性を実証している。
戦略核および戦域核ミサイルは飛行方式により巡航型と弾道型に分けられる。
巡航ミサイルcruise missile(略号CM)は,ジェットエンジンのような自蔵の推進システムを継続的に作動させ,翼の揚力により大気中を比較的低速で飛行するもので,第2次大戦中のV1を始祖とし,1950年代アメリカで開発され,57年射程約9000kmの大陸間巡航ミサイル〈スナーク〉が部隊編成された。しかし,これら初期のミサイルは,低空をマッハ1以下の低速度で飛行するので相手の防御を突破する能力が小さい,飛行中に慣性誘導装置のジャイロに生ずる偏差が時間とともに増大し,長時間の飛行では大きな弾着誤差が生ずる,エンジンや翼が大型であり取扱いが不便である,などからほどなく廃棄された。しかし,その後技術の進歩に伴い70年代中ごろから新しい巡航ミサイルの可能性が生じた。すなわち,推進用エンジンとして小型・軽量のターボファンエンジンが出現し,低空を低速で飛行しても燃料消費が少ないため,小型・軽量で長射程の巡航ミサイルが可能になったこと,電波高度計と操縦装置をコンピューターを介して連結することにより,超低空を飛行できるようになり,相手に発見されにくくなったこと,長時間飛行中に慣性誘導装置に生ずる誤差を,後述する地形等高線照合技術terrain contour matching(略号TERCOM(ターカム))等の誘導技術の採用により補正し,弾着精度を画期的に向上できるようになったこと,などによる。アメリカではこれらの技術を用いた空中発射巡航ミサイルを搭載したB52戦略爆撃機を82年末から実戦配備し,83年末には地上から発射する地上目標攻撃用〈トマホーク〉巡航ミサイルの配備を開始し,引き続き水上艦,潜水艦搭載用〈トマホーク〉の配備を進めた。ソ連でも地形照合技術を用いた巡航ミサイルを開発している(巡航ミサイルの分類を表1に示す)。
巡航ミサイルは,大きな弾頭部を弾道ミサイルに比べ小型のミサイルで低コストで運搬でき,戦略爆撃機等に大量搭載が可能である等の長所をもつ。しかし,低速で飛行時間が長いため,人工衛星,早期警戒機等により発見されると,相手が準備や対策を立てるのに十分な時間を与えること,戦闘機等の要撃に弱いこと等の欠点を有する。
V2を始祖とする弾道ミサイルballistic missile(略号BM)は打上げ初期だけロケットで推進され,その間おもに慣性誘導により目標への自由弾道飛翔経路にのり,残余の大部分は自由弾道経路を超音速で飛行するものをいう。先制核攻撃によって敵の戦略核戦力を無力化する能力(第一撃能力)にすぐれている。その発射位置から,陸上,空中および潜水艦発射に分類され,とくに陸上発射については一般に射程から表2のように分類される。また,これら弾道ミサイルを探知,識別,迎撃する弾道ミサイル迎撃ミサイルanti-ballistic missile(略号ABM)がある。
弾道ミサイルの構造は,大別して推進装置,誘導装置,弾頭からなり,また発射装置もシステムに含まれる。
(1)推進装置 弾道ミサイルはロケットエンジンにより,燃焼室で生成された高温高圧ガスを高速で外部に排出し,その反作用で前進する。燃料も酸化剤もすべて内蔵されているので,空気のない所でも推進できる。ロケットはその燃料の性質により,液体ロケットと固体ロケットに分かれる。
固体ロケットは,長時間の燃焼や推力のコントロールが困難で設計上の柔軟性に乏しいが,エンジン機構が簡単で信頼性が高く取扱いが容易である。また液体ロケットの多くが,常温では気体である推薬を使用するため,推薬は冷却,液化して貯蔵し,発射直前にロケットに注入されるのに対し,固体ロケットでは,推薬をロケット内に装てんして貯蔵するため,即応性に優れている。これらの特徴をもつため,軍用ロケット,ミサイルとしては,主として固体ロケットエンジンが用いられている。
(2)誘導装置 ICBMの場合,射程約1万kmを約30分で飛行するが,その経路は次の4段階に分かれる。第1段階 ブースターロケットにより加速しつつ約3~5分で大気圏外の約200kmまで上昇。第2段階 ブースター切離し後,上昇を続けつつ弾頭を目標までの自由弾道上に精密に射出。第3段階 弾頭部分がほぼ真空の宇宙空間を弾道飛翔。最高高度は約1000kmにも達する。第4段階 弾頭が大気圏に再突入後空気抵抗を受けつつ約1~2分で目標に向け落下。
弾道ミサイルについては,通常加速度計,ジャイロなどからなる慣性誘導装置により慣性誘導が行われる。慣性誘導による弾着誤差の原因としては,位置,速度,方位誤差,飛翔中に生ずる加速度計,ジャイロ等の狂い,推力切離し時期の誤差,大気圏再突入後に受ける諸外乱等が考えられる。弾着誤差は射程とともに大きくなる傾向にあるが,これを,第4段階で,あらかじめ記憶された地図と地形を照合する終末地測誘導により,弾着精度を向上する等さまざまな試みもなされている。
(3)弾頭 目標を破壊するためには,弾頭の威力半径を弾着誤差半径より大きくする必要があるが,一般に長射程では誤差半径が大きくなるので,大きな弾頭威力が必要となり,このため戦略ミサイルは莫大な破壊力をもつ核弾頭を装備することになる。初期には単一の大型弾頭であったが,その後ABMの配備に対処するため,および命中精度の向上により多数の弾頭を搭載する方が有効であることなどから,下記のような複数弾頭が実用化されてきた。(a)多弾頭multiple re-entry vehicle(略号MRV) 数個の弾頭が1基のミサイルに装備されたもの。一つの目標地域に分散弾着することにより防御網突破率を高めている。(b)多目標弾頭multiple independently targetable re-entry vehicle(略号MIRV(マーブ)) 各弾頭がそれぞれ別の目標に誘導されるもの。アメリカ方式では,複数弾頭が慣性誘導装置と姿勢制御用小型ロケットをもつ〈バス〉に収納され,ある地点へくると弾頭をある目標への弾道経路にのせて射出すると共にバスの速度と方位を変更する。これを繰り返し,各弾頭は射出時の速度と方位で定まる軌道を描いて異なった目標に弾着する。(c)機動型弾頭maneuverable re-entry vehicle(略号MaRV(マーブ)) 弾頭が再突入に際し舵で各個に機動し,ABMの要撃を避けたり,終末誘導により命中精度を向上させるもの。
