公の場,すなわち,行政,教育,裁判などにおいて用いられることが認められている言語。通常は国単位で定められる。国の公用語は国語とも呼ばれる。日本のように,方言差はありながらも全国的に一言語だけが話されているといえるような国では,とくに法的に公用語を指定する必要はないが,一国内に複数の言語が話されている場合はいずれかを公用語とする必要が生ずる。ただし1言語のみを公用語とする場合と,複数の言語を公用語とする場合がある。フランスなどは前者の例であり,ベルギーなどは後者の例である。複数の言語が公用語とされる場合,まったく平等に扱われることも,なんらかの序列をつけられることもありうる。話し手人口が多く,政治的・文化的用途に必要な語彙を既に保有し,正書法を有するような言語が公用語に選ばれやすいが,種々の政治的要因などがからむことが多い。ある言語を公用語に制定しようとする時,その言語が他に比して圧倒的優位にあるとか,それを母語として話す人口は多くないが既に全国的共通語として用いられているとかといった場合を除き,しばしば国内対立の要因となる。なぜならば,その言語を母語とする人々とそれ以外の人々との間に,政治的不平等や実生活面の不平等が生み出されがちだからである。旧植民地諸国においては,民族語のうちのいずれをも公用語とする条件のないままに独立を迎え,旧宗主国の言語を公用語とせざるをえなかった国々が多い。なお,国としての公用語のほかに,各地方ごとの公用語を認めている国もある。たとえば,ザイール(現,コンゴ民主共和国)では国語(フランス語)のほかに,四つの言語が地方公用語として機能しているが,それら4言語はもともと土着語を基盤とする広域共通語であった。その他,公用語とはいえないが,その言語で放送が行われることになっているものとか,教育(特に,初等教育の段階)において用いられることが認められた言語とかも存在する。
→言語政策
執筆者:湯川 恭敏
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公の文書や公の場での会話に用いられることが認められた言語。日本のように、一つの国のなかで一言語しか話されていないといえる状態である場合、当然その言語(ただし、いずれかの方言をもとにしたもの)が公用語(国語)となるが、複数の言語が話されている場合、そのうちのどれかを公用語と定める必要が生じる。国によってそうした公用語が一つである場合と、複数である場合がある。
多言語の国では、どの言語を公用語とするかがしばしば紛争の種となる。その理由の一つは、公用語を使いこなせることが社会的地位を保証する要件になることが多く、その公用語を母語とする集団が圧倒的に有利になるという点にある。また、国として複数の言語を公用語としても、なんらかの順序づけを与えることもありうる。さらに、国内に話される言語の数が多く、しかも土着語で国全体の共通語として発達しているものがない国では、国の公用語のほかに地方公用語をいくつか認めている場合がある。たとえばザンビア(アフリカ)においては、国の公用語(国語)は英語であるが、いくつかの土着言語(たとえば、ベンバ語、ニャンジャ語、ロジ語など)を地方公用語として認めている。これらはもともと地方共通語として力をもっていたものであるが、そのいずれもが国全体の共通語にはなりえないため、旧宗主国の言語を国語とする一方、このような措置をとったものと考えられる。同様の事情は隣国コンゴ民主共和国(旧ザイール)などにも認められる。
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…国家と民族言語の間には次のような関係がある。(1)1言語が多国家で用いられる場合 たとえばドイツ語はドイツ,オーストリア,スイスなどで公用語とされている。(2)1言語がある1国家だけで用いられる場合 日本語と日本,ノルウェー語とノルウェーにその例を見る。…
…一般には〈日本語〉の意味で使われているが,〈何ヵ国語も話せる〉というような場合は,他と異なる記号の体系としての言語をさす。しかしより厳密にそれぞれの国の自国語という意味では,ある国家の公的な言語をさし,〈国家語〉あるいは,〈公用語〉ともいう。アイヌ語はこの意味で国語ではない。…
※「公用語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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