翻訳|strata
層状をなした岩体を地層という。地層の多くは堆積(たいせき)岩からなる。しかし火山活動と密接な関係をもつ溶岩(火山岩)や火山砕屑(さいせつ)岩も地層とよばれる。また、サンゴ礁石灰岩など堆積岩でありながら小塊状岩体をつくるものも、より広い範囲内で層状部をつくって分布するので、地層とよばれる。
[木村敏雄・村田明広]
地層は海底、陸上を問わず地表に物質が堆積するか、または地表を流れてできる。火山砕屑岩を含めて、堆積岩をつくる砕屑物や化学物質は、そのときどきに存在する堆積表面、すなわち地表面に平行に堆積して層理(成層)をつくる。地表面は微小なものを含めて、多少とも凹凸をもつ。凹凸の斜面が急で大きいところには堆積はおこらない。斜面に堆積するか否かは堆積物がもつ安息角、すなわち、すべりをおこさずに堆積可能な最大の傾斜角による。安息角は粗粒堆積物ほど大きく、水を多く含むほど小さくなる傾向がある。したがって海底では泥層の安息角は小さく、数度以内の傾斜の斜面でも安定を失い地すべりや崩壊をおこす。
一方、陸上での粗粒角礫(そりゅうかくれき)岩は、かなりの傾斜角をもつ安定斜面をつくることができる。また、陸上で水の影響を受けないところでは、火山灰はしばしば地表の起伏なりに成層する。すなわち、堆積の当初から地層はかなりの傾斜をもつことがある。しかし、堆積岩の主要な堆積の場である水底では、凹部に堆積がおこりやすく、そこはしだいに埋め立てられて水平部が大きく広がろうとする傾向をもつ。このようにして大きな広がりをもった水底では水平層が堆積する。これは「初源堆積水平の法則」とよばれる。このように水平層が次々に上に重なって堆積すると、上に重なる地層が下の地層より若いことになる。これは「地層累重の法則(ちそうるいじゅうのほうそく)」(または累重の法則)とよばれ、相接する二つの地層の新旧を判別するときの基準となる。
[木村敏雄・村田明広]
明瞭(めいりょう)な層理面に挟まれ、かつほぼ類似の岩質からなる層を単層という。単層の中にみられる、より細かい層は葉層とよばれる。これは普通1センチメートルよりも薄いものについていう。葉層はそれを包み込む単層に平行であるが、斜交して斜交葉理をつくることがある。地層はまた、単層をつくらずレンズ状となることがある。レンズ状の地層はその周辺でしだいに薄くなり、ついに消滅する。同様の消滅を一方向にのみおこした単層は、舌状層とよばれる。異なる岩質の単層が交互に重なり合った地層は互層である。また、異なる岩質の地層が互いに側方に移り変わる関係にあるとき「指交interfingering」という。崖(がけ)のような急な斜面の側方に堆積した地層はアバットabutという。堆積後まもなく生じた海底地すべり褶曲(しゅうきょく)層が、褶曲しない地層の間に挟まれて、堆積による層内褶曲を形成していることもある。不整合を挟む地層はいうまでもないが、浮遊した泥質粒子が一様に沈下してしだいに積み重なったような場合を除くと、連続して堆積したとみえる地層でも堆積の速さは一様でない。混濁流(乱泥流)堆積物中の泥岩層と砂岩層との互層についていうと、泥岩は数センチメートル未満の薄層でも数百年の堆積期を要しているのに、砂岩は1メートル近くの厚層でも1日未満で堆積したものがある。級化層理、斜交層理など堆積形態のなかには、堆積時にどちらが上位であったかの地層堆積の向きを示すものがある。地殻変動によって著しく変形した地層の褶曲構造を解析するのに役だつ。
[木村敏雄・村田明広]
過去においても現在と同様に、地層は河川流域、河口、湖沼、潟、海などに厚く堆積した。地層が周辺よりも厚く堆積した凹地状区域を堆積盆という。陸域内ないし陸域に囲まれた内海では普通、沈降によって堆積盆ができる。周辺区域の隆起を伴い、そこが砕屑物供給地となることも多い。海では、周辺よりもとくに地層が厚いわけではないが、大洋の中心部に巨大な堆積盆がある。陸域に接した区域でも、陸からやや離れたところに隆起帯ができると、島弧前縁盆地のように堆積盆ができる。陸域周辺の広い海では、陸域から多量の砕屑物の供給があるため、堆積盆があろうとなかろうと、陸側に厚く海側に薄くなる、くさび状の堆積体をもつ堆積域ができる。河口の三角州堆積体はその小規模のものである。これら陸に接した広い海では、海側に沈降、陸側に上昇があるとき、造山運動期の堆積層のように、その堆積体はときに巨大になる。