(4)発射装置 戦略弾道ミサイルは,敵の戦略ミサイルの先制攻撃の主目標となるため,発射装置を破壊から守るよう種々のくふうがなされている。発射装置は固定式と移動式に大別される。(a)固定式 初期には簡単な地上式発射装置であったが,漸次堅固な地下サイロ方式となり,さらに人工衛星によりほぼ完全にサイロ位置が知られ,攻撃を回避できなくなったことにより,サイロを強化し敵の攻撃によって破壊されにくくしてきた。ホットランチ方式では,発射時の高温でサイロが破壊され再使用できないが,コールドランチ方式は,発射の高温でサイロを傷めることなく,より大直径のミサイルを何回でも発射でき,最も進歩した方式といえる(図1)。しかし,戦略ミサイルの弾着精度が,サイロに直撃するほどに向上してくると,堅固なサイロも破壊されてしまうので,陸上移動式の発射装置や,数多くのサイロを通路でつなぎミサイルが絶えず移動する方式の採用等が検討されている。(b)移動式 絶えずミサイル位置を移動させることにより,敵の攻撃を受けにくくする方式である。発射装置としての原子力潜水艦は,長期間海中を自由に移動できるため敵に位置を悟られにくく,陸上ミサイル基地が敵の攻撃で破壊されたときの報復打撃力としてきわめて有効である。航空機からの空中発射方式も研究されている。これら移動式は,弾着精度が固定式に比べて若干低下する。発射方式の概要を表3に示す。
固定目標に対する長距離ミサイルの誘導方式としては,ロラン等船舶,航空機を誘導するのと同様の無線誘導等も考えられるが,通常は慣性誘導方式が用いられている。これは発射後外部の支援を受けない自立航法で,飛行中ミサイルに働く加速度を計測し,コンピューターにより地球に対する速度,位置を検出するもので,その原理は慣性航法と同じである。飛行中ジャイロや加速度計に生ずる狂い等のため,飛行時間とともに誘導誤差が累積されていく。多数の人工衛星から絶えず送信する暗号信号を,ミサイルが受信して位置を知る地球上配置衛星技術Navigation System with Time and Ranging Global Positioning Satellite(略号NAVSTAR/GPS(ナブスタージーピーエス))がアメリカで開発されている。さらに終末誘導には,以下に述べる地域相関誘導により弾着精度を向上させる試みがなされている。すなわち地形等高線照合技術では,目標付近の地形を,多数の正方形のます目で区切り,それぞれの高度をミサイルのコンピューターに記憶させておき,飛行中電波高度計で測定した高度と照合しつつ現在位置をわりだし,目標への経路を修正していく。この方式は,アメリカの巡航ミサイル〈トマホーク〉等で実用化されている。また,マイクロ波を放射し地上からの反射率を計測し,河川,構築物等の特徴をとらえる対地照合技術radar area correlation guidance(略号RADAG(レーダツグ))もあり,アメリカの〈パーシングⅡ〉で使用されているが,これらは海面上では使えない。
ミサイルの目標に与える威力は,ミサイルの命中精度,弾頭の爆発エネルギーおよび目標の堅牢性などにより変わってくる。対地ミサイルや砲弾などの命中精度はCEP(セツプ)(circular error probable,半数必中界などと訳す)で表される。CEPとは,同一の条件でミサイルを発射した場合,その半数が内部に落下することが期待される,目標を中心とした円の半径をいう。通常の核弾頭では核爆発のエネルギーは爆風,熱線,放射線などとして放出される。
核弾頭の威力半径は,放出エネルギーの3乗根に比例するといわれる。したがって目標に対し同じ威力を与えるためには,命中精度を高めてCEPを1/2にできれば,弾頭の放出エネルギーは1/8ですむことになる。初期のミサイルのCEPは10~20km程度,1960年代でも1000m程度であったといわれる。都市などの広く,堅牢でない目標に対しては,CEPが大きくとも,ロケットエンジンを改良し核弾頭を1Mtから10Mtクラスに強化すれば,有効な攻撃を加えることができる。しかし,軍事目標など点在する堅牢な目標を攻撃するためには,弾頭威力向上のみでは有効でなく,かえって,周囲に不必要な損害を与えることとなる。その後誘導方式の改良により80年代にCEPが200~300mに達したといわれるので,数百kt程度の小型弾頭でミサイル・サイロなど堅牢な軍事目標を破壊することが可能となってきた。こうしてMt級の大型単一弾頭から,100kt級の複数弾頭へMIRV化されて弾頭威力の向上がはかられてきている。
ICBMやSLBMを,その到達以前に撃破するシステムの研究が米ソで進められてきたが,時代とともにその必要性,重要度,内容が変化している。1950年代から60年代にかけては,核弾頭付き多段式ロケットで弾道ミサイルを迎撃するABMと,弾道ミサイルの早期発見,識別,要撃計画のための地上装置の開発を進めてきた。72年のSALT(ソールト)Ⅰ,74年のABM制限条約により,米ソは双方1基地100基以内のABMを持てるとし,ソ連はABM〈ガロッシュ〉をモスクワ周辺に配備したが,その基数は条約より少ない模様である。アメリカは,多機能フェーズドアレー・レーダーと,大気圏外迎撃用〈スパルタン〉,大気圏内迎撃用〈スプリント〉両ミサイルからなるセーフガードABMシステムを一時期配備したが,ソ連のMIRVに対し有効でないとして1975年以後運用を停止している。
ICBMの飛翔時間は約30分,SLBMではさらに短いから,この迎撃には早期発見が必須となる。アメリカは早期警戒衛星システムによりICBM,SLBMの発射を発見し,ICBMに対してはアラスカなどにBMEWS(ベミユース)(Ballistic Missile Early Warning System)や,北米大陸の北緯70度線に沿ってDEWLINE(デユーライン)(Distant Early Warning Line)などの早期警戒システムで,またSLBMに対してはフェーズドアレー・レーダーのPAVE PAWS(ペーブポーズ)等により確認してシャイアン山中の米空軍スペースコマンドに情報を集中し,ミサイルの早期発見につとめている。レーガン政府は,ソ連が弾道ミサイル防衛Ballistic Missile Defense(略号BMD)システムの研究開発の面でも対米優位を達成したと認識し,83年3月に戦略防衛構想Strategic Defense Initiative(略号SDI,スターウォーズと呼ぶ人もいる)を発表,そのなかで,ソ連の核攻撃をアメリカの即時大量核報復(MAD,相互確証破壊)により抑止することなく,戦略弾道ミサイルが自国および同盟国の領土に到達する前に迎撃破壊することにより,窮極的に核の廃絶をはかることを目的とする研究の推進を示唆した。これはソ連の弾道ミサイルを,ロケットエンジン燃焼中,多核弾頭が目標に対する軌道にのるまで,宇宙空間飛行中,および終末突入時のそれぞれの段階でレーザー等を用いて破壊する多層防衛方式である(図2)。なお,偵察衛星などの軍事衛星を攻撃する兵器(ASAT(エーサツト),anti-satellite)の開発については,ソ連ですでに衛星攻撃衛星(キラー衛星)の配備を行っていると報じられており,アメリカでは,戦闘機に多段ロケット式赤外線ホーミング方式の小型迎撃ミサイルを搭載し,急上昇して高空で宇宙空間へ射ち出す方式について開発中である。
