元の木阿弥(読み)モトノモクアミ

デジタル大辞泉 「元の木阿弥」の意味・読み・例文・類語

もと木阿弥もくあみ

いったんよくなったものが、再びもと状態に戻ること。
[補説]戦国時代の武将筒井順昭が病死した時、死を隠すために、その子順慶が成人するまで、声の似ていた木阿弥という男を寝所に寝かせて外来者を欺き、順慶が成人するや順昭の喪を公表したために、木阿弥は再びもとの身分にもどったという故事からという。

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ことわざを知る辞典 「元の木阿弥」の解説

元の木阿弥

ふたたび元のつまらない状態にもどること。

[使用例] 殖やした当座が少し楽なばかり、三月と経たぬ中にまた元の木阿弥となる[二葉亭四迷*其面影|1906]

[解説] このことわざの由来については諸説あって、定かではありません。「天正記」は、戦国時代の武将筒井順昭が病死したとき、嗣子順慶が幼少だったので、遺言によって、声のよく似た木阿弥という盲人を薄暗い寝所に置き、順昭が病床にあるように見せかけていたが、順慶が長ずるに及んで木阿弥はもとの市人にもどったという故事によるとしています。また、「七人比丘尼」は、ある人が妻を離縁して出家し、もくじきの修行をして、木阿弥、木食上人などと呼ばれ尊ばれたが、年を経るに従い、木食の修行も怠りがちになり、元の妻とも語らうようになったのを世人があざけって取り沙汰した話によるとしています。そのほか、百姓の木工兵衛が僧に献金して某阿弥の号を得たが、村人は新しい名で呼ばず、たまたま呼んでも旧名にひかれ木工阿弥などと呼ぶため、買名の功もむなしかったという話によるとする説、朱塗の朱がはげて木地があらわれた意の元の木椀から転じたものとする説などがあります。「も」の頭韻によるリズムのよさで常用され、「もくあみ」の語から広がるイメージによってさまざまな説を生んだものと考えられます。

〔異形〕元の木庵

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改訂新版 世界大百科事典 「元の木阿弥」の意味・わかりやすい解説

元の木阿弥 (もとのもくあみ)

仮名草子。2巻。作者未詳。刊記は延宝8年(1680)。初刊はこの5年前か。都西山の木阿弥というすりきり(無一物)が,困窮のあまり江戸に下って大名に近づいて出世しようと古紙子(かみこ)一枚で旅立ち東海道を下って江戸に着く。金六町の知人に大金持と偽って寄宿。歌舞伎見物の帰途大金を拾い,太鼓持の案内で新吉原で遊興,高尾太夫と同衾(どうきん)するに至るが寝返りとともに夢がさめて,もとの西山の陋居。これが〈もとのもくあみ〉という語の始まりという。竹斎,楽阿弥などと同じような世間逸脱者の遍歴談で,〈邯鄲一炊(かんたんいつすい)の夢〉のパロディであるが,古歌もじりの狂歌や東海道道行文,歌舞伎役者揃え,遊里案内などを織りこんで好色本に近く,近世風俗とその気分が濃く漂う。なお,〈もとのもくあみ〉の成句の由来には諸説がある。
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