堆積盆の中での堆積は、かならずしも中心からしだいに埋め立てていくようにはおこらない。砕屑物の供給や運搬の仕方と方向、周辺を含めた区域での地殻変動のおこり方によって、一つの堆積盆内でも場所により堆積の仕方は異なる。
[木村敏雄・村田明広]
堆積盆に新しく地層が堆積し始めるとき、しばしば礫岩または砂岩に富む地層が堆積し、その上にしだいに泥岩を主とする地層が堆積する。ときには、さらにその上に粗粒岩からなる地層がのる。初め浅かった海がしだいに深くなりまた浅くなった、すなわち海進と海退とがおこったためであると解されることが多い。このような海進から海退までの一連の堆積現象を、堆積のサイクル(輪廻(りんね))とよぶ。海退時の地層はしばしば侵食によって除去され、海進層の上に直接不整合で次の堆積サイクルの開始層が堆積することが多いので、海進層までを堆積のサイクルとよぶことが多い。堆積のサイクルは全体として、普通200~300メートル以上の厚さで、海成層を主体とすることが多い。これに対して、下半部が炭層をもつ淡水成層と、上半部が浅海層からなる厚さ数メートルから数十メートルの単位サイクル層が繰り返して現れる事象が、炭田地区などで知られている。これについてはサイクロセムcyclothem(堆積小サイクル)の名がある。
堆積のサイクルは汎(はん)世界的海面上昇によってもおこるが、厚い地層からなるサイクル層は、広域の造陸運動または局地的な地殻変動に伴う相対的な海面変動によっている。サイクロセムも地殻の不安定に起因するとされている。日本では周期的におこる火山活動に帰せられることがある。
[木村敏雄・村田明広]
沿岸、沖合いの区別があるように、一つの堆積盆内でも堆積環境は一様でない。したがって、ある同じ年代・期間の地層でも場所によって堆積層や生物群が異なる。これを同時異相という。そして堆積環境の違いを示す岩石学的、生物学的特徴をそれぞれ岩相、生相という。そして沿岸相、沖合相などといわれる。砂岩または泥岩が多いことで特徴づけられる場合には砂岩相、泥岩相とよばれる。堆積環境を示す化石が示相化石である。これらは短い期間内の異相であるが、大陸的広域の長期にわたる造構環境の違いによって生じた異相は構造相という。たとえば、安定陸棚環境に長期に堆積した地層群は、安定陸棚相とよばれる。
[木村敏雄・村田明広]
とくに目だつ特徴をもち、かつ広範囲にほぼ同時に堆積したとみられる地層は、鍵層(かぎそう)とよばれる。安定陸棚の沿岸近くで堆積した石英砂岩層はそのような特徴をもち、安定陸棚相区域の地質調査の際に、鍵層としてしばしば利用されている。地形的に突出して目だつので、鍵層としての有用性を増している。これに対して不安定区域では、沿岸相も厳密に同時層でないことが多い。たとえば基底礫岩は、海進の進行に伴って、時間の変化とともに堆積地を変えることが多い。その特徴ある岩質が地質調査の手助けとなるが、同時を示す鍵層とはなりえない。不安定区域であった日本では、異なる環境にまたがって同時に堆積した火山灰層がよい鍵層となることが多い。
[木村敏雄・村田明広]
地層は広い範囲ではかならず同時異相を示す。すなわち、場所によって異なる岩質の地層が堆積している。したがって、地層の区分には岩石学的性質による岩層区分と時代区分とがある。地層の記載、地質図への記入にあたって、岩層区分の基本単位層となる累層(るいそう)は、単一または複数種の堆積岩からなり、他の層から容易に区別できる特徴をもち、しかも地質図に記入可能な大きさをもつものである。累層より小さい単位として部層がある。累層が集まって、より大きい単位としての層群をつくる。不整合の存在をもって層群の境界とすることが多い。また、いくつかの層群をまとめて累層群とよぶ。これらの単位層は、典型的に発達する場所を模式地として、その地名を付して、たとえば清澄(きよすみ)層(累の字はしばしば省略される)、上総(かずさ)層群のようによばれる。日本では、大きい堆積盆が広く広がっていた中・古生代の地層について、広い範囲に同一岩層単位が適用できることが多い。堆積盆が狭かった新生代新第三紀の地層では逆である。