戦術ミサイルはその用途,機能,性能に応じて種類も多い。それらは用途,誘導方式,推進方式等から種々に分類できるが,図3に示すような,発射位置,目標位置による分類が最も一般的である。ただし,対戦車ミサイルはATM(anti-tank missile)と通常分類される。
戦術ミサイル・システムには,誘導飛翔体のほか,目標を発見・識別し,ミサイルの割当て・発射制御を行うレーダー,コンピューター等から構成される指揮管制装置,指令に応じミサイルを発射する発射装置,発射後も刻々誘導するためのイルミネーター等の地上器材(母機,母艦の火器管制装置(FCS)を含む),ミサイル輸送用コンテナー,点検器材,訓練器材等が含まれる。ミサイルは,誘導部,制御部,推進部,弾頭および信管,動力源,機体等から構成される。
(1)誘導部 目標およびミサイルの位置,速度等を測定し,ミサイルの飛行経路を計算して誘導信号をつくり制御部へ伝達する部分。目標の性質,使用する媒体等により,後述するように各種の誘導方式がある。
(2)制御部 誘導部の信号をミサイルの姿勢に応じて分解し,サーボ機構の働きでミサイルを所望の経路に誘導するとともに,その姿勢,経路を保持する機能(自動安定auto pilot)を有し,ジャイロ,加速度計,サーボ機構(操舵機構)等から構成される。操舵方式には,動翼による空力的操舵と推力操舵がある。前者はさらに前翼操舵と後翼操舵に分かれる。空力的操舵の機構としては,油圧を動力源とする油圧サーボ,燃焼ガスを動力とするガスサーボ,小型電気モーターを用いた電気サーボがあり,それぞれ特徴に応じて使用されている。推力操舵はTVC(thrust vector control)と呼ばれ,ノズルを機械的に振る方式,噴出ガス中に板を挿入したり,別の流体を噴出することにより推力の方向を変える方式や,ミニロケットを機軸に放射状に射出して方向を変える方式がある。
(3)推進部 ミサイルが所望の速度を達成できるよう加速し(この役割をもつものをブースターと呼ぶ),その速度を維持する(この役割をもつものをサスティナーと呼ぶ)機能をもつ。ブースターとしては,高加速性と取扱いの容易さから,通常,固体ロケットが使用され,燃焼終了後本体から切り離す方式と切り離さない方式がある。サスティナーも大半のものはロケットを使用するが,対艦ミサイルのように空気中を比較的低速で長距離飛行するものでは,ジェットエンジンも用いられる。
(4)機体 速度,安定性,操縦性等の空力的要求を満たす通常はシンプルな軸対称形状で,誘導部,制御部,推進部等の機能部品を有機的に配置するとともに,貯蔵,飛行中の振動,衝撃,温度等の環境から保護してその機能を有効に発揮させるためのもので,胴体,前翼,後翼,操舵翼等からなる。
(5)弾頭,信管 目標を破壊する弾頭,信管は,目標の特性に応じ最適なものが選ばれる。このほか誘導部,制御部等に電力や動力を供給する電池や化学反応ガスなどの動力源も装備される。
ミサイルを目標に接近させ命中させるための誘導システムは,図4に示すような要素から構成されている。このうちどれがミサイルの内部に置かれ,どれが外部に置かれるか,またどれが省略されているか,媒体は何かなどにより種々の誘導方式が生じるが,これは目標の大きさ(点目標,面目標),所在(空中,地上,水中),機動性(航空機,艦船,戦車,固定目標等),識別性(周囲環境との見分けやすさ),妨害能力(ECM,デコイ(囮(おとり))),脆弱(ぜいじやく)性等の性質と深く関連してくる。
(1)誘導方式の分類 戦術ミサイルの目標は固定目標である場合と,移動目標である場合とがある。固定目標に対する慣性誘導と地測誘導は戦略核および戦域核ミサイルの場合と同じである。移動目標に対する誘導は信号判定機能がミサイル外にある指令誘導と,ミサイルが自分で判定し自己誘導するホーミング誘導に分けられる。また,複数の誘導技術を組み合わせた複合誘導がある。
(a)指令誘導 ミサイルを,発射後外部から誘導する指令誘導では,通常,地上のレーダーで目標とミサイルを標定し,地上からの指令でミサイルを目標に向けて飛翔させるので,遠距離では標定精度が悪くなることと,ミサイル搭載誘導装置は簡単で安価だが,地上装置は大規模,大型,複雑になり,また同時に多数目標を要撃できない欠点がある。なお,地上から目標を照射し,目標からの反射波をミサイルが検知して目標位置を地上に伝送し,地上で命中位置を計算してミサイルを指令誘導するTVM(track-via-missile,ミサイル経由追尾と訳す)により,遠距離でも精度を落とさないくふうが,アメリカで開発された〈ペトリオット〉に採用されている。また地上装置の小型化,集約化,同時多目標対処については,電磁ビームを電子的に走査して,多数の目標とミサイルを1基のレーダーで同時に捜索し追尾するフェーズドアレー・レーダーが出現している。
ミサイルを,地上の管制点と目標を結ぶ目視線に沿って誘導する目視線指令誘導は,対戦車ミサイルや,ヨーロッパの短距離SAMでよく用いられている。対戦車ミサイルは,低速度短射程なので,その目視線誘導としては飛翔するミサイルから繰り出される細い電線を通して指令信号を発射地点から送り,混信や電子妨害を防ぐ有線誘導が主として用いられている。このほか外部から電磁ビームやレーザービームを出し,ミサイルを絶えずこのビームの中心に沿って飛翔させるビーム乗り誘導もある。
(b)ホーミング誘導 ミサイルが,内蔵する誘導装置で自己誘導する方式は,ホーミング誘導(ホーミングとは鳥などの帰巣の意)と呼ばれる。ミサイルが目標に接近するとともに誘導精度が向上し,目標の回避運動にも十分追随できる。目標情報を得る方法により,パッシブ・ホーミング,アクティブ・ホーミング,セミアクティブ・ホーミングに分けられる。
