これには能率給の一形態としての割増賃金と、労働基準法が定める割増賃金とがある。
[湯浅良雄]
標準出来高を超えた労働者に、定められた率で割増賃金を追加的に支払う賃金制度をいう。出来高割増制の転化形態としての時間割増制もある。ハルシーF. A. Halseyの発案(1891)によるハルシー割増制や、ローワンJ. Rowanの発案(1901)によるローワン割増制などが代表的なもので、従来の単純出来高制にかわって普及するようになった。
単純出来高制は、労働者に対しては能率刺激的な役割を果たすが、労働者が生産高を増大すればするほど、ストレートに賃金を増額させるために、製品一単位当りの労務費の節約にはならない。このため資本家は、生産高が増大すると、絶えず単価(賃率)の引下げを図り、いっそうの労働強化に労働者を駆り立てようとした。他方、労働者は賃率の引下げに対して、組織的なサボタージュによって抵抗したため、かえって生産効率が低下するようになった。この矛盾を解決すべく登場したのが割増賃金制であり、その基本は割増賃金を逓減(ていげん)的に支給することによって、能率刺激的機能を維持しながら、労務費の低減を図ろうとしたことにある。ハルシー割増制は節約賃金を労使一対二で分配し、ローワン割増制は能率の逆数を分配率としたものである。
[湯浅良雄]
この場合は、労働基準法の定めた労働時間を超えて労働をさせた場合、使用者が労働者に対して割増しで支払わなければならない賃金をいう。同法は第37条において、時間外・休日労働、さらに深夜労働(原則として午後10時から午前5時まで)をさせた場合、2割5分増し以上の割増賃金を支払うことを義務づけるとともに、第118条の2項において、この規定に違反した使用者に対して、6か月以下の懲役、または10万円以下の罰金を定めている。わが国の労働基準法は、その第36条において、労使が「三六(さんろく)協定」を締結すれば、事実上無制限に時間外労働を延長することができると規定しており、その割増賃金率も国際的にみて低い水準にある。
[湯浅良雄]
『小島健司著『賃金形態』(1958・東洋経済新報社)』▽『日本労働法学会編『現代労働法講座11 賃金・労働時間』(1983・総合労働研究所)』
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…つまり法定標準労働時間+恒常的残業が実際の標準労働時間となっており,したがって残業収入が月収の不可欠の部分となっている。 時間外労働に対しての割増賃金支払が,余暇の犠牲や疲労の加速度的増大に対する補償を労働者に行う意味で,また使用者に対して長時間労働をコスト面から規制する意味で行われる。割増率は先進国では25~50%がかなり多く休日は100%が通例だが,日本では労働基準法の定める25%かせいぜい30%増しが通例であり,企業に対する残業規制的効果はまったくない。…
…時間外労働(残業)が長引いた際および交替制勤務において深夜業が問題となる。労働基準法では午後10時~午前5時を深夜として,25%の割増賃金支払義務や年少者と女子の就業禁止(10時半終業の交替制は可)を定めている。(〈児童労働・年少労働〉および〈女子労働〉の項参照)。…
…使用者は法律上代休を与えることを義務づけられてはいないので,労働者が代休を取得できるためには,就業規則等にその旨の定めがなければならない。この場合,通常の労働日または労働時間の賃金は支払われないので,労働者には差引きその2割5分の時間外割増賃金(37条)が残る勘定である。(3)振替休日との区別 たとえば,毎週日曜日と定められている休日を臨時に労働日とし,翌月曜日に休ませた場合,これを振替休日という。…
※「割増賃金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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