他人のたばこの煙を吸いこむこと。健康増進法(平成14年法律第103号)は「人が他人の喫煙によりたばこから発生した煙にさらされること」(28条3号)と定義している。国立がん研究センターによると、ニコチンや発がん物質を吸うことで、罹患(りかん)リスクは肺がん・脳卒中で1.3倍、虚血性心疾患で1.2倍、乳幼児突然死症候群は4.7倍に高まる。世界保健機関(WHO)は2003年、受動喫煙を含めた健康被害を減らす「たばこ規制に関する枠組条約」を採択し、日本も2004年(平成16)に批准した(2005年発効)。1990年代以降、アメリカのカリフォルニア州などで全面禁煙の動きが広がり、アイルランドが2004年に世界初の国全体を禁煙とする法律を施行するなど、全面禁煙の国は55か国(2016年時点)に及ぶ。しかし日本の受動喫煙対策は飲食店、たばこ事業者、たばこ関係議員の反対で「先進諸国の中で極めて消極的」(1987年喫煙と健康問題に関する報告書)な状況が続き、2003年に受動喫煙防止を初めて法律に盛り込んだ健康増進法が施行されたが、飲食店などに努力義務を課すにとどまった。このため神奈川県が2009年、全国に先駆けて罰則のある受動喫煙防止条例を制定(罰則適用は2011年)するなど自治体先行で対策が進んだ。
ようやく2018年に健康増進法が改正され、まず2019年(令和1)7月から、子供や妊婦などが利用する学校、病院、児童福祉施設、バス、タクシー、航空機、官公庁舎などの屋内を含む敷地全体の禁煙を義務化した。2020年4月からは、住居やホテル・旅館などの居住空間を除き、飲食店、一般の職場、鉄道、ホテルのロビーなどの屋内禁煙も義務化した。違反して喫煙すると30万円以下の罰金を科し、表示義務違反などをした施設管理者には50万円以下の罰金を科す。ただし、(1)受動喫煙防止策をとった屋外喫煙所、(2)煙が漏れないなど一定基準を満たし喫煙専用と表示した喫煙専用室(飲食不可)、(3)未成年の立ち入りを禁止し、喫煙可能と表示した小規模飲食店(個人経営または資本金5000万円以下の既存店で、客席面積100平方メートル以下)、(4)加熱式たばこのみを吸うことができる指定たばこ専用喫煙室、(5)シガーバーやたばこ販売店の喫煙目的室、では例外的に屋内喫煙を認めた。国の法律に加え、東京都などの自治体は従業員のいる飲食店は零細でも禁煙とするなど、より強い規制を設けた。厚生労働省は2011年から中小企業に、喫煙専用室整備などを後押しする「受動喫煙防止対策助成金」を設け、全国の自治体にも同様の補助制度がある。ただし日本の受動喫煙対策のレベルは、WHOの4段階ランクで下から2番目にすぎない。
[矢野 武 2020年8月20日]
(原田英美 ライター/2017年)
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