外部から目標を照射し,反射波をミサイルが追尾するセミアクティブ・ホーミングは,比較的小型のミサイル搭載誘導装置で中・長距離ミサイルを誘導できるが,航空機,艦船等の発射母体が発射後も目標を照射し続ける必要があり,とくに空対空ミサイルでは母機の行動が制約される。アクティブ・ホーミングはこの欠点を除くため電子技術の進歩を基に,小型送・受信機をミサイルに搭載し,自分の出した電波等の反射波を追尾する方式である。ただし,小型装置のため誘導距離が短いので,射程延伸のためには慣性誘導等との複合誘導が考えられている。パッシブ・ホーミングは,目標の放射する赤外線(とくにジェットエンジンの排気口からは多量の赤外線が放射される)やFCSレーダー等から放射している電波を検知して追尾するので,発射後は外部の助けを必要としない(射放し性fire and forgetという)。赤外線ホーミングの射程延伸のため,発射後目標の未来位置の方向へ飛行し,目標の近傍で作動を始める空中ロックオン方式を採用したミサイル・システムもある。
(c)複合誘導 複合誘導方式は,既存の誘導技術を組み合わせて最適な誘導システムをつくり上げる方式であり,慣性誘導と終末誘導を直列式に複合させて遠距離での誘導精度を向上させ,射放し性と長射程化をはかる方式や,複数の目標検知センサーを並列に用いて対妨害性や,環境の変化に対処させる方式などが実用化されている。なお,戦術ミサイルの誘導方式を表4にまとめて示した。誘導媒体としては,電波,光波(赤外線,可視光,レーザー)等がある。また背景雑音から目標を識別する方法として,CCD(電荷結合デバイス)等を用いての画像処理技術による誘導方式が注目されている。
(2)誘導飛翔経路 ミサイルは,通常,発射直後の自由弾道を経て誘導経路に入る。〈ナイキ〉等ではほぼ直上に発射し,切り離したブースターの落下地点を局限する。誘導経路としては次の各コースがあり,それぞれ特徴をもつ。(a)目標とミサイルの位置,速度から命中三角形を解く会合経路collision courseは,レーダー,計算機等地上装置が大がかりとなる。(b)単純に管制点と目標を結ぶ線に沿ってミサイルを導く目視線経路line-of-sight courseは西欧の短距離SAMに多く用いられている。ビーム乗り方式の経路もこれと同じになる。(c)つねに目標の現在位置に指向する単純追跡経路pure pursuit courseは猟犬が熊を追うときのコースと同じで犬曲線とも呼ばれる単純な方式であるが,終末に急旋回が要求され,高速目標には適さない。(d)ミサイルから目標を見込む目視線の時間変化に比例してミサイルの経路角を修正する比例航法proportional navigationは,距離,速度情報がなくとも会合経路が得られ,またこれを維持できるので,ホーミング誘導ミサイルに通常用いられている。各誘導飛翔経路の略図を図5に示す。
以下でいくつかのケースに分け,戦闘場面に登場するミサイルを考察する。
(1)航空優勢の維持,確保のためのミサイル 侵攻する敵の航空機をレーダーサイト,早期警戒機等により発見すると,AAMを搭載した要撃機がまず要撃にあたる。AAMとしては,FCSの助けによりパイロットの視程外から発射するミサイルと,視程内で発射するミサイルがある。前者は,アメリカの〈スパロー〉に代表されるセミアクティブ・レーダーホーミング方式が主流である。このほか発射後母機が自由に運動できるような,アクティブ・レーダーホーミング方式も研究されている。視程内ミサイルでは射放し性のあるパッシブ赤外線ホーミング方式が主流であり,1958年に台湾海峡で初めて実戦に登場したアメリカ製AAM〈サイドワインダー〉が有名である。
要撃機をくぐり抜けて侵攻してきた敵航空機に対しては,SAMと高射砲の組合せで要域防空に当たる。主として高空からの脅威にはアメリカの〈ナイキ〉に代表される指令誘導ミサイルが,また主として低空域からの脅威には〈ホーク〉のようなセミアクティブ・レーダーホーミングミサイルが対処する。さらに地上部隊や航空基地等は短距離SAMや個人携行用SAMと高射機関砲により,濃密な火網を構成して対処する。短距離SAMとしては目視線指令誘導の〈レピア〉〈ローランド〉や赤外線ホーミング方式の〈チャパレル〉がある。また携行用SAMにはアメリカの〈スティンガー〉の赤外線ホーミングのほか,指令誘導や画像誘導により目標機を前方から攻撃することも研究されている。
(2)上陸艦艇の洋上阻止のためのミサイル 上陸侵攻を企図する水上艦艇や上陸船団は,SSM(艦対艦ミサイル)装備の水上艦艇,潜水艦と,ASM(空対艦ミサイル)を装備した哨戒機,支援戦闘機等により洋上で阻止する。これら対艦ミサイルは,初・中期は慣性誘導,終末期はアクティブ・レーダーホーミングを使う複合誘導が主流である。推進方式は,アメリカの〈ハープーン〉のターボジェット方式,フランスの〈エグゾセ〉等のロケット方式がある。
(3)艦艇防衛のためのミサイル 水上艦艇は,攻撃してくる敵航空機に対しては,上空を護衛しているAAMを搭載した戦闘機により要撃し,さらに近づいたものに対してはSAMで撃破する。艦隊防空用ミサイルとしては,アメリカの〈スタンダード〉やイギリスの〈シーダート〉のようなセミアクティブ・レーダーホーミング方式が主流である。
(4)着上陸侵攻撃破のためのミサイル (a)水際および沿岸地域 海上から上陸侵攻を企てる主力部隊に対しては,上陸前後その兵力を統合・結集して組織化する以前に,弱点をとらえて支援戦闘機によるASM,誘導爆弾による攻撃や地上からのATM等で,水際,沿岸で撃破または減殺し,前進を阻止,遅滞させる。内陸から発射して洋上泊地の輸送船を撃沈する,ターボジェット推進で,慣性誘導とアクティブ・ホーミング終末誘導のSSM(地対艦ミサイル)も用いられよう。この間,航空機の対地攻撃,または空中から奇襲着陸を企てる空挺部隊やヘリボーン攻撃に対しては,短距離SAM,携行用SAM等でこれを阻止する。(b)内陸地域 内陸へ侵攻する敵の戦車等機動打撃力を撃破するためには,地上やヘリコプターから発射されるATMが使用される。ここでは,ミサイルを目視線に沿って手動で有線誘導する第1世代ミサイルや赤外線フレアーにより自動的に目視線に導かれる第2世代が実戦に使用されている。第4次中東戦争(1973)では,戦車が単独にはATM装備の歩兵に対して,絶対優位ではないことが証明された。その後レーザー反射光にホーミングする第3世代ATMが出現するとともに,画像誘導により戦車と背景を識別する方式,ミリ波や赤外線の終末誘導をする子ミサイルを搭載した親子ミサイル等が各国で研究されている。〈マベリック〉のように航空機からテレビ誘導等により戦車やトーチカを攻撃するミサイルもある。以上をまとめた戦術ミサイルの分類を表5に示す。
最近の戦訓から,局地紛争における戦術ミサイルの有効性が実証されてきたが,各国ともミサイルの性能改善,戦術的対応等を検討しているので,絶えず相手に打ち勝つ運用と技術の研究をしておかないと,次の実戦ではもはや役に立たない兵器となることも戦訓の示すところである。
