内閣府の外局に位置づけられている行政機関。企業に公正で自由な競争を促すための法律である独禁法を主に所管する。複数の企業が販売価格などを協議して決めるカルテルや、談合といった違反行為を取り締まる。競争環境の整備に向け、さまざまな業界の実態を調査して問題点を指摘するほか、企業の買収や合併計画の審査も行う。
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独占禁止法(昭和22年法律第54号、独禁法と略称)の執行を担う専門機関。1947年(昭和22)、アメリカの連邦取引委員会を手本に設置された独立行政委員会であり、独禁法および、独禁法の特別法である下請法を所管する。略称は公取委(こうとりい)または公取。内閣府の外局で、内閣総理大臣の所轄に置かれる。英語名称はJapan Fair Trade Commission。
創設当初は活発に活動していたが、まもなく政策転換による独禁法緩和などによりその活動は長く低迷した。しかし、とくに1989年(平成1)日米構造問題協議以降、競争政策の重要性が再認識されるとともに、ヨーロッパ連合(EU)など諸外国の競争政策推進の潮流もあり、公取委の活動は活発化し人員も増強されている。
[金津 謙 2016年1月19日]
独禁法は、公正かつ自由な競争を促進し、健全な市場メカニズムを発揮させ、一般消費者の利益を確保することを目的とする法律であり、その運用については政治的中立性、高度な法律的・経済的知識が不可欠である。そのため、公取委は35歳以上の経済・法律の学識経験者から、総理大臣が国会の同意を得て任命する委員長と委員4名をもって構成される合議体とされている。また、委員長・委員の独立性を確保する必要性から、その任期を5年とし再任を認め、定年を70歳とし、法定事項以外での罷免が禁じられている。
公取委には事務総長が統括する事務総局が置かれ、審判官(審判制度は、2013年独禁法改正により廃止されたが、同改正附則第2条の規定により、2015年3月31日までに排除措置命令および課徴金納付命令に係る事前通知等が行われた事件については、審判制度が適用されることから、2016年時点も5名の審判官が任命されており審判が実施されている)・官房・経済取引局・審査局からなる内部部局と、札幌・仙台・名古屋・大阪・広島・高松・福岡の地方事務所、内閣府沖縄総合事務局総務部公正取引室からなる地方機関によって構成される。職員にはさまざまな高度な専門知識が求められることから、検察官、弁護士などの法曹資格者を加えることが規定され、そのほかにも経済学的分析の専門知識を有するエコノミスト、電子証拠収集の専門家などが勤務している。事務総局の定員は年々増強され、2015年(平成27)時点で838名(1991年は478名)である。
なお、公取委という表現が用いられる際は、それが委員による合議体を示す場合と、事務総局、もしくはその両方を示す場合とがある。
[金津 謙 2016年1月19日]
公取委の権限は、独禁法が規制する私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法などを抑止し、市場における競争秩序を維持・回復するために認められたもので、国民の経済活動に対する広範かつ強大な権限を有している。公取委は行政機関であるので、それらすべてが行政的権限であるが、権限の特徴から行政的権限、準立法的権限、準司法的権限、刑事告発権限に大別することができる。
[金津 謙 2016年1月19日]
公取委は独禁法違反行為に対して、排除措置命令を下し、課徴金の対象となる違反事件については課徴金納付を命ずる権限を有する。違反が疑われる行為に対し、個別的に違反事実を認定するため必要となる証拠を収集する権限をもつとともに、裁判所の令状に基づく強制捜査に着手(犯則調査権限)することも可能である。また、独禁法運用に際して必要となる一般的な基礎的調査を行う権限を有しており、独禁法に抵触する企業活動を具体化し、違反行為抑止のためのガイドラインを公表している。さらに事業者に課される、報告書・届出書、認可申請書、株式取得、合併・分割・共同株式移転・事業等の譲り受けに関する計画届出書などの受理や認可の権限がある。
[金津 謙 2016年1月19日]
公取委はその専門性から、組織に関する内部規律、事件の処理手続および届出、認可申請などの事項について自立的に規則を制定する権限が認められ、さらに、不公正な取引方法の指定、再販売価格維持行為禁止の例外商品の指定権限がある。
[金津 謙 2016年1月19日]
注意を要する権限が準司法的権限である。公取委は独禁法制定以来、自らが下した排除措置・課徴金納付命令に対する不服申立機関としての役割も担ってきた。事業者が命令に不服の場合、公取委に対し審判開始請求を行い、公取委の審判官による審判手続によりその妥当性を判断した審決が下される。さらに事業者が審決に不服の場合、司法審査手続に移行するが、東京高等裁判所に専属管轄権があり、公取委の審決は第一審判決と同じ効力が認められていた。審判制度は裁判類似の手続に基づくことから「準司法的権限」と呼称され、公取委の象徴的な権限とされていたのである。このような権限は、公取委の競争政策における高度な専門性を考慮したものであるが、経済界から「審判制度は検察官役が裁判官役を兼ねたようなもの」という批判が強く主張されていた。2013年独禁法改正により審判制度は廃止、同改正が2015年4月より施行され、公取委の準司法的権限は大きく後退した。なお改正法施行後は、独禁法違反事件を熟知した裁判官を擁する東京地方裁判所に対し、行政事件訴訟法に基づいた司法判断を求めることとなる。
[金津 謙 2016年1月19日]
独禁法は違反行為に対して排除措置・課徴金納付命令という行政処分だけでなく、刑事罰の規定を設けている。たとえば私的独占・不公正な取引方法(カルテル・入札談合)の場合、役員・従業員には5年以下の懲役または500万円以下の罰金、事業者には5億円以下の罰金が科される。しかし、公取委は行政機関であるので、憲法の規定により刑罰の賦課を命ずることまでは許されず、違反行為が刑事処罰相当と判断した場合、検事総長に対して刑事告発の依頼を行う。また、公取委からの依頼がなければ、検事総長であっても独自の判断で公訴を行うことは許されず、公取委の専門機関としての優位性を特徴づける権限となっている。
