1988年(昭和63)7月に、東京大学附属東京天文台、文部省水沢(みずさわ)緯度観測所(現、国立天文台水沢VLBI観測所)、名古屋大学空電研究所の一部が改組、合併して設立された研究機関。英語名はNational Astronomical Observatory of Japanで、略称NAOJ。大学共同利用機関として、全国の大学の研究者が国立天文台の施設、機器を利用できるようになっている。2004年(平成16)に法人化され、大学共同利用機関法人自然科学研究機構・国立天文台となった。観測装置は旧来のものを引き継いでいるが、木曽観測所(きそかんそくじょ)(長野県木曽町)は東京大学に附属する施設となった。東京天文台時代にも、他大学の研究者が望遠鏡などを使って研究を進めていたが、国立天文台になり、公式に共同利用することができるようになった。
おもな業務は、天文学および関連分野の研究のほか、暦書(春分・秋分などの二十四節気および雑節、国民の祝日、日曜表、各地の日の出入、日食や月食、惑星現象などさまざまな情報を掲載)の編製、中央標準時の決定である。1925年以来『理科年表』の編纂も行っている。
付属施設として、水沢VLBI観測所(岩手県)、太陽観測所(東京都)、野辺山宇宙電波観測所(長野県)、岡山天体物理観測所(岡山県)、ハワイ観測所(アメリカ)、チリ観測所(チリ)がある。本部は東京都三鷹市大沢。総合研究大学院大学の物理科学研究科の構成機関になっている。
移行後の最大プロジェクトはアメリカのハワイ州マウナ・ケア山頂4200メートルにおける口径8.2メートルの大型光学赤外線望遠鏡「すばる」の建設で、1999年(平成11)に観測が開始された。アメリカ、ヨーロッパが建設した同クラスの望遠鏡とともに太陽系外惑星や宇宙最遠方の天体などを次々と発見し、大きな成果をあげている。また、宇宙科学研究所(現、宇宙航空研究開発機構)と共同で、太陽観測衛星「ようこう」が1991年に打ち上げられ、太陽のX線画像を得ている。さらに、同じく宇宙科学研究所と共同で1997年に打ち上げた人工衛星「はるか」は、地上にある電波望遠鏡と干渉計をつくり、100万分の1秒角に迫る高い角分解能の観測を実現している。2006年9月には「ようこう」を継ぐ太陽観測衛星「ひので」が、宇宙航空研究開発機構と共同で打ち上げられた。可視光、紫外線、X線の3種類の最先端望遠鏡により約6000℃の太陽表面から数百万℃のコロナまでの領域で磁場、温度、プラズマの流れを高い角度分解能・測定精度で観測している。
1998年には重力波観測のための300メートルレーザー干渉計「TAMA300」が完成し、まったく新しいタイプの天体観測が始まった。2012年には東京大学宇宙線研究所と共同で、大型低温重力波望遠鏡(LCGT:Large-scale Cryogenic Gravitational wave Telescope、愛称KAGRA(かぐら))の建設を開始した。
チリに電波干渉計を設置するLMSA(大型ミリ波サブミリ波干渉計Large Millimeter and Submillimeter Array)計画が発展して2001年に、日本、ヨーロッパ、北アメリカの国際共同プロジェクトALMA(アルマ)(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)計画の合意がなり、日本では国立天文台が取り組むことになった。この計画は、チリの標高5000メートルのアタカマ高地にパラボラアンテナ66台を組み合わせた巨大な電波望遠鏡(アルマ望遠鏡)を建設するものである。このうち、日本は12台の直径7メートルアンテナと4台の直径12メートルアンテナからなるACA(Atacama Compact Array:アタカマコンパクトアレイ)を担当した。2011年9月から、一部のアンテナを用いた初期科学運用が始まり、徐々にアンテナ台数を増やしながら、第1期(2013年1月~)、第2期(2014年6月~)を経て、2015年10月からは、全部のアンテナを用いた第3期科学運用が開始される。太陽系のような惑星系の誕生の現場が克明に見えてくるなど、成果が出始めている。
すばる望遠鏡の次世代の望遠鏡として、口径30メートルの光学赤外線望遠鏡をアメリカ、カナダ等と共同でハワイ島につくるTMT(Thirty Meter Telescope)計画は2022年完成を目ざして2015年に建設が始まった。また、天体を観測する望遠鏡ではなく、宇宙の構造や太陽系などの成り立ちをコンピュータによって再現するためのスーパーコンピュータを1995年から導入し、「理論の望遠鏡」として利用している。
[磯部琇三・宮内良子 2015年5月19日]
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