防御方法には,まずミサイルの目標探知や誘導を,電波妨害,チャフ散布などの電子戦,あるいは囮の赤外線発生源(赤外線デコイ)を放出することなどにより妨害する方法(ソフトキル)がある。たとえば,1967年10月イスラエル駆逐艦〈エイラート〉はソ連製ミサイルで撃沈されたが,このミサイルは旧式のアクティブ・レーダーホーミング方式のため,73年10月の第4次中東戦争においては電波妨害によりすべて回避されている。ミサイルは電波妨害を避けるため,各種対電子対策(ECCM)をほどこすほか,82年のフォークランド紛争でイギリスの駆逐艦〈シェフィールド〉を撃沈した〈エグゾセ〉のように,発射後は慣性誘導により低空を飛翔し,艦船からの早期発見を困難とさせたものもある。
艦艇等ではこれらソフトキルに加えて,短距離SAMや近接防空火器により,直接ミサイルを破壊する方法(ハードキル)がとられる。短距離SAMとしては,フォークランド紛争でも使われたイギリスの指令誘導方式の〈シーウルフ〉など,各種方式が検討されている。また防空火器として〈バルカンファランクス〉などレーダーで自動制御された発射速度(単位時間当りの発射弾数)の速い機関砲が開発されている。このほか,航空機が対空ミサイルを回避するためには,ミサイルの限界を越える急激な運動も有効である。
ミサイルは,先端技術を組み合わせた複雑なシステムであり,これが長期貯蔵の後発射され,苛酷な条件下で高い信頼性をもって機能を果たさなければならない。このため,その開発,製造には高度の科学技術,生産管理技術,試験評価技術と,多額の経費が要求されるなど,一国の総合的な工業力,経済力,技術力を要する。したがって,世界でも自国で1機種でもミサイルを開発・装備している国は意外と少なく,《ジェーン年鑑》(1984-85)によれば,戦略ミサイルでアメリカ,ソ連,フランス,中国,イギリスの5ヵ国にすぎず,戦術ミサイルも,上記5ヵ国のほか,西ドイツ,イタリア,スウェーデン,ノルウェー,イスラエル,アルゼンチン,ブラジル,日本,台湾,さらに南アフリカ共和国の10ヵ国が挙げられているにすぎない。なお,韓国,エジプト,スイス,カナダ,オーストラリア等で開発されたとの情報もある。いずれにしても,第2次大戦直後から鋭意ミサイルの開発・装備を進めてきた米ソの超大国を除けば,1国ですべてのミサイルを開発することは不可能なので,自国で開発を進める一方,性能,経済性,取得時間等を考慮して,他国から輸入したり,技術を導入してライセンス生産しており,ヨーロッパ諸国では数ヵ国での共同開発,共同生産も行われている。アメリカも最近,NATO諸国との共同開発,共同生産方式を計画している。
日本では,1956年から具体的研究を開始し,ATM,AAM,ASM(空対艦ミサイル),短距離SAMを開発・装備する一方,〈ナイキ〉〈ホーク〉等をライセンス生産してきた。また艦載SAM等装備量の少ないミサイルは,経済性等を配慮して輸入している。日本のミサイル開発・生産は,戦略ミサイルについては皆無であり,戦術ミサイルでもすべての分野にわたっているわけではないが,それぞれの分野では世界のトップレベルにあると評価されている。なお,ミサイルをめぐる軍縮の動向については〈軍縮〉〈戦略兵器制限交渉〉などの項を参照されたい。
→核戦略 →核兵器 →精密誘導兵器 →電子戦 →ロケット
執筆者:太田 真弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
もともとは飛び道具といった意味であったが、近年はロケットあるいはジェットエンジンのような自動推進装置を備えて高速で飛行する兵器をさすことが多くなった。現在使われているミサイルは、飛行中に進路を修正しながら目標に誘導する装置を利用しており、誘導ミサイルGuided Missile(GM)とよばれることもある。また国によってはミサイルとよばず、ロケット、ロケット兵器、あるいは誘導兵器とよぶこともある。
[服部 学]
1232年に中国で、金(きん)の軍がタタール軍との戦争で使った飛火槍(ひかそう)という兵器が、記録に残っている最初のロケット式兵器であるとされている。これは、槍(やり)の先に火薬をつめ、轟音(ごうおん)とともに火焔(かえん)を噴き出して相手を威嚇する兵器であったらしい。15世紀になって明(みん)代に使われた飛槍(ひそう)とよばれる兵器が、火薬の噴射ガスの反動で槍を遠くに飛ばすもので、これが推進力としてのロケットの軍事利用の最初であるとみなすほうが正しいようである。
ヨーロッパでは、イギリスのコングリーブがロケット兵器を開発(1804)し、1806年にイギリス海軍がブローニュ港のフランス艦隊を攻撃するのに用いて以来、ヨーロッパの各地の戦争で使われ、インドでも使われている。1840年代にイギリスのヘールが、コングリーブ・ロケットを改良したヘール・ロケットを開発した。アメリカは、メキシコ戦争や南北戦争で多数のヘール・ロケットを使用した。またクリミア戦争では、フランスのロケットがセバストポリ要塞(ようさい)の攻撃に威力を発揮したといわれる。しかし小銃や大砲が発達してくるにつれて、命中精度のよくないこの種の兵器は姿を消していった。
第一次世界大戦に敗れて、ベルサイユ条約で中口径以上の大砲の開発・所有を禁止されたドイツでは、1929年末から陸軍が大型ロケット兵器の開発を始めた。ペーネミュンデにつくられたロケット開発センターでは、ドルンベルガーの下でフォン・ブラウンが、液体燃料を使ったロケットの開発にあたった。1942年10月に発射実験を行ったA4ロケットは、初めて超音速で320キロメートルを飛行した。このロケットはアルコールを燃料とし、液体酸素を酸化剤として使っていた。これに750キログラムの火薬弾頭をつけたV2号兵器(重量12.5トン、射程350キロメートル)は、1944年9月8日ロンドンに向けて発射されて以来、約2700発がイギリスとオランダに向けて発射された。このうちロンドンに落下したのは517発であったとされている。
またドイツ空軍は、やはり第二次世界大戦末期に、パルスジェットエンジンをつけた無人飛行機Fi103を開発した。これに900キログラムの爆薬をつけたものを、ヒトラーがV1号兵器と命名した(重量2.2トン、射程280キロメートル)。V2号より先に、1944年6月以降ロンドン攻撃を開始し、1万発以上が発射された。しかしV2号が超音速(マッハ2.5)であったのに比べ、V1号の速度は当時の戦闘機なみであり、途中で撃墜されるものが多かった。
