翻訳|deglutition
〈えんか〉とも読むが,医学的には〈えんげ〉という。食物を口腔から胃まで運ぶ運動(のみこみ運動)。口腔相(随意運動),咽頭相,食道相(ともに不随意運動)に分けられる。まず口腔内の食物を舌の上に集め,後方(咽頭)に送りこむ(口腔相)。食物が咽頭内に入ると,反射的な筋収縮によって鼻,口,耳への逆流が防がれ,声門も閉じて気道に入りこまないようにする(咽頭相)。同時に喉頭が舌骨に引きつけられるとともに舌骨も前上方に動く。このとき,ふだん持続的に収縮している食道入口の筋肉(上部食道括約筋)が弛緩し,食物は咽頭から食道内に入る(食道相)。すると,食物の塊の後ろ側で食道筋が輪状に収縮し(これを収縮輪という),食塊を前方に押す。この収縮輪は蠕動(ぜんどう)波として噴門にむかって進行する。ただし,液体や半流動性の食物は蠕動波をしり目に重力によって流れ落ちる。食道と胃の移行部では,胃内容物が逆流しないように,下部食道括約筋が持続的に収縮しているが,嚥下がはじまると反射的に弛緩し,食道から胃へと食物を通過させる。
執筆者:東 健彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
そしゃくによって、かみ砕かれ唾液(だえき)と混じり合った食物や、吸い込まれた液体は、舌の上に集められ、口腔(こうくう)、咽頭(いんとう)の協同運動によって食道を経て胃に送られる。この一連の動作を嚥下という。これらの過程は三つの時期に分けられる。第1期は口腔から咽頭に入るまでの時期で、おもに舌の動きによっておこる随意運動である。第2期は咽頭から食道に入るまでをいう。まず軟口蓋(なんこうがい)が上がり、鼻腔との通路がふさがれ、舌根が後下方に動き、舌骨および喉頭(こうとう)が挙上する。次に、喉頭筋の収縮がおこり食道の入口が開いて、食物が食道へ移動する。これらは、食塊が咽頭粘膜を刺激して反射的におこる。第3期は食道の蠕動(ぜんどう)運動によって胃に運ばれる過程である。第2期、第3期は反射により行われ、その中枢は延髄(えんずい)にある(嚥下中枢)。このように多くの筋肉、神経が協調して働くので、舌の運動麻痺(まひ)、口腔内の炎症、食道狭窄(きょうさく)、神経疾患などがあると、嚥下は困難なものとなる。
[市河三太]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…迷走神経は大きく分けて,頸部,胸部,腹部の内臓に分布する。頸部では,喉頭の筋を動かして行う発声運動と咽頭の筋を収縮させて行う嚥下(えんげ)運動(食物を飲み込む働き)との二つの働きをする。胸部では心臓の運動を抑制し,腹部では食道,胃,小腸,大腸の運動を促進する。…
… 唾液の生理的役割は,(1)食物成分を溶かして味蕾(みらい)を刺激し,味覚をおこし食欲を促す。これにより消化管の運動と分泌が反射的に高まる,(2)デンプンの消化,(3)口腔内をうるおし,くちびると舌の動きを滑らかにして発声,咀嚼(そしやく),嚥下(えんげ)を助ける。また口腔内と歯を清浄に保つ。…
※「嚥下」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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