国民生活にとって日常不可欠なサービスないしサービス財を提供している事業で,固有の自然的・技術的性格から,独占的性質をもつことで経済的・経営的に運営が可能となるような事業をいう。公益事業はその独占性の弊害が著しく現れると公益性と矛盾するために,それが私企業である場合には規制がなされ,あるいは経営主体が公企業の形態をとるようになった。
公益事業は提供するサービスの種類により,(1)鉄道,都市交通,バス,定期船,定期航空などの運輸サービス事業,(2)郵便,電信,電話,放送などの通信サービス事業,(3)電気,ガス,水道などの基礎的サービス財の供給事業,に大別される。これら公益事業に共通する特質は次のような点である。(1)国民一般の日常生活に必要不可欠のサービスおよびサービス財を提供している。(2)貯蔵や転売ができないので需要と供給の調整が難しく,独占的性質を必要とする。(3)生産および消費の設備や供給施設において,自然的・技術的・経済的に固定性や統合性の必要が大きい。(4)巨額の固定資本を必要とし,その資本の回転が遅く,回収が長期にわたる。(5)消費者や利用者の代替的経済的手段(自給・輸入等)による対応が困難である。(6)他の諸産業にとって基礎的なサービスないしサービス財である。これらの特質から,公益事業の公益性を確保するための規制の目標は,(1)合理的かつ公平な料金(一般に公益事業のサービスの価格を料金,交通のそれを運賃という),(2)適正なサービス,(3)財務の安定性である。規制の内容としては,具体的には経営内容の開示,事業の設立・拡大の規制,サービスの提供・継続義務,サービスの公平性の遵守,料金設定原則の法的表示あるいは料金変更の許可制等々である。
公益事業は一般の私企業に比較して,出資者ばかりでなく,そのサービスの消費者である国民に対しても責任を負っている。そのことから会計面においては,とくに公益事業料金における公平性と料金設定の基礎になる財務内容に関して,一般の私企業会計の原則のほかに公益事業会計規則があり,それぞれの事業に属する諸企業に対して,各監督官庁の省令とそれに基づく規則ないし通達という形で制定されている。したがって,公益事業会計は保有財産の管理・保全,事業の業績判定,財務情報の提供機能を有するばかりでなく,料金設定の基準としての機能を果たすところに,その最も大きな特徴がある。公益事業として,私企業がさまざまな規制を受けたり,その経営主体が公企業の体制をとるにしても,公益事業はその公益性とともに次のような企業性をも確保せねばならない。ある特定の経済目的を実現するために意識的につくられた組織であるので,その構成員や仕事が合目的的に編成されることが重要である。その経営諸要素の結合において,生産性を向上させるように革新性を発揮せねばならない。また,全体経済の中の部分経済として採算性を確保することにより国民経済に寄与するとともに,好業績を達成して構成員の所得の向上を図ることも必要である。
→公共料金
執筆者:二宮 豊志
労働法上公益事業の観念が,一般事業と区別されて用いられることがある。〈公衆の日常生活に欠くことができない〉事業を〈公益事業〉と定義し(労働関係調整法8条),公益事業に係る労働争議・争議行為を特別に規制している。同法にいう公益事業とは,具体的には運輸事業,郵便・電信電話事業,水道・電気・ガス供給事業,医療・公衆衛生事業であって,公衆の日常生活に欠くことのできないものをいう。このほかの事業についても,内閣総理大臣は1年以内の期間を限り追加指定することができる(8条)。公益事業に労働争議(6条)が発生したときは,労働委員会は強制調停を行うことができる(18条3~5号)。また公益事業の労働組合が争議行為(7条)を行うときは,10日間以上の予告期間をおくことを義務づけられ(37条),国民経済の運行を著しく阻害し,または国民の日常生活を著しく危うくするおそれが現実に存在する争議行為に対しては緊急調整制度が設けられ(35条の2,35条の3),争議行為が50日間禁止される(38条)。
執筆者:渡辺 裕
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国民の日常生活に不可欠の用役(サービス)を供給する産業のこと。その条件としては、地域社会にとって必需の用役であること、独占的状態において供給されていること、独占権の付与に見合う国家の規制があること、などがあげられる。法的には、土地収用法、地方公営企業法、労働関係調整法などに基づくもので、これを整理すれば、(1)鉄道、都市交通、一般乗合自動車、定期船、定期航空などの公衆運輸事業、(2)郵便、電信電話、放送などの公衆通信事業、(3)電気、ガス、水道などの生活用益供給事業になる。前記条件にあるように、公益事業は一般に独占禁止法の適用除外となっており、同時にそれぞれの事業法(電気事業法など)によって、独占の容認、消費者・利用者の保護、料金決定と用役内容の規制、独占と地域社会の調整などが定められている。また、公益事業を営む企業の従業員の行う争議行為については、労働関係調整法などによって制限が加えられ、あるいは禁止されている。土地収用法では、公益事業のために必要な土地について、土地収用権を認めている。公益事業のもつ公益性は、社会性、公共性と見合うものだからである。通常、公益事業は法定のもののみをさすが、その範囲は歴史的に拡大されてきており、医療や教育を加えて、かなり広義に用いることもある。公益事業を営む企業は公益企業とよばれるが、英語では両者は同じである。
[森本三男]
『縄田栄次郎著『公益産業論序説』(1986・千倉書房)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…地域総合産業とも呼ばれる〈私鉄コンツェルン〉は,その代表的な例である。 鉄道企業はまた,電力,都市ガス,電信電話,水道などとならんで公益事業の一つに数えられている。公益事業とは,光熱・交通通信サービスのような社会的有用性の高いサービスを提供すると同時に,一定地域を対象にサービスの供給独占の権利を認められる企業をいう。…
…電気を生産(発電),輸送(送電,変電,配電)し,需要家に販売する事業。イギリス,フランス,イタリアなどの先進資本主義国や,多くの発展途上国では国営企業でなされているが,日本ではアメリカの場合と同じように,公益事業としてそのほとんどが民間企業によって運営されている。公益事業は一般の産業と異なり,相互に関連する三つの基本的特質をもっている。…
※「公益事業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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