著作物の出版において,出版契約に基づき出版者から著作権者に対して支払われる経済的報酬の一種で,一定の単価を基礎に出版物の発行部数あるいは実売部数に応じて支払われる著作権の使用料。印税の単価と出版物の定価との比を印税率という。印税方式による著作権使用料の支払いは,出版者にとってはみずからの出版計画に応じて経済的責任を負い,著作権者にとっては出版による利益に応じて報酬を確保できる合理的な方法であり,出版が比較的長期間継続するような書籍に適合している。印税率は10%前後が一般的といわれているが,公的な基準はなく個々の出版契約によってかなりの幅がある。欧米では部数によって印税率を段階的に増加ないし減少させる例があるが,日本ではそれほど採用されていない。印税royaltyの制度は,19世紀にヨーロッパで行われるようになったが,日本では1886年小宮山天香が《慨世史談・断蓬奇縁》(エルクマン・シャトリアン著《マダム・テレーズ》の訳)の出版に際して鳳文館と交わした契約が最初とされ,そのころから著作権者が書籍の各冊に押印した印紙をはり(検印という),発行部数のあかしとすることが長い間の慣行となった。印税という語は,この検印に基づく支払方法が印紙税のそれと似通っていることに由来する。しかし近年発行部数による印税の場合でも検印は廃止されるようになり,実売部数による印税も採用されるようになった。
→原稿料
執筆者:野々村 敞
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著作権の存在する著作物の発行にあたって、出版者から著作権者に支払われる一定率の著作権使用料。原稿料、画料なども著作権使用料の一種だが、これは定額で、1回限りの使用に対して支払われるものだから、印税とは区別する。印税は普通、定価×発行部数×一定率(5~10%)であるが、返品率の急伸のため、一定保障部数を設定したうえ、実売部数を算定の基準にする例もある。印税の支払い期日、方法、印税率は、対象出版物の性質、内容、採算性など諸条件を勘案して、著作(権)者と出版者が協議して決めるものであり、一様ではない。実績のない著作者の場合は無印税、あるいは重版後から5~10%の例がある。一方、著名な著作者には12~20%の高率が適用される。欧米では、最低保障制に加えて、初版の場合、前払い(アドバンス)を伴うことが多い。支払い額は、通常は初刷り部数を基準にするが、競争によって競り上がって高額になる例も少なくない。
印税制の始まりは、欧米では19世紀以降。日本の場合は、長らく、森鴎外(おうがい)が、1892年(明治25)刊の『水沫(みなわ)集』出版にあたって25%を主張したのが始まりとされていた。しかし、1886年12月、東京朝日新聞社の初代主筆を務めた小宮山桂介(こみやまけいすけ)(天香(てんこう))がエルクマン・シャトリアンの『マダム・テレーズ』を『慨世史談・断蓬奇縁(だんほうきえん)』と改題して出版した際、鳳文館(ほうぶんかん)の前田円と出版契約を交わして決めたのが最初。翻訳出版の場合は、原作者と翻訳者への印税が合算されるため高率になることが多い。
[小林一博]
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…著作は通常,原稿用紙に執筆されるので,原稿料と呼ばれ,多くの場合,400字詰原稿用紙1枚当りの報酬を単価とする。原稿料は新聞・雑誌などの著作物1回の使用料で,書籍の場合は大多数が印税方式をとる。欧米では,印税は日本とほぼ同じであるが,原稿料の単位は語数による。…
※「印税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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