時代区分の単位は、化石帯および期、世、紀、代である。異なる位置にある地層が同時代のものであるか否かの認定を対比という。対比は示準化石(標準化石)によって行われる。したがって、化石帯が地層対比の基本単位で、それを示す示準化石の種名または属名でよばれる。期、世、紀、代は、単一、少数または多数の化石帯からなる。模式地域の地名でよばれることもあるし、そこでの研究史を反映した呼び名のこともある。生物進化あるいは環境変化に起因して、模式地の化石帯群にやや大きい変化があったところに期、世の境界が、もっと大きい変化があったところに紀の境界が定められている。代の境界には、動物化石群の世界的な大変化がおこった。模式地では、同一環境下で進行した生物進化によってではなくて、その区域の環境変化による生物群の変化に従って紀の境界が定められていることが多い。そのため、紀の境界の位置についてしばしば学界の論争がある。異なる環境のそれぞれには、異なる生物グループの示準化石がある。異相の地層が指交しているとき、それぞれの示準化石を利用して互いの対比が可能となる。国際的な模式地域と同じ示準化石がない地域でも、このような研究を基にして国際時代区分との対比が行われている。対比が行われ時代が確定した地層は階、統、系、界とよばれる。たとえば、中新世、ジュラ紀、古生代の地層は、それぞれ中新統、ジュラ系、古生界とよばれる。
近年、各時代の年代が明らかになってきたので、地層に挟まれた火山灰層などの放射年代測定値によっての対比も行われる。新生代後期層については、磁気層序学による対比も行われる。堆積環境に限らず、似た地質環境下では似た岩石を生じる。また、同じ時代の近接した場所でも、しばしば互いの地質環境が異なる。たとえば、隣接する火山の岩質が異なることがある。したがって、岩質の類似のみをもって、離れた地区の岩体を対比することはできない。正しい対比によって、広い区域の中でのある時点における地質環境の分布を知りうるし、他の時点との比較によって、地質環境の変遷を知りうる。これが地質現象を理解する基本となる。
[木村敏雄・村田明広]
地層というのは本来層理面を示す地殻物質であり,そのことから一般には層状に積み重なった堆積岩を指す場合が多い。堆積岩は量としては地殻表層の20%以下を占めるにすぎないが,表面積としては実に75%以上に達し,しかも地層が地球の歴史に関する三次元的枠組みを与えることが明らかになったことから,重要なものとして扱われている。
地層には化石が含まれているが,その意味については長い間正確には理解されなかった。ギリシア時代にアリストテレスは化石を観察し,それらは海の生物の遺骸であり,かつて陸地は海に覆われていたと考えた。しかし彼の考えには,その化石が古い時代のものであるとか,化石となった生物が進化して現在の生物に達したというようなことはまったく含まれていず,この考えは中世を通じて変わらなかった。大航海時代を経て人々の目はしだいに自然観察に向くようになった。化石の成因に関して,イタリアではレオナルド・ダ・ビンチが生物起源のものが地層に化石として残される過程を具体的に観察し記述している。その後17世紀に,コペンハーゲン生れでイタリアでほとんどを過ごしたN.ステノは地層の形成に関して次のような観察を行っている。(1)堆積層は固まった基盤の上に形成される,(2)したがって下の基盤層は新規の堆積の始まる前に固結していなければならない,(3)一つの層は地表をすべて覆っているか,または他の層によって局限されて分布する,(4)一連の堆積が継続中はそこに水が存在して沈殿が行われるのであるから,その下にある地層は上のものより古い。このステノが観察したものが,地史学における基本的概念の一つといわれる〈地層累重の法則〉に発展する。18世紀になって,現代地質学が確立していくが,その間に貢献のあった2人を挙げるとJ.ハットンとW.スミスである。ハットンは現在みられる運搬・浸食・堆積などの作用は過去の地層を理解するうえに重要な意味があり,それを〈現在は過去の鍵である〉という,後に斉一説と呼ばれる考えで示した。スミスは水路掘削の調査技師としてイギリス南部の地層を調べるうちに,異なった地層は,その中に含まれる特徴的な化石群集によって区別されることに気がついた。彼はこの考えにもとづいて地層の新旧の区別を行い,1815年に南イングランドとウェールズの最初の地質図を刊行した。この化石が地層の同定に利用できるという〈地層同定の法則〉は地層の編年の基礎としてその後急速に利用された。
