企業を組織単位とする労働組合。企業内組合ともいわれ、第二次世界大戦後における日本の労働組合の基本的な組織形態となっている。広義に、同一企業に所属する事業所単位の組合を網羅した企業別連合体(企業連)を含めて理解されている。企業別組合は現在も日本の単位組合の90%を占め、終身雇用、年功賃金と並んで、日本的労使関係の特質を形成するものとなっている。
労働組合の組織や形態は、その国の産業経済や歴史的な背景によってさまざまである。日本の労働組合が企業別組合として成立したのは、敗戦後、日本占領を主導したアメリカが民主主義形成の担い手として労働組合に期待し、早期かつ企業単位にその結成を奨励したこと、1920年代以来、経営家族主義の伝統や「年功」的な労使関係が存在していたこと、また日中戦争以降、生産増強の国策運動として「労資一体」を理念とする産業報国会が工場・事業場に結成されていたこと、などがあげられる。
企業別組合の特徴の一つは、組合員の資格を特定の企業あるいは事業所の正規の従業員のみに限り、かつ工員と職員を一体で構成するいわゆる工職混合組合として組織されていることにある。
このような企業別組合は、世界の労働組合の歴史からみると、きわめて特異な存在で、同一の技能をもって組織する職業(能)別組合や同一の産業に従事する労働者で構成する産業別組合など、特定の企業または雇用関係を超えた横断的・階級的結合を組織原理として発展してきた欧米においてはあまり例をみない。たとえば、欧米では企業または事業所単位に、労使が一体となった形で組織される組合を会社組合(company union)とよび、一般に独立性を欠くゆえに御用組合とみなされ、使用者による結成の働きかけは不当労働行為として排されている。
日本の企業別組合は、他の同一産業の労働組合と連携を保ち、全国的な産業別単一組合(単産)の単位組織となっている。また、企業別組合は特定企業を単位としているため、企業の実態に即した労使関係を構築することができるほか、雇用、賃金、労働時間、異動、教育・研修など労働条件に関する団体交渉においても、あるいは労使紛争やストライキの発生に際しても、労使双方が状況を把握して機動的に対応することができる、という利点が指摘されている。他方、組合と組合員の関係でも、組合役員は従業員である組合員から選任されるので、執行部は現場に精通し、かつ組合員とは常時意思疎通を図ることができる、などの積極的な側面もあげられている。
しかし、企業別組合は他の職業別、産業別の横断組合と比較した場合、労働者全体の統一や団結にとってむしろマイナスに機能している例が多い。第一に、組合員の資格と範囲が特定企業における正規の従業員に限られていることから、労働市場が企業内部に囲われ(内部労働市場)、労働組合としての機能や活動が企業の枠を踏み出しにくいものとなっている。このため、給与・手当をはじめとする組合員の労働条件は、特定企業の経営状態や使用者の方針に左右され、横断組合のように「同一労働・同一賃金」の原則や労働条件の社会的平準化を図ることが困難な事態となっている。
第二に、労働組合としての独立性が保持しにくい。企業別組合の場合、とくに大企業においてその内部組織は、一般に支部、分会などと職制機構の各段階に対応してつくられている。このため、組織の各段階において使用者側から支配・介入を受けやすいほか、組合幹部と職制の癒着が生まれて御用組合化の傾向を帯びたり、組合分裂の危険をはらむものとなっている。
第三に、企業意識、従業員意識の優位という問題性も内包している。企業別組合の場合、労働協約上では一般にユニオン・ショップ制がとられ、組合員の資格は当該企業の従業員身分のうえに取得される(被雇用者の組合加入の義務づけ)。このため組合員意識とか、労働者としての階級意識や連帯意識よりは、むしろ「会社あっての組合」など企業との一体意識や企業エゴイズムが優先される傾向にあり、産業別統一闘争や他の組合との連帯活動が阻害されやすい。
第四に、企業別組合は通例、正規雇用者の従業員組合として存在し、臨時工、社外工、派遣労働者、パートタイム労働者などの非正規労働者は加入していない。このため企業内では労働条件などをめぐって組合員と非組合員との間に差別や対立が生じやすく、また労働組合それ自体、従業員全体としてのまとまりを欠く結果、使用者側に対してその交渉力を弱めている。
日本の労働組合の組織現勢は、2001年(平成13)6月末現在で6万7706組合、組合員数1121万2000人、組織率20.7%で、いずれも1995年以来連続しての減少であった(法政大学大原社会問題研究所編『日本労働年鑑』2002年版)。この間、雇用者数(非正規雇用を含む)は増加し、2001年6月末現在で5413万人となっている(同)。
労働組合の組織現勢が1995年以来、減少を重ねているのは、経済におけるグローバル化の時代を迎えて企業が「市場競争」にさらされ、事業の再編統合や海外への工場移転を進めていること、政府自ら「規制改革」を公約して雇用の流動化政策を進めていること、終身雇用や年功賃金など日本的な雇用制度が事実上崩れ、労働者自身、雇用形態の多様化を志向し、転職観も変わってきていること、などがあげられる。
しかし、日本における労働組合の組織力の低下は、基本的には企業別組合としての組織原理と運動それ自体に根ざすものと考えなければならない。すなわち、日本の企業別組合は正規社員の一括加入を原則としている結果、組合員意識より従業員意識を優先する傾向にあり、他方で、1990年代以降、社会が変化して個人の生活様式も価値観も変わっているなか、組合が、組合員の多様化した要求を汲(く)み上げる新しいユニオン・アイデンティティの形成に努めず、労使協調的な路線のもとで組織を硬直化させてきた。