さらにドイツは第二次世界大戦中に、有線誘導のロケット推進空対空ミサイル、X4や、無線誘導の地対空ミサイル、R1、R3、Hs117などを開発し、一部は西部戦線で使われたが、実戦にはほとんどまにあわなかった。航空機から投下する無線誘導の滑空爆弾Hs293は、1943年8月から実戦に使われたが、これも実質的には空対艦あるいは空対地ミサイルであった。一方、対戦車ロケットは、1942年ごろからバズーカ型のものを各国が大量に使用している。また1941年ごろからソ連は、カチューシャと名づけた多連装ロケット弾を戦場で使用した。
第二次世界大戦終了後、V2号を開発したペーネミュンデ実験場はソ連軍の占領下に入り、またV2号を完成させたフォン・ブラウンその他の技術者はアメリカに渡った。米ソ両国は大型ロケット開発の競争に力を入れ、今日の各種のミサイル兵器体系が発達した。V1号は、戦後アメリカで開発された無人飛行機型ミサイルのマタドールやスナークなどの元祖となり、さらに近年の巡航ミサイルに発達し、V2号は今日の長距離弾道ミサイルに発達した。
今日、ミサイルが兵器体系のなかで大きな意味をもつようになったのは、一つは、核兵器の発達に伴い、核弾頭の運搬手段として使われるようになったことと、もう一つは、誘導技術の発達によって、戦術用の精密誘導兵器として実戦に用いられるようになったためである。
[服部 学]
ミサイルの推進方式には、大別してロケットとジェットエンジンがある。ロケットの場合は、内蔵する燃料と酸化剤とを燃焼させ、燃焼ガス噴射の反動で推進する。弾道ミサイルはこの方式である。初期のミサイルには液体燃料を使ったものが多かったが、しだいに取扱いの簡単な固体燃料が使われるようになってきている。ジェット推進の場合は、空気を吸入しながら燃料を燃焼させて推力を得るので、大気圏内を飛行することになり、大気圏外を飛ぶ弾道ミサイルと比べると速度が遅い。巡航ミサイルはこの方式である。ターボファンジェット、ラムジェット、パルスジェット(ほとんど用いられていない)などの方式がある。
ミサイルを攻撃目標に誘導する技術にもいろいろの方式がある。ミサイル自体が目標を探知し、進路を修正しながら目標に到達するのをホーミング(自動追尾)方式とよぶ。これにも、目標が出している電波、熱、光、音などをとらえて追跡するパッシブ・ホーミング方式、ミサイル自体から電波、レーザー光線などを発射し、それが目標から反射してくるのを使って追跡するアクティブ・ホーミング方式、ミサイルの発射母機などから発射する電波、レーザー光線などの反射波を利用するセミアクティブ・ホーミング方式、目標の形状をテレビなどで識別して追尾する光ホーミング方式などがある。
発射母機から、無線、有線、電波やレーザーのビーム、テレビなどで、発射したミサイルの進路の修正を指令して誘導する方式を指令誘導方式とよんでいる。またプログラム誘導方式というのは、ミサイルの発射前に目標までの進路を設定し、飛行中に設定値からのずれを測定して修正しながら飛行する方式で、長距離弾道ミサイルに用いられる。ジャイロと加速度計を用いる慣性誘導、天体や人工衛星を観測してミサイルの位置を確認する天測誘導、陸上の地形、磁場、重力などを測定する地測誘導などがある。さらに誘導方式の開発が進み、1990年代にはGPS(Global Positioning System=全地球測位システム)方式が採用され、人工衛星からの情報できわめて命中精度が高くなった。とくに湾岸戦争でその効果が示された。
[服部 学]
ミサイルは核弾頭の運搬手段として重要な役割をもつようになってきた。核弾頭をつけたミサイルを核ミサイルとよんでいる。核ミサイルは、用途によって戦略用と戦術用に区分されることが多い。その区分は主としてミサイルの射程によるものである。しかし戦略核兵器と戦術核兵器の中間にあるものが戦域核兵器とよばれるようになってきたので、これらの区別はあいまいなものになってきている。
一般的には、6400キロメートル程度以上の射程をもち、目標に核攻撃を加えることのできる兵器を戦略核兵器とよんでいる。大陸間弾道ミサイルIntercontinental Ballistic Missile(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイルSubmarine Launched Ballistic Missile(SLBM)がこの部類に入る。また長距離爆撃機で運ばれる空中発射巡航ミサイルAir Launched Cruise Missile(ALCM)も戦略核兵器の部類に入る。ICBM、SLBM、長距離爆撃機の三者を戦略核戦力の三本柱とよぶことがある。米ソ間の第一次戦略兵器制限交渉および第二次戦略兵器制限条約(SALT(ソルト))の対象となったのは、これらの核兵器運搬手段の数であった。
戦略ミサイルよりも射程の短いものは、射程2400ないし6400キロメートル程度のものが中距離弾道ミサイルIntermediate Range Ballistic Missile(IRBM)、射程800ないし2400キロメートル程度のものが準中距離弾道ミサイルMedium Range Ballistic Missile(MRBM)、それ以下は戦術核兵器とされていた。しかし1987年12月のINF(中距離核戦力)全廃条約では、射程1000ないし5500キロメートルのものを中距離ミサイル、500ないし1000キロメートルのものを短距離ミサイルと定義した。これには巡航ミサイルも含まれている。
[服部 学]
1954年3月、アメリカはビキニ環礁で実用水素爆弾の爆発実験を行い、旧ソ連も1955年11月に本格的な水素爆弾を爆発させた。こうした核弾頭を運ぶ長距離戦略ミサイルの開発が始まり、1957年5月、アメリカは最初のIRBMジュピターの発射に成功した。8月にはソ連がICBMの最初の飛行に成功し、12月にアメリカは最初のICBMアトラスの打上げに成功した。これらの強力なロケットを使って、ソ連は1957年10月に最初の人工衛星スプートニク1号を、アメリカは1958年1月にエクスプローラ1号の打上げに成功した。
1960年代の初めに、米ソ両国はICBMの配備を始めた。アメリカではアトラスに次いでタイタン、ミニットマン、ピースキーパー(MXミサイル)などが開発された。ソ連ではSS‐6、SS‐7、SS‐8、SS‐9、SS‐11、SS‐13、SS‐17、SS‐18、SS‐19、SS‐24、SS‐25などのICBMが次々と就役した。