堆積作用や堆積環境が地層を構成している物質に反映していると考えて地層を分類することを岩相的区分という。地層の構成物質には大きく分けて砕屑(さいせつ)性,火山性,生物源,化学源などがあるが,地球生成以来の変化をみると,始生代にはおもに火山性が卓越し,原生代を通じしだいに砕屑性が増え,顕生代には生物・化学源岩相が多くなってきているという特徴がある。また,同じ岩相的区分ではあるが,堆積の場によって陸成層と海成層とに区分される。このような判断の第一の手がかりは,示相化石といわれる特定の環境にのみ生息する化石を見つけることによって成立する。陸成層は河川堆積物,扇状地堆積物,湖成堆積物,氷河堆積物,砂漠堆積物などに区分され,海成層は海岸堆積物,三角州堆積物,浅海~深海堆積物などに区分される。これらの環境にはそれぞれ固有の初生的堆積構造があり,地層を特徴づけている。一般に堆積構造には次のような種類がある。(1)地層の外形 厚さとか形状および連続性などを指し,一般に深海堆積物ほど連続性がよく層厚は薄い。一方,浅海堆積物は形状の変化に富み,不整合がみられる。(2)内部構造 層理の種々の形態を指す。砂漠・浅海堆積物に特徴的なクロスラミナ,湖成・浅海堆積物にみられるリップル層理,深海堆積物にみられる級化層理などがその例である。(3)地層面の表裏にみられる跡 地層面に残る雨滴の跡とか,恐竜の足跡,流れ出た堆積物の底面にできる流痕の跡などがある。(4)堆積同時性変形 地すべり堆積物や,堆積性岩脈などによる乱堆積や層間異常などがその例である。
このように地層を構成する組成,組織,固さ,色とか堆積構造を識別して一つの単位の層を区分したとき,それを単層bedと呼ぶ。単層は地層の最小の単位で,その厚さは数mmのラミナから数mあるいはそれ以上までの幅がある。単層がまとまったのが層員member,累層formation,層群groupなどと区分されている。これらの単位は年代的意味をもっているものではないが,ときに層群が系に分類されることもある。しかし,一般には堆積の場の変動に支配されて地層を形成すると考えられており,その場合に,造山サイクルとしてケイ質砂岩または炭酸塩岩に始まり,蒸発岩,黒色泥岩を経て,ついにフリッシュ堆積物となり,やがて浅海性粗粒堆積物から赤色砂岩で終わるという見方が一つの基準となる。
次に生成年代を基準とした区分が存在し,その場合には示準化石が重要な役割をはたしている。地層は地質時代の長さに対応して界group(またはerathem),系system,統series,階stage,亜階substageと分けている。これを地質系統といい,地質を編年することを層位学stratigraphyと名付ける。地質時代は相対年代と絶対年代の二つで決定される。相対年代は化石の進化系列を比較して地層の新旧を決める〈地層同定の法則〉にのっとった方法で,最近では古地磁気層位学も化石とまったく同じ方法で調べられているし,また酸素などの安定同位体のえがく変動曲線も同じものと考えられている。一方絶対年代は,14C(炭素14)法,K-Ar法,U-Pb法などの放射性元素の崩壊速度から,その鉱物を含む岩石ができてから現在までの年数が測られる。
なお,それぞれ離れた地点にある地層を時代ごとにつき合わせることを地層の対比というが,比較的短距離の対比では,化石のほか火山灰,岩塩層などの特徴的な地層(鍵層)が手がかりとして用いられる。
地向斜などには大量の地層が保存されているが,これは堆積盆が形成され,堆積物がそれを埋めることによって保存されるためで,地層は結果的に作られるのだという考えがある。そこで堆積盆の種類,形成機構についてふれると,堆積盆についてはクラトン内部にできる内陸盆地と海陸縁辺域にできる縁辺盆地とに分けられる。盆地形成の原因のおよそ50%は堆積物の自重による地殻のアイソスタシーによって説明されるが,その他の50%の成因に関してはいろいろな議論がある。最近有力なのが熱冷却説で,ミシガン盆地,パリ盆地などの研究がある。一方,マントルクリープによる地殻薄化と地溝形成も有力な考えである。
地下資源の70%以上が地層中から産出する。石油・天然ガスおよび石炭などのエネルギー資源はすべて堆積性鉱床といい,地層中から産する。そのほか,アルミニウムの原料のボーキサイト,肥料の原料となるリン鉱,さらに岩塩および層状鉄鉱床,窯業の原料としてのカオリン粘土,耐火原料のケイ藻土や石綿,セメント原料の石灰岩など多くの例がある。さらに最近では銅・亜鉛鉱床として日本では有名な黒鉱も火山性海底堆積物と考えられてきている。
→地下資源
執筆者:加賀美 英雄
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