働き方改革(読み)ハタラキカタカイカク

デジタル大辞泉 「働き方改革」の意味・読み・例文・類語

はたらきかた‐かいかく【働き方改革】

平成28年(2016)に第3次安倍内閣が提唱した、多様で柔軟な働き方を選択できる社会の実現に向けた取り組み。働く人の視点に立って労働制度を改革し、企業文化や風土も含めて変えようとするもので、非正規雇用の待遇改善、長時間労働の是正、女性や若者が活躍しやすい環境整備などを柱とする。ワークライフバランスの実現や労働生産性の改善を促し、賃金の上昇と需要の拡大を通じて、経済に成長と分配の好循環が形成されるという。

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共同通信ニュース用語解説 「働き方改革」の解説

働き方改革

安倍政権の目玉政策で雇用・労働政策の見直しの総称。残業時間に初めて法的強制力のある上限規制を設け、非正規労働者の待遇を改善する「同一労働同一賃金」も導入した。パワハラ対策や女性活躍の推進、病気の治療と仕事の両立、高齢者の就業促進など幅広い対策も盛り込んでいる。労働基準法などの改正を一括した「働き方改革関連法」が2018年6月成立、順次施行している。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「働き方改革」の意味・わかりやすい解説

働き方改革
はたらきかたかいかく

狭義には、働き方改革関連法(正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」。平成30年法律第71号)による一連の労働法分野の法改正のことをさすが、広義には、同法を契機とする従来の日本型の働き方を見直す取組み一般のことをさす。

[土田道夫・岡村優希 2022年8月18日]

働き方改革関連法の背景と概要

働き方改革関連法が主たる問題として認識しているのは、長時間労働の問題と非正規労働者の待遇格差の問題である。

[土田道夫・岡村優希 2022年8月18日]

長時間労働問題

日本においては、労働時間が長時間にわたり、それによって生命・身体への損害が生じるという労働災害の問題が深刻化している。過労死(過労自死を含む)の問題はその最たる例である。その背景には、長期雇用を特徴とする日本型雇用システムにおいては外部的な雇用調整が容易ではないという事情がある。

 そもそも、企業が労働者を雇用するのは事業運営に労働力が必要だからであるが、かならずしもつねに一定の労働力が必要となるわけではなく、業務の繁閑に応じてその調整が求められることが少なくない。調整方法としては、おもに、繁忙期に採用を行う一方で閑散期には解雇を行うという方法(外部的な雇用調整)と、繁忙期に時間外・休日労働を行わせる一方で閑散期にはそれを控える(同時に配置転換等も併用する)という方法(内部的な雇用調整)の二つがある。解雇を伴う前者の方法は長期雇用慣行との整合性が乏しいため、日本では後者の方法が普及している。このような方法を採用したとしても、繁忙期に必要となる最大量と閑散期に求められる最低量の間の適切な水準において人員体制を構築している場合には、かならずしも長時間労働やそれに伴う労働災害の問題が生じるわけではない。しかし、とくに1990年代以降、日本では、国際競争の激化や景気の低迷等による経営状況の悪化に伴って人件費の削減が強く求められるようになり、前記のような業務量とのバランスに配慮した人員体制ではなく、採算性を重視した人員体制が構築されるようになった。おのずから、業務量に照らして必要となる人員の確保はむずかしくなり、恒常的な人手不足に陥りがちな状況となったため、労働時間がより長時間化するとともに、その頻度も日常的なものになっていった。さらに、人件費削減のために非正規雇用が拡大し、その裏返しとして正規雇用の縮小化が進んだため、前記の状況はより深刻なものとなっていった。

 以上のような長時間労働の問題に対して、労働基準法では、1日8時間・1週40時間という上限が定められている(32条)が、絶対的な上限がないまま、労使協定(いわゆる三六協定)によってそれを超過することが認められており、法規制が十分であるとはいえない状況にあった。そこで、このような状況を改めるべく、働き方改革関連法の一環として労働基準法が改正され、労働時間について罰則つきの絶対的な上限規制が導入された。具体的には、時間外・休日労働は、1か月について45時間および1年について360時間を原則的な限度時間として定めつつ(36条4項)、特別条項を用いる場合でも、1年について720時間以内、および1年のうち6か月以内の期間において、1か月100時間未満、または、2~6か月平均80時間以内にしなければならないという上限が設けられた(同条5項、および6項2号・3号)。この上限を超えて時間外・休日労働に従事させた場合には、罰則が科されることになる(119条)。上限の水準がいわゆる過労死基準と同様であるという課題はあるものの、罰則つきの上限規制が導入されるのは労働基準法制定以来初めてのことであり、労働者の生命・身体の保護のための重要な一歩であるといえる。

