法律上,株式会社または有限会社において,会社の維持すべき財産の基準である資本の額が増加されることをいう。資本増加の略称。反対は資本減少(減資)である。いかなる場合に資本が増加するかは株式会社と有限会社とでは異なる。
株式会社では,現行商法においては授権資本制が採用されており,資本の額は定款の記載事項でないため,定款変更の手続によることなく,授権株式数の範囲内では法の定める各事由により資本が増加する。具体的には,通常の新株発行,法定準備金(準備金)の資本組入れ(商法293条ノ3),抱合せ増資(通常の新株発行と,法定準備金または配当可能利益の資本組入れにともなういわゆる無償交付とを組み合わせた中間的形態。280条ノ9ノ2),配当可能利益の資本組入れ(293条ノ2)のほか,転換社債権者により転換権が行使された場合,新株引受権付社債(〈株式買取権付社債〉の項参照)権者により新株引受権が行使された場合,吸収合併(〈合併〉の項参照)に際して存続会社の資本が増加される場合である。
これに対して有限会社では,資本の額が定款の記載事項であるため定款変更手続の一ケースとしての増資の手続(有限会社法49条以下,株式会社における通常の新株発行に対応する)による場合のほか,吸収合併に際してのみ資本の増加が認められる。
執筆者:山下 友信
会社が設立後,通常の新株発行は,資金調達を目的として,株式引受人を求め株金を払い込ませる方法により行われる(通常増資)。増資による資金調達を自己資本の調達という。その特徴は,償還の必要がなく,長期に良質な資金が調達できる点にある。発行された株式には配当金が支払われるが,会社の経営状態に応じて配当を行えばよく,固定負担がないのが特色である。他の資金調達方法として,借入金または社債による調達方法がある。これを他人資本の調達という。借入金,社債による調達は元本の返済,確定利息の支払義務が発生する。増資によって調達した資金は自己資本として財務信用を高め,会社の借入余力を増す。また時価発行増資の場合,配当による直接コストは他の資金調達手段より割安の場合が多い。なお増資と社債の両面を持った資金調達方法に,転換社債と新株引受権付社債=ワラント債(〈株式買取権付社債〉の項参照)がある。
増資を大別すると,有償増資と無償増資に分かれる。特殊なものとして有償無償抱合せ増資(単に抱合せ増資ともいう)およびこれと類似の有償無償平行増資(平行増資)がある。有償増資は新株を引き受ける者を募集し,その引受価額を現金または現物出資によって払い込ませる一般的な増資方法である。増資はまた新株引受権の募集方法によって,(1)株主割当増資,(2)公募増資(時価発行増資),(3)第三者割当増資に分かれる。
株主割当増資は株主に新株引受権を与え,(既存)株主から新株主を募集する方法で,日本では公募増資が定着する以前はほとんどの増資がこの方法によって行われた。株主割当増資の手順は,(a)取締役会で増資を決議,(b)一定の日(割当日)を定め,その日の株主名簿に記載されている株主に対し所有株数に応じて新株を割り当てる,(c)一定期日(株式申込期日)までに株式の申込みをしないときは新株引受権がなくなる旨を株主に通知し,(d)申込期日までに申込みのなかった株式および割当ての結果1株未満の割当不能の端数株式は切り捨てることができるが,通常は公募の方法で株金を徴収し全額の払込みが完了する。新株式の発行価額は額面株式においては額面金額を下回ることができないので,額面価額にする(額面発行という)ことが一般的であるが(このため額面増資という言い方もある),最近では額面価額と時価の中間価額で発行する中間発行増資もある。
公募増資(時価発行増資)は,時価を基準に発行価額を定め,株主を広く公募するものである。商法は定款に別段の定めがない限り取締役会が,株式申込人のうちだれにでも自由に新株を割り当てることができる(割当自由の原則)と定めている。しかし,発行価額が均等であること,発行価額が公正なることが要求される。1970年代後半以降上場会社では時価発行増資が主流を占めている。
第三者割当増資は取引先企業,当該会社の役員・従業員など特定の第三者に新株式引受権を付与して行う新株発行である。この点で公募増資と異なる。発行価額がとくに有利なときは株主総会の特別決議が必要である。
無償増資は,外部から出資を求めず会社の法定準備金を資本に組み入れて新株を発行し,これを株主に無償で交付するものである。1981年の商法改正により時価発行増資の場合,株式の発行価額の少なくとも2分の1は資本に組み入れなければならなくなり,そのうちの券面額超過分について株主に対して株式を発行できることになった。無償増資とは手続方法は異なるが,株主総会の決議により配当すべき利益金を資本に組み入れて新株を発行する株式配当がある。
執筆者:大須賀 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
資本金の総額を増加すること。資本金額の増加ともいう。会社財産を確保するための一定の数字である資本金は、債権者保護に資するために、厳格な手続を経ることなくしてこれを減少させることはできない(資本不変の原則)。しかし、この「不変」とは減少させることだけを意味するのであり、資本金を増加させることは、それが債権者保護に資するために自由である。株式会社における増資は、通常、新株の発行によって行われるが、合併、吸収分割、新設分割、株式交換または株式移転に際して資本金として計上することにより増資がなされることもある(会社法445条5項)。また、資本準備金またはその他資本剰余金の額を減少して、資本金額を増加することができる(同法448条、450条)。
[戸田修三・福原紀彦]
『太田達也著『「増資・減資の実務」完全解説――法律・会計・税務のすべて』改訂増補版(2006・税務研究会出版局)』▽『勝田一男著『増資・減資の登記マニュアル』(2007・中央経済社)』
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…証券用語としては次の二つの意味で用いられる。(1)増資に際して不特定多数の一般投資家を対象に応募を求め,新株を発行するもの。私募(機関投資家など特定少数の投資家を相手に募集)に対するいい方である。…
※