なお、2005年改正により、公取委に対して刑事告発を前提として、裁判所の令状に基づく強制捜査が可能な、犯則調査権限が認められている。
[金津 謙 2016年1月19日]
『谷原修身著『新版 独占禁止法要論』第3版(2011・中央経済社)』▽『土田和博・栗田誠・東條吉純・武田邦宣著『条文から学ぶ独占禁止法』(2014・有斐閣)』▽『久保成史・田中裕明著『独占禁止法講義』第3版(2014・中央経済社)』
独占禁止法,〈不当景品類及び不当表示防止法〉,下請代金支払遅延等防止法等の運用にあたる行政委員会。1947年発足。組織的には,総理府の外局として内閣総理大臣の所轄に属してはいるが,一般の行政庁と異なり,その職務執行に関し他からの指揮監督を受けない独立性を法的に保障されていることと,合議制の行政機関であることの二つの特徴を有している。委員会は委員長と4人の委員から成るが,その下に事務総局がある。委員長と4人の委員は,35歳以上で,法律または経済の学識経験を有する者のうちから内閣総理大臣が国会の同意を得て任命する。委員の任期は5年,定年は65歳である。2001年の省庁再編により総務省の外局となった。
独立行政委員会制度は,アメリカで独立規制委員会として発展した行政組織であり,日本の第2次大戦前の行政制度にはなじみのないものであった。戦後,占領軍は日本民主化政策の一環として相当数の委員会を行政組織の中に持ち込んだが,現在,本来の姿で定着している委員会は少なく,労働委員会とならんで公正取引委員会は代表的な本来の独立規制行政委員会であるといわれる。その機能的な特色は,行政処分をなすに当たって裁判類似の手続たる審判手続によって事実認定と法適用を行う点にある。そのために独立性の保障も必要となるといわれてきた。しかし,近時,行政手続法(1994施行)の制定等により,日本の行政執行の事前手続全般の整備が進む中で,他の行政機関も,不利益処分等について,聴聞等の事前手続をとることを義務づけられるようになった。このように独占禁止法制定時とはまったく異なる行政手続制度が採用された今日,理論的には,公正取引委員会の独立行政委員会としての性格,そこでとられる事前手続と他の行政手続との違い,公正取引委員会の審決に対する司法審査の制度的違いをどう考えるかが,改めて問われうる状況になっている。
委員会設立当初は,その独立性の保障と,憲法の内閣一体および連帯責任の原則とが矛盾するのではないかとする,公正取引委員会違憲説もあったが,今日では,総理大臣が人事と予算による間接的コントロールを及ぼしうることから,その個別の職権行使に独立性が保障されていても憲法違反ではないとの説が一般的に承認されている。準司法的手続による処分たる審決の取消訴訟は東京高等裁判所に対してのみ提起することが認められ,この点でも委員会の専門性にもとづく準司法的機能を尊重する趣旨が現れている。なお,公正取引委員会の他の機能,すなわち準立法的機能や行政的機能については〈不公正な取引方法〉〈独占禁止法〉等の項目を参照されたい。
1960年代の高度成長期から石油危機後の産業構造の転換期にかけて,公正取引委員会の競争政策推進の立場と,通産省の産業政策とが抵触し,政治問題化したことも少なくはない(たとえば,1968年4月に発表された八幡製鉄・富士製鉄合併計画をめぐる問題など)。
しかし,日本は石油危機後,欧米の先進工業諸国にさきがけて産業構造の変革に成功し,1980年代に入って日本の貿易黒字の突出が著しくなる。その段階で,諸外国からの日本の貿易慣行の不公正さに対する批判が強まり,とりわけ,アメリカ合衆国の歴代の政権は,対日貿易の大幅な赤字の削減を重要な政策目標として掲げた。アメリカ政府による日本の産業政策批判が大々的に展開され,ヨーロッパの各国もこれにならう動きが強まった。このような批判に対応する過程で,通産省も,日本の国内市場への輸入に対するさまざまな非関税障壁を撤廃する政策を重要な政策課題とするに至り,今日では,カルテルを活用する競争制限的な産業政策を廃止し,市場における公正な競争秩序の形成・維持が,同省においても第一義的な政策課題として認識されている。過去のような基本的な政策の対立は解消し,今日では,行政改革の動きともあいまって,公正取引委員会の所掌する競争政策が,日本の経済政策の共通の基礎として評価される状況になっている。
→行政委員会 →行政審判 →審決
執筆者:来生 新
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独占禁止法(1947制定)の運用にあたる内閣府の外局。1947年(昭和22)7月発足。委員長と法律・経済の学識経験者の委員からなる合議制。内閣総理大臣が衆参両院の同意をえて任命。公正中立を期するため独立の行政委員会の形態をとり,委員の身分保障を認めている。企業による独占的な取引や価格決定,ダンピングその他の不公正競争などを監視,調査・勧告し,さらには審判のうえ検察庁に告発する権限ももつ。53年の独禁法改正で同法が有名無実化するとともに,同委員会の活動も消極化。2013年(平成25)独禁法改正で公取委の行政処分に対する不服審査の権限が公取委から東京地裁に移された。
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…公正取引委員会,特許庁が審判手続を経たうえでなす行政決定(独占禁止法54条,特許法157条)。行政庁が専門的な知識をもって判断をなすべき領域の行政において,行政庁の専門性と国民の手続的権利の保障とのバランスをとるために,アメリカで発達した行政委員会による決定方式を範としたもの。…
※「公正取引委員会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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