[土田道夫・岡村優希 2022年8月18日]

非正規労働者の待遇格差問題

日本においては、正社員中心主義の雇用慣行があり、正社員については配置転換を行いながら長期的な視点にたって能力開発が行われるとともに、年功賃金、賞与・退職金、さまざまな手当等による手厚い処遇が用意されてきた。その反面、パートタイマーや有期契約労働者等の非正規労働者については、そのような処遇はなされず、労働条件も低く抑えられてきた。従前は、正社員が労働者の大部分を占め、非正規労働契約は、自らが望んだ場合を除いては、積極的に利用されてこなかったが、前述した経営環境の悪化に伴い、1990年代以降は継続的に利用が拡大し、2010年代以降は約40%の労働者が非正規労働者となっている。そのため、比較的厚遇されている正社員と非正規労働者との間の処遇格差の問題が深刻化の一途をたどっていた。そこで、働き方改革関連法によって、パート労働法を改正する形でパートタイム・有期雇用労働法が制定(2020年4月より施行)されるとともに、労働者派遣法の改正が行われ、処遇格差の問題への対処が図られた。具体的には、正社員と非正規労働者の間の差別的取扱いを禁止する規定(均等待遇規定。パートタイム・有期雇用労働法9条、労働者派遣法30条の3第2項)、正社員と非正規労働者の待遇が不合理に相違することを禁止する規定(均衡待遇規定。パートタイム・有期雇用労働法8条、労働者派遣法30条の3第1項)や、待遇の相違に関する説明義務を課す規定(パートタイム・有期雇用労働法14条、労働者派遣法31条の2)等が定められた。

[土田道夫・岡村優希 2022年8月18日]

広い意味での働き方改革

働き方改革という用語は、働き方改革関連法の枠を超えて一般名詞化しつつあり、業務プロセスの改善等を視野に入れながら、従来の働き方を見直す動きをさすことばとして広く用いられるようになっている。たとえば、従来は紙媒体と印鑑を用いて行っていた決裁業務を電子化して効率化することや、オフィスのレイアウトを変更して社員同士の会話の促進を図ることまでもが、働き方改革の一環として論じられるようになっている。

 このようにさまざまな動きがみられる状況にあって、とりわけ注目されるのは、日本型雇用の特徴ともいうべき配置転換の広範な利用が見直されつつあるという点、および、テレワークの普及が進んでいるという点である。

[土田道夫・岡村優希 2022年8月18日]

配置転換

配置転換には、職務・職種の変更(いわゆるジョブ・ローテーション)と勤務地の変更(いわゆる転勤)の二つの側面があるところ、総合職採用・長期雇用の慣行を有する日本においては、これら双方を活用した人事が行われてきた。このような人事には、企業特殊技能の向上や内部的な雇用調整の点等においてメリットがある反面、一定のデメリットもある。

 まず、職務・職種の変更については、労働者の自律的なキャリア形成や専門性の向上という観点から一定の課題がある。日本においては、とくに正社員について、契約上、職務・職種を特定しない総合職採用が普及しているため、労働者は、一度労働契約を締結すると、その後のキャリア形成を使用者にゆだねることになりうる(このような雇用のあり方を一般に「メンバーシップ型雇用」という)。確かに、使用者が配属面談等を通じて労働者の意向を調査することも少なくないが、最終的には配転命令権を行使する形で一方的に職務・職種が決定されてしまうことが多い。このような状況では、自律的にキャリア形成を図りたいと望む労働者の利益が害されるという問題が生じうる。また、ジョブ・ローテーションを繰り返し行ってしまうと、継続性・一貫性をもった能力開発ができず、今日の事業運営に必要とされる高度な知識や技能の習得が困難になってしまうという問題も生じうる。そこで、企業のなかには、採用当初または採用後のある時点で、従事する職務・職種を限定するという雇用形態(このような雇用のあり方を一般に「ジョブ型雇用」という)を導入する動きがみられる。

 また、勤務地の変更については、労働者の私生活への配慮という観点から大きな課題がある。日本では、とくに正社員については勤務地を限定しない形での雇用が一般的であり、法的にも使用者に広範な配転命令権が認められてきた。しかし、これは労働者の居住地選択の自由を制約しうるものであり、私生活を自律的に設計していくという労働者の利益が害されうるばかりか、パートナーとの共働きや育児・介護との両立が困難になることなどから労働者が退職し、企業が優秀な人材を失うという問題も生じうる。そこで、後述のテレワークの利用を行いながら、広域の転勤を見直す企業も一定数みられるようになってきた。もっとも、事業運営の機動性が損なわれたり、転勤をしない者のかわりに転勤の頻度が増加する労働者が出てきて不公平感が高まってしまったりする等の課題も指摘されており、転勤の見直しに慎重な姿勢をとる企業も少なくない。

