男物の冬の和服。薄い綿入れのくつろぎ着。対丈(ついたけ),広袖を付詰(つけづめ)にし,通裏(とおしうら),袖口と掛襟に黒八丈をつける。縞の御召や紬,銘仙などのはでな柄の絹物で仕立て,ゆかたの上に重ねて一つ前にして着,細帯や伊達(だて)締を締める。江戸時代初期(1625年ころから),江戸にふろ屋が流行し,その湯女(ゆな)を目当てに通う男たちの,人目をひくはでで伊達な風俗を丹前風といった。神田の堀丹後守邸の前にあったふろ屋が最も有名であったことから〈丹前〉の名称が起こったという。遊女勝山が始めた扮(なり)という説もあるが,髪型から動作,話しぶりに至るまで風変りで,丹前好み,丹前ぶりといわれた。これらの男伊達が着ていた綿入れを丹前と呼ぶようになった。時代が下ると,同じ綿入れの和服を,上方では丹前,江戸では〈どてら〉と呼んだ。
執筆者:山下 悦子
(1)演技用語。出端(では)の特殊な歩き方,またその特殊な演技術を〈丹前〉という。江戸初期に流行した遊客や俠客たちの風俗を歌舞伎に採り入れたもの。後には〈六法(ろつぽう)〉の名称に含まれるようになったが,現在でも〈丹前合方(あいかた)〉を演奏して演じられる場面が残っている。(2)歌舞伎舞踊の一系統。元禄期(1688-1704)の江戸の立役は《茶の湯丹前》《立髪丹前》《奴丹前》など,得意な丹前の演技術を採り入れた演目を持っていた。この系統のもので現在残っているものに,常磐津節の《三人形(みつにんぎよう)》,清元節の《土佐絵》,荻江節の《金谷丹前(かなやたんぜん)》《水仙丹前》,長唄の《高砂丹前》《廓丹前》《鞘当》《供奴》《元禄花見踊》などがあり,これらを一括して〈丹前物〉という。〈丹前〉を演技術として歌舞伎で初めて見せたのは多門庄左衛門(生没年不詳,1660年江戸で活躍)といわれ,初世市川団十郎を〈丹前開山〉と記すものもある。
執筆者:鳥越 文蔵
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家庭でくつろぐとき、防寒用として衣服の上に重ね着する綿入れの男子の家庭着。普通、浴衣(ゆかた)の上に重ねて一つ前にあわせて着衣し、細帯を締める。最近、旅館などでは女性用も用意されている。布地は男物袷(あわせ)長着と同じで、表布は縞(しま)木綿、綿紬(つむぎ)などの綿織物、黄八丈、紬類、お召(めし)などの絹織物、化繊織物、化繊交織織物などである。柄(がら)はおもに縞物の、大きめでややはでなものを用いる。裏は通し裏にし、布地ははな色(紺)の金巾(かなきん)を主として用いる。袖(そで)口布、掛け衿(えり)は八丈、琥珀(こはく)織などを用い、充填(じゅうてん)材には木綿綿(丹前綿)または丹前用吹止め綿を用いる。近年はウールを用いて、単(ひとえ)仕立ての丹前がつくられている。形は男物袷長着と同様であるが、袖は広袖である。また袂(たもと)袖にすることもある。
丹前は本来ぜいたくなくつろぎ着で、結城(ゆうき)紬の衣服の上に着衣したといわれている。なお喜田川守貞(きたがわもりさだ)の近世風俗志『守貞漫稿』によれば、丹前は京坂の服名で、江戸では「どてら」とよんでおり、夜着(よぎ)より小さく衣服より大きく、衿端に裏を出し、褄(つま)形は方にして円ならず、また、練り繰り糸をもって夜着、ふとんのようにとじ、黒半衿をかけるとあり、今日の丹前とは形が異なっている。江戸時代初期、承応(じょうおう)・明暦(めいれき)(1652~58)のころ湯女風呂(ゆなぶろ)が流行し、江戸・神田四軒町雉子(ちご)町の、堀丹後守(たんごのかみ)邸前にある風呂屋に通う男伊達(だて)の異様な風を丹前風といい、これが上方(かみがた)へ移って丹前とよばれ、防寒着の一種となった。
[藤本やす]
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…〈傾城事〉〈怨霊事〉〈物語〉〈身替り〉〈やつし〉〈濡れ場〉〈責め場〉〈縁切り場〉〈殺し場〉〈強請場〉など,演技上の類型が劇全体における局面構成の類型と結びついている例である。劇的に高揚した一瞬に,ツケを打たせ静止したポーズにきまる〈見得〉,舞踊性の濃い〈だんまり〉や〈立回り〉,戯曲とは関係なく歩く芸そのものの迫力や美しさを見せる〈丹前〉や〈六方〉などは,写実主義による西欧近代劇と構造的に異質な歌舞伎が育て上げた独特の演技様式である。〈せりふ〉も同様で,それぞれの様式に独自の一種のリズムを持つ。…
…しかし昭和40年代半ばを過ぎると,内風呂の普及,都市生活の変化により銭湯そのものが減少する一方,ビル化でビルの中の一室を銭湯にする形が増加している。【玉井 哲雄】
[江戸の銭湯]
近世初期,江戸では丹前(たんぜん)風呂の名が喧伝され,〈丹前風〉と呼ぶ風俗を生み出した。この銭湯は,現在の神田須田町付近,堀丹後守の邸前にあった何軒かの湯女(ゆな)風呂で,丹後殿前を略して〈丹前〉と呼んだ。…
…すなわち〈なんば〉の動きをする。この種の演技術を指す言葉として〈丹前〉〈だんじり〉なども使われたが,しだいに〈六方〉に統一された。同時に,最初出端(では)の芸であったものが,引込みの芸に移っていった。…
※「丹前」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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