一方、潜水艦にミサイルを搭載する計画も、第二次世界大戦の末期から始められていた。1954年9月に、アメリカは最初の原子力潜水艦ノーチラス号を完成した。潜水時間と航続距離の長い原子力潜水艦と核ミサイルを結び付けることによって、隠れて移動できるミサイル基地としての原子力潜水艦が、核戦略のなかで重要な役割を占めるようになってきた。核弾頭をつけたレギュラス・ミサイルは、最初に通常型潜水艦5隻に搭載されたが、そのうちのハリバット号は途中で原子力潜水艦に改造され、その後まもなくSLBMポラリス・ミサイルが開発されてこれにかわった。1960年7月、原子力潜水艦ジョージ・ワシントン号が初めて水中からポラリス・ミサイルの発射に成功し、配備を始めた。一方ソ連も、1962年7月にSLBMの水中発射に成功し、1964年ごろからSSN4などのSLBMの配備を始めた。
SLBMについては、アメリカではポラリスに次いでポセイドン、トライデントなどのミサイルが開発され、現在はトライデントⅡ(D‐5)ミサイルが配備されている。旧ソ連ではSS‐N‐5、SS‐N‐6、SS‐N‐7、SS‐N‐8、SS‐N‐17、SS‐N‐18、SS‐N‐20、SS‐N‐23などが開発された。
現在、米ロ以外でICBMを保有しているのは中国、SLBMを保有しているのはイギリス、フランス、中国である。
[服部 学]
戦略ミサイルを使用して、都市や産業施設のような広い目標ではなく、たとえば相手のミサイル発射基地のような特定の堅固な目標を攻撃して破壊するには、弾頭の威力を大きくするよりは、命中精度をよくするほうがずっと効果的である。特定の目標を破壊する能力は、弾頭の威力の3分の2乗に比例し、誤差確率半径(目標点を中心として、発射した弾頭の半数が落下する円の半径)の2乗に反比例する。つまり誤差確率半径を半分に縮められれば、弾頭の威力を8倍強力にするのと同じ破壊効果が得られることになる。
1960年代の後半に、アメリカは戦略弾道ミサイルのMIRV(マーブ)(Multiple Independently targetable Re-entry Vehicle=複数独立目標弾頭、多弾頭誘導弾とも)化の開発を始めた。MIRV化というのは、1基のミサイルに複数の核弾頭を取り付けて発射し、ロケットを切り離して弾道飛行に移ったのち、弾頭を1発ずつ別々の目標に誘導し、しかもその命中精度を非常によくしようとする方式である。MIRV化ミサイルの配備は、1970年のミニットマンⅢ型ICBMから始まった。1959年に配備されたアメリカ最初のICBMアトラスの誤差確率半径は約3700メートル、1963年に配備されたタイタンⅡ型では900メートルであったが、MIRV化されたミニットマンⅢ型の誤差確率半径は120メートルとなった。SLBMもMIRV化された。
旧ソ連はすこし遅れて1973年ごろから広範にMIRV化ミサイルの開発を始めた。しかし命中精度はアメリカと比べてかなり劣っていた。
戦略ミサイルのMIRV化は、核戦力を著しく増強したばかりでなく、核戦略にも大きな影響を及ぼした。弾頭数が多く命中精度のよいMIRV化ミサイルならば、少数を発射しただけで相手の多数のミサイル発射サイロを先に破壊してしまうことができる。つまり報復攻撃の心配をせずに先制核攻撃を加えることが技術的に可能となってきた。これは、いわゆる核抑止力論を破綻(はたん)させることになり、核戦争の起こる危険性を大きくしている。MIRV化ミサイルは、大気圏外の弾道飛行中に細かい軌道修正を行うことで命中精度を高めているが、弾頭が大気圏内に再突入してからの大気による航路の偏向は避けられない。これを補正するには、再突入した弾頭自体を操縦する能力が必要になる。これがMaRV(マーブ)(Maneuvering Re-entry Vehicle=進路修正弾頭)方式とよばれる技術である。
[服部 学]
1960年代の終わりごろから、発射された相手国の戦略ミサイルを、自国に到達する前に迎撃して核爆発によってこれを破壊しようとするミサイル、ABM(Anti-Ballistic Missile=弾道弾迎撃ミサイル)の開発が始まった。しかし米ソ両国は、1972年5月の第一次戦略兵器制限交渉(SALT‐Ⅰ)のなかで、両国のABM体系の配備を2地域(首都とICBM発射基地)に制限するABM制限条約を結んだ。そして1974年7月のABM議定書では、配備を1地域に減らし、最高100基までとした。しかし攻撃ミサイルのMIRV化によってABMの有効性が低下してきたので、アメリカは1975年にABMの配備を廃止した。ソ連はモスクワ周辺にガロッシュとよばれるミサイルによるABM網を配備した。
1983年3月、アメリカの大統領レーガンは、発射された相手国の戦略ミサイルを、宇宙空間から強力なレーザー光線や高エネルギー粒子線などを使って破壊しようとする新しい兵器体系の開発を命令した。これがSDI(Strategic Defense Initiative=戦略防衛構想)とよばれるようになった。しかし同時に発射された多数の戦略ミサイルを数分のうちに100%確実に破壊できるようなSDI体系を完成させることは、技術的にも不可能であろうといわれていた。また、おとりのミサイルが多数発射されれば、これを見分けることも困難であろう。さらに、超低空を飛行する巡航ミサイルに対しては、この技術は役にたたない。国際政治の面では、SDI兵器の配備はABM制限条約に反するのではないかという点なども問題となっており、核軍縮交渉を複雑なものにした。しかし、1993年クリントン政権になると、SDIは、大気圏外を含む高層でミサイルを迎撃するシステムと大気圏内の低層で迎撃するシステムを組み合わせたTMD(Theater Missile Defense=戦域ミサイル防衛)にとってかわられた。さらに、2001年G・W・ブッシュ政権になると、TMDとNMD(国家ミサイル防衛)を包括した新たな弾道ミサイル防衛(BMD。単にMDともいう)構想が打ち出された。なお、アメリカはこのミサイル防衛を推進するため、2001年12月ABM制限条約から脱退することをロシアに通告、翌年6月正式に脱退した。
[服部 学]
巡航ミサイルCruise Missileとは、ジェットエンジンをつけた有翼ミサイルのことで、第二次戦略兵器制限条約(SALT‐Ⅱ)では、「飛行経路の大部分を空気力学的な揚力で飛行する無人自己推進誘導兵器運搬装置」と定義されている。
