感染症の予防方法の一種。あらかじめその病原体のすべてまたは一部(ワクチン)を経皮的・経口的に体内に入れる(接種する)ことで免疫(抵抗力)をつけておくこと。その後、実際にその病原体と触れた場合に、感染したり、重症化したりしないよう、予防することをさす。ただし、予防接種の効果は完全ではない。
ワクチンはその性質により、生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイド(不活化に含めることもあり)、そして新型コロナワクチンにあるような、メッセンジャーRNAやウイルスベクターワクチンに分けられる。生ワクチンとは、病原性を弱めたウイルスや細菌を用いたもの、不活化ワクチンとは、ウイルスや細菌を集めて精製したあと加熱や薬剤処理によって病原体の活力を失わせたもの、トキソイドとは、病原体が増殖する過程で産生される毒素(トキシン)を処理し無毒化したものである。接種後に獲得される免疫力は、生ワクチンではほかと比較し強固である。日本で使われているのは、
(1)生ワクチン:ロタウイルス、BCG、麻疹(ましん)・風疹(混合含む)、水痘、おたふくかぜ、黄熱
(2)不活化ワクチン(トキソイド含む):B型肝炎、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib(ヒブ))、13価肺炎球菌結合型、百日咳(ひゃくにちぜき)ジフテリア破傷風不活化ポリオ(混合)、百日咳ジフテリア破傷風(混合)、ジフテリア破傷風(混合)、破傷風、不活化ポリオ、日本脳炎、ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザ、23価多糖体肺炎球菌、A型肝炎、狂犬病、髄膜炎菌、帯状疱疹(ほうしん)
などがあげられる。
また、予防接種法による定期接種(予防接種を受けるよう努めなければいけないもの)として、小児期におけるロタウイルス、BCG、麻疹・風疹、水痘、B型肝炎、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型、13価肺炎球菌結合型、百日咳ジフテリア破傷風不活化ポリオ(混合)、ジフテリア破傷風(混合)、日本脳炎、ヒトパピローマウイルス、中年男性における風疹、高齢者におけるインフルエンザ、23価多糖体肺炎球菌があげられる。臨時接種(2022年(令和4)6月現在、新型コロナワクチンのみ)の意義は、おおむね定期接種に準じる。
予防接種の歴史では、18世紀のエドワード・ジェンナーによる種痘(天然痘に対するワクチン)が有名である。その後上述のように数々のワクチンが普及した。なかでも、日本脳炎ワクチン(1954)や水痘ワクチン(1987)は、世界に先がけて日本で開発されたワクチンである。一時期、欧米と比較して国内導入が遅れたもの(インフルエンザ菌b型、不活化ポリオ、肺炎球菌結合型など)が目だったが、近年ではその差は縮まってきている。
[新庄正宜 2022年7月21日]
感染源対策や感染経路対策と並んで伝染病の流行を予防する方法の一つで,人または家畜に免疫を獲得させるためにワクチンなどをあらかじめ接種することをいう。ワクチンには,弱毒化した病原体を生きたまま(これを生ワクチンという),あるいは病原体を不活化したり(これを死菌ワクチンまたは不活化ワクチンという),病原体の産生した毒素を不活化したもの(これをトキソイドという)があり,これを注射,経口的内服などの方法で接種し,人工的に免疫を与える。獲得した免疫の接続性の点では生ワクチンが長期間にわたり,すぐれているが,副作用が強かったり,接種された人の体内で,感染力の強い元の病原菌に変性することがある。不活化ワクチンは,副作用が少ないが効果が弱い。そのために免疫効果を上げるために,かなり濃度の高いものを接種するので,アレルゲンとして働いて発熱やショックを起こすこともある。しかし,そのような副作用はまれであり,伝染病予防には効果的である。
執筆者:豊川 裕之
日本で最初の強制予防接種は,1876年の天然痘予防規則に基づく種痘の強制にさかのぼることができる。その後,1909年に種痘法が制定され,種痘の徹底が図られた。しかし,種痘以外の予防接種の法制化は,48年の予防接種法の制定をまたねばならなかった。この法律は,その後十数回の改正をへて,今日,おおよそ次のような内容をもっている。
予防接種の対象疾病は,(1)ジフテリア,(2)百日せき,(3)急性灰白髄炎,(4)麻しん,(5)風しん,(6)日本脳炎,(7)破傷風,(8)その発生およびまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められた疾病として政令で定めるその他の疾病である(2条)。1994年の法改正により,1980年にWHO(世界保健機関)により根絶宣言が行われた痘そう,他の治療方法等が存在するコレラおよびワイル病,流行するウイルスの型がとらえがたく,ワクチンの構成成分の決定が困難なインフルエンザ等が対象疾病から外され,症状が重篤でありながら有効な治療方法が存在しないため,予防が特に重要な破傷風が新たに加えられた。予防接種の実施は,定期の予防接種(3条)と臨時の予防接種(6条)とに分けられる。前者は,現在のところ前掲(1)~(7)の疾病について行われている。ただし,(6)については,発生状況等を勘案し,指定された区域において行われないことがある。後者は,前掲(1)~(8)の疾病について,まん延予防上緊急の必要があると認められるときに,その対象者および期日または期間を指定して臨時に行われる予防接種である。
予防接種の実施者は,市町村長(定期),都道府県知事(臨時)が原則である。これらの実施者は,予防接種を受けようとする者について,厚生省令で定める方法(問診,検温および診察の方法)により健康状態を調べ,当該予防接種を受けることが適当でない者に該当すると認めるときは,予防接種を行ってはならない(7条)。予防接種による健康被害を防止するための規定であるが,今後,より安全な予防接種を実施するためには,本人の個人的な体質等をよく理解したかかりつけ医による個別接種が推進されなければならない。予防接種の対象者は,当該接種を受けるように努めなければならない(8条)。94年の法改正により,一部罰則を伴う義務規定から努力規定に緩和された。
1976年の法改正により創設された予防接種健康被害者救済制度は,94年の法改正により拡充された(11条以下)。予防接種を受けたことによって疾病,障害,死亡等の健康被害が生じた場合,医療費および医療手当,障害児養育年金,障害年金,死亡一時金,葬祭料等の給付が行われる。日常生活において介護を必要とする在宅の障害年金受給者に対しては介護加算がなされる。また,これらの者の医療,介護に関し,国は,その家庭からの相談に応ずる事業その他の保健福祉事業の推進を図るものとされている(18条)。なお,結核予防法にも予防接種の規定があり,定期および定期外の予防接種が行われている。
執筆者:平林 勝政
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出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…先天的な外表あるいは内臓奇形は,乳幼児健康診査が新生児期,乳幼児期にきめ細かく行われるようになって早期に発見されるようになった。各種スクリーニング試験や予防接種は勧められるままに必ず実施し,乳幼児健診,保健指導の機会を逃さないことが親とし,養育者としての義務であろうし,また育児に失敗しないための大切な条件といえよう。
[しつけ]
しつけは,日常生活に必要な事柄を習慣づけること,礼儀作法を身につけさせること,社会生活に必要な規律を身につけさせることであるが,その内容は,時代により,文化により,その社会のもつ児童観により,家庭によって変化するものである。…
…病原性をもつ細菌,ウイルスなどを適当な方法で殺したもの,あるいは病原性をなくした生菌,生ウイルスなどで,ヒトその他の動物の感染性疾患の予防接種に用いられるものをいう。 ジフテリア,破傷風などの細菌は毒素を分泌し,この毒素が種々の臓器に障害を与えるが,これらの毒素を精製し,ホルマリンで処置すると毒素タンパク質は変性して無毒化する。…
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