企業別組合を基本形態とする日本労働組合の再生は、(1)組合自体、多様できめ細かな職場活動を展開するなかから組合員の主体性を引き出すこと、(2)地域活動や産業別の統一闘争を強めるなかで組合員の企業意識を払拭(ふっしょく)すること、(3)派遣労働者やパートタイム労働者など非正規雇用者を結集して組織力を強めること、(4)地域ユニオン、クラフト・ユニオン、女性ユニオンなど、多様な個人参加による労働組合の組織化を進めてこれのナショナルセンターへの加入促進を図る、またはこれと連携を強めること、などが条件としてあげられるであろう。
[吉田健二]
『コミュニティ・ユニオン研究会編『コミュニティ・ユニオン宣言』(1988・第一書林)』▽『河西宏祐著『企業別組合の理論』(1989・日本評論社)』▽『稲上毅編『成熟社会のなかの企業別組合』(1995・日本労働研究機構)』
日本の労働組合は次の特徴をもっている。(1)一企業またはその企業に所属する事業所ごとに一つの組合がある場合が多い。(2)この企業または事業所に就業する本雇従業員は職員・労務者を問わず慣習上自動的に組合員になる。この場合監督的地位にある者やその他企業の利益を代表する者は組合員から除外されるが,その範囲は労働協約によって決められる。(3)これらの組合はそれぞれ機関構成や役員選出に関する独自の規約をもっている。(4)組合役員は原則として従業員である組合員から選ばれるので,組合員代表と従業員代表との二つの性格を併せもっている。(5)労働協約の締結・変更,争議行為の開始・終結など,組合活動上の重要事項についても,これらの組合の機関が最終の権限と責任をもっている。(6)これらの組合は使用者との間で公式の労使協議機関をもっているといないとにかかわらず,経営方針,設備投資,生産計画,それに伴う配置転換,労働条件の変更などについて常時労使協議を行い意思疎通を図っている。(7)上部団体に加入している場合にも組合費の徴収は第一次的にはこれらの組合が行っており,上部団体には組合費を上納している。このように企業別・事業所別に組織された単位組合の独立性が強く,企業別組合と呼ばれてきたが,企業経営,人事管理の中央集権化とともに同一企業に所属する単位組合の連合体である企業別連合体の権限が規約上も実質上も強化され,今日では両者を一体として企業別組合と呼んでいる。
日本の労働組合がこのような組織上,機能上の特徴をもつに至った理由は次の点にある。日本の労働市場は,近代産業発展の特殊性から,企業・事業所に内部化しており,採用,教育・訓練,人員配置,昇進・昇給による基本給の決定,定年,退職金,社宅など,人事処遇の制度が企業・事業所ごとに作られ,その基礎の上に企業・事業所に対する従業員帰属意識が形成されてきたので,第2次大戦前にもこれに似た従業員組織(労働委員会)が多数組織され,戦後この伝統の上に労働組合が組織されたからである。だが,今日の企業別組合の大多数は産業別または業種別連合体に加入しており,その統制力が強まってきている。その理由は類似業種・類似規模の企業別組合は競争条件を共通にするために,賃金ベース,標準労働者賃金,年間労働時間など基本的労働条件について情報を交換し統一闘争,共同闘争を行う必要があること,中小の組合では情報の収集・交換,争議行為などについて,人的・財政的能力が不足しているので,それを補完するために共同行動が必要なことである。
先進工業国にも,独立会社組合,従業員組合があるが,これらは一般に労働組合と認められていないので,これに似た日本の企業別組合も労働組合ではないという意見があるが,日本の企業別組合は産業別・業種別連合体に加入し統一闘争,共同闘争を行っているので,同じに考えるわけにはいかない。また,先進工業国にもドイツの経営協議会,イギリスの職場委員会などのように労働組合とは別に従業員代表制があるので,日本の企業別組合はこれに相当するものだとの説もあるが,企業別組合が団体交渉を行い,労働協約を締結していることからすると,これと類似だということはできない。さらに,労働市場が内部化すれば労働組合も企業別組合化せざるをえず,これは国際的傾向だとする意見もある。いずれにしても,企業別組合は日本の産業・国土を基礎にできた労働組合だといってよい。
執筆者:氏原 正治郎
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…アメリカでは35年のワグナー法で御用組合を禁止したが,第2次大戦後の日本の前記規定もこの系譜をひくものである。日本の企業別組合は,組織形態が会社組合と類似しているため,御用組合化する危険が大きいといわれている。【遠藤 公嗣】。…
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[第2次大戦後の変化]
このような年功を基礎とした人事処遇の諸制度は,第2次大戦後,とくに1960年代の高度経済成長期に,以下のような事情から,制度上も思想上もいろいろな変化を受けてきた。(1)戦後急速に成長した日本の労働組合は,前述の労使関係の制度,慣行を前提として組織されたから,その大部分が特定企業の職員,労務者の正規従業員から構成される工職混合の企業別組合であり,前述の諸制度,慣行を団体交渉,労使協議により労働協約,賃金協定,退職金協定,その他の諸規則として制度化することに努めてきた。また,敗戦後の生活困窮のため,年功賃金の生活保障的要素が強調された。…
※「企業別組合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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