第二次世界大戦でドイツ軍が使ったV1号が巡航ミサイルの元祖にあたるが、戦後アメリカは、この型のミサイルとしてマタドール、スナーク、レギュラス、メースAおよびBなどを開発した。旧ソ連もSS‐N‐2、SS‐N‐3などを開発した。その後、長距離戦略ミサイルとしては弾道ミサイルが著しく発達したので、大気圏内を飛び速度の遅い巡航ミサイルは主として短距離戦術ミサイルとして使われてきた。1970年代に入って、アメリカは新しい世代の長距離巡航ミサイルの開発を始めた。空軍は空中発射巡航ミサイルAir Launched Cruise Missile(ALCM)としてボーイング社のAGM86Bを採用し、海軍は水上および水中発射巡航ミサイルSea Launched Cruise Missile(SLCM)としてマクダネル・ダグラス社のトマホークを採用した。トマホークには陸上発射型のGLCM(Ground Launched Cruise Missile)もある。これらの新型巡航ミサイルには、核弾頭用にターボファンエンジンをつけた長射程(2400ないし3000キロメートル)のものと、通常弾頭用にターボジェットエンジンをつけた短射程のものがあるが、外形はほとんど変わらない。
速度の遅い巡航ミサイルがふたたび重視されるようになってきたのは、推進技術および誘導技術の進歩により、超低空を飛んで命中精度を非常によくすることができるようになったからである。海上では30メートル、陸地では平野部で50メートル、山地でも100メートルという超低空を飛ぶので、レーダーに発見されにくい。また慣性誘導のほかに、地形標高照合方式Terrain Contour Matching system(TERCOM(ターカム))を用い、レーダーで読んだ地形をコンピュータに記憶させた地図と照合しながら飛んでいくので、きわめて命中精度が高くなる。
[服部 学]
現在世界の各国は多種多様な戦術ミサイルを保有しているが、日本の自衛隊もアメリカ製および日本製の各種の戦術ミサイルを配備している。戦術ミサイルの多くは通常弾頭をつけたもので、実際の戦場で戦術兵器として用いられている。しかし核弾頭と通常弾頭の両用のものもある。戦術ミサイルは、攻撃する目標によって、対地用、対艦艇用、対潜水艦用、対航空機用、対ミサイル用、対戦車用、対レーダー用などと分類されることがある。これとは別に、装備する場所と攻撃目標のある場所との組合せによって、地対地あるいは艦対艦(SSM)、地対空あるいは艦対空(SAM)、空対地あるいは空対艦(ASM)、艦対潜(SUM)、潜対艦(USM)、潜対潜(UUM)、空対空(AAM)などに区分されることもある。対戦車ミサイルはATMとよばれることがある。
ベトナム戦争で使われた相手のレーダー源を目標にして攻撃するミサイルはAnti-Radar Missile(ARM)とよばれた。またレーザーやテレビで誘導した爆弾はスマートSmart爆弾ともよばれた。1970年代以降に現れた高精度のミサイルを精密誘導ミサイルPrecision Guided Missile(PGM)とよぶことがある。
ベトナム戦争では各種のミサイルが実戦に使用された。1965年2月にアメリカは北爆を開始したが、7月以後、ソ連から供与された地対空ミサイルSA‐2で、アメリカ軍機が次々と撃墜されるようになった。アメリカ軍は空対地対レーダーミサイル、シュライクでSA‐2陣地のレーダーを破壊しようとしたが、これはあまり効果がなかった。アメリカが1972年春ごろから使用した誘導式のスマート爆弾は、ミサイルとほとんど同じようなもので、命中精度が高く効果をあげた。1967年6月の第三次中東戦争では、アラブ連合(現、エジプト)海軍のミサイル艇から発射されたソ連製艦対艦ミサイル、スティックス3発で、イスラエルの駆逐艦エイラート号が撃沈された。ミサイルが海上で使用され、艦艇を撃沈した最初の例であった。1973年10月に始まった第四次中東戦争は、各種の地対空ミサイル、空対空ミサイル、艦対艦ミサイル、対戦車ミサイルが本格的に使われた戦争であった。アラブ側が装備したソ連製地対空ミサイルのSA6ゲインフルや、対戦車ミサイルのスナッパーやサガーが威力を発揮した。さらに1981年6月には、イスラエル空軍機がイラクの首都バグダード郊外に建設中の原子炉オシラクを空対地ミサイルで攻撃し、これを完全に破壊するという事件も起こっている。1982年のフォークランド紛争では、アルゼンチン空軍機がフランス製対艦ミサイル、エグゾセAM39の1発でイギリスのミサイル駆逐艦シェフィールド号を撃沈した。1981年に始まったイラン・イラク戦争でも、各種のミサイルが使われている。1987年5月、ペルシア湾でイラク軍が誤って発射し、アメリカのフリゲート艦スターク号を大破させたのもエグゾセ・ミサイルであった。湾岸戦争では多数の巡航ミサイルであるアメリカ製のトマホーク(通常弾頭)が発射された。1998年8月、対テロ報復攻撃として、アメリカ軍は75~100発のトマホークをスーダンとアフガニスタンに発射した。さらに同年12月の米英軍によるイラク攻撃、1999年3月からのNATO(ナトー)(北大西洋条約機構)軍によるユーゴスラビア空爆にも多数使用された。
[服部 学]
『明地力著『世界兵器発達史』(1976・朝日ソノラマ)』▽『国連事務総長報告『核兵器の包括的研究』(1982・連合出版)』▽『読売新聞社編『兵器最先端7 ミサイルと核』(1986・読売新聞社)』▽『斎藤利生著『武器史概説』(1987・学献社)』▽『小都元著『世界のミサイル』(1997・新紀元社)』▽『小都元著、デジタルファクト・知識計画・新紀元社編集部編『ミサイル事典――世界のミサイル・リファレンス・ガイド』新版(2000・新紀元社)』▽『小都元著『ミサイル防衛の基礎知識――ニュースがわかる:ミサイルの脅威と国際軍事情勢について正しくわかる本』(2002・新紀元社)』▽『森本敏著『ミサイル防衛――新しい国際安全保障の構図』(2002・日本国際問題研究所)』▽『坂上芳洋著『世界のミサイル防衛』(2003・アリアドネ企画、三修社発売)』▽『金田秀昭著『弾道ミサイル防衛入門――新たな核抑止戦略とわが国のBMD』(2003・かや書房)』▽『小都元著『最新 ミサイル全書』(2004・新紀元社)』▽『T.B.Cochran et al.Nuclear Weapons Databook Volume 1, U.S. Nuclear Forces and Capabilities(1984, Ballinger Publishing Company)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ロケットやジェットの推進装置に軍事用弾頭を装着して主に誘導して攻撃する兵器。最初に大量に実戦で用いられたのは,第二次世界大戦時のドイツのV1,V2である。戦後,米ソが開発競争を行い,大陸間弾道ミサイル(ICBM),巡航ミサイル,潜水艦発射弾道ミサイルなどが開発され,核弾頭の装着も可能となった。ミサイルは現代では実戦で頻繁に使用され,主要兵器となっている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加