女帯の一種。洋服の普及や被服衛生に関する研究の進展にともなって,明治30年代から女性の着物の改良・改革が識者によって唱えられるようになり,1920年には〈日本服装改善会〉が発足,その中でいちばん着目され,また実際に改良が行われたのは帯であった。腹合せ帯,五尺帯,七五帯,衛生帯,軽装帯などといくつかの改良帯が考案されたが,最も広く普及し,定着したのが名古屋帯である。この由来については,1920年当時の名古屋女学校の創設者越原春子が考案して日常締めていた風変りな帯に,中村呉服店の店員小沢義男が着目,これを市販するようにしたのがきっかけであったという。大量生産を始めたのは京都の帯屋で,京都から再び名古屋に流れてきたのを中村呉服店では〈名古屋帯〉の名で売ったのが流布し,しだいに定着していった。高島屋の《百選会百回史》によると,名古屋帯は22年羽衣帯の名で,手軽で経済的な新案帯として売り出された。また初めは染帯であったが,のちには織帯にもされ,28年ごろには大流行した。流行は関西方面から始まり,全国に広がったというが,東京では花柳界の普段帯から流行したという。
執筆者:北村 哲郎
布の経済性と締めやすさから女帯の代表とされ,全通(ぜんつう),六通,おたいこ柄がある。一重だいこ用の帯で,結んだとき前と後ろに柄のでるおたいこ柄は,名古屋帯特有の柄づけである。帯地には織と染めがあり,九寸名古屋帯と八寸名古屋帯に分かれる。
(1)九寸名古屋帯 幅34cm(9寸),長さ3.7m内外で,1.2mほどの共裏をつけ,帯芯をいれる。後帯は幅30.5cm,前帯から手先にかけては二つ折りにして約15cm幅に仕立てる。羽二重などの別裏をつけて前帯の幅を好みで出せる鏡仕立(かがみじたて)にすることもある。織の錦,唐織,箔などは訪問着や付下げ,色無地,紋付,小紋に,紬地は紬やウールに合わせる。塩瀬羽二重,ちりめん,紋綸子(りんず),紬地などに手描きや型染,絞(しぼり)をほどこした染帯は,小紋や大島紬などに締める。夏用には絽(ろ),麻などの帯もある。
(2)八寸名古屋帯 幅30.5cm(8寸),長さ3.6m内外で約1.2mの共裏がつく。厚地に織られ後帯と手先をかがるだけで締めるのでかがり帯,仕立ての簡便さから袋名古屋帯とも呼ぶ。戦後,ウールの着物に締めるように考えられたという。ほとんどが織帯で,金銀糸入りの綴(つづれ)は訪問着や付下げ,小紋に合わせ,無地系の綴は大島や紬から小紋に締められるものもある。手織紬の八寸は高級な大島や紬類に用い,木綿や交織はウールなどの普段用。芯を必要としないので夏用には涼しい。準礼装には絽綴や羅,小紋や織の着物には紗献上,紬紗,荒紗などを用いる。木綿や麻などの交織はゆかたなどに用いる。
→帯
執筆者:山下 悦子
桃山時代から江戸時代中ごろまでの小袖に用いた帯の一種。袋状の組紐で両端に房をつけ,2~7巻きして後ろまたは横に結び垂らした。前身は朝鮮から伝わった韓組(からくみ)の帯とみられ,単(ひとえ)の平打ちのものを糸さなだ,袋織のものを縄帯ともいった。はじめ遊女やあぶれ者が用いたが,のちに一般にも広まった。しかし〈組紐は賤しき者のする〉こととして,女房装束などには用いられなかった。語源は肥前名護屋で織られたからとの説が有力であるが,《嬉遊笑覧》などでは名古屋帯と書きあらわしており,定かではない。
執筆者:山下 悦子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
女帯の一種。九寸名古屋ともいう。お太鼓の部分は幅30センチメートル、胴の部分は幅15センチメートル内外に仕立てる。幅36センチメートル、丈4.7メートル内外の布地で、胴の長さ2.4~3メートル、お太鼓用の長さは1.1~1.2メートル、帯芯(しん)を入れて仕上げる。名古屋帯は不景気だった1918年(大正7)に、衣服の簡略化を目的として、名古屋の女学校の教師が考案し着用したものである。これを名古屋のデパートが売り出し好評を得て、腹合帯にかわって普及し、今日なお盛んに用いられている。初めは普段着用であったが、近年は結び方もくふうされて、外出用、訪問着用に袋帯に次ぐものとして締められている。
[藤本やす]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…それ以後は太鼓結びが広く愛用され,戦後は太鼓結び,ふくら雀(すずめ)結びのほか,着物への魅力を増すべくさまざまの新しい結び方が考案されるようになった。また大正期に服装改善運動の中で考案された名古屋帯は,その合理性と結びやすさから女帯の主流を占めるようになり今日に至っている。
[男帯の発達史]
古墳時代の埴輪の男子像を見ると,上衣の胴に細い帯を一重に巻き,前からわきに結び垂らし,この帯に剣などを下げ,庶民は農具をさしたりしている。…
…また,結び方も結び目も一定ではなく,地質も表着のあまり裂(ぎれ)を利用し,平ぐけにするというのが普通であったようである。しかし,桃山時代から江戸時代初期にかけては,平ぐけ帯のほかに,名護屋帯と呼ばれる組紐の帯も用いられた。これには丸組みも平組みもあり,紐の両端には十数cmの房がついていた。…
※「名古屋帯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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