[土田道夫・岡村優希 2022年8月18日]

テレワークの普及

従来は、業務遂行に際して物理的な出勤が前提とされていたが、2020年(令和2)初頭から生じた新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)の拡大という未曽有(みぞう)の危機を受けて、在宅勤務型のテレワーク(リモートワークともいう)が推奨され、出勤を不要とする働き方が急速に広がりをみせた。テレワークは、次のような点で、働き方に肯定的な変容をもたらしつつある。すなわち、Web(ウェブ)会議システムの普及に伴って出張機会が減少したり会議の効率化が図られたりする点、インターネットを用いた外部人材の活用が容易となって副業・兼業が促進される点、出勤しなくとも業務を行えることがわかったことで遠隔地転勤・単身赴任を抑制する動きがみられ始めた点や、テレワークにあわせてフレックス・タイム制等の柔軟な労働時間制度の利用が拡大し、育児や介護との両立が容易になった結果、離職や短時間勤務を行うことなく、フルタイムでの勤務を継続することも可能になるケースが生じてきている点などである。

 しかし他方で、次のような点でネガティブな影響もみられる。すなわち、労働時間管理がむずかしくなる傾向があるために休日長時間労働が生じやすい点、情報通信技術(ICT)を活用しながら労働者の私的空間で労働が行われるので、私生活と仕事との切り分けがむずかしくなる点、人事評価に際して職務遂行のプロセス面での評価がむずかしくなって短期的成果主義に陥るきらいがある点、Web会議システムが普及して移動時間の短縮や移動中の会議出席が可能となることに伴い、社内外を含めた各会議間の時間的間隔が狭くなるなどして業務の負荷がかえって高まりうる点、社外ネットワークへの接続が広く行われることで情報セキュリティに関するリスクが上昇した点や、社内コミュニケーションが不足したり職業教育(とりわけ新入社員教育)に困難が生じたりする点などである。

 また、肯定的にも否定的にもとられる変化として、ジョブ型雇用や雇用によらない就労形態が広がりをみせているという点があげられる。その背景には、物理的に離れている各労働者間での連携がむずかしくなってしまうというテレワークの欠点を克服するため、ICTの積極的な活用や、業務の切り分けと担当範囲の明確化が進められたことが影響している。まず、前者のジョブ型雇用については、一貫したキャリア構築が可能であるというメリットがあるが、他方で、解雇規制(労働契約法16条)のもとで広く要求されてきた解雇回避措置としての配置転換の範囲が限定され、職務・職種の消失等を理由とする解雇が容易になりうるというデメリットがある。次に、後者の雇用によらない就労形態の拡大については、柔軟な働き方が可能になるというメリットがある反面、就労者が労働法の適用対象である労働者(労働基準法9条、労働契約法2条1項、および労働組合法3条等)に該当しないと判断される可能性があり、その場合には、労働法の保護が基本的には及ばなくなってしまうというデメリットがある。

 以上のように、テレワークについては、メリットとデメリットが複雑に絡みあっているため、コロナ危機の収束後も新たな働き方として定着するか(ニューノーマル化するか)どうかは、現状では不透明である。この点、メリットとデメリットのいずれが優勢となるのかは、各企業の事業内容や人事制度にも左右されるため、テレワークの導入の是非は、それらの見直しを視野に入れながら行われていくものと思われる。その過程で、日本の雇用慣行の特徴であるメンバーシップ型雇用の縮小も一定程度予想されるため、テレワークが日本型雇用に及ぼす影響は少なくなく、今後もその動向を注視していく必要があるだろう。

[土田道夫・岡村優希 2022年8月18日]

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知恵蔵mini 「働き方改革」の解説

働き方改革

2016年8月に閣議決定した安倍政権による経済対策の一つ。働き方の抜本的な改革を行い、企業文化や社会風土も含めて変えようとするもの。多様な働き方を可能とするとともに、格差の固定化を回避して中間層の厚みを増し、成長と分配の好循環を図る狙いがあり、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジとされている。具体例として、長時間労働の抑制、副業解禁、朝型勤務などが挙げられる。

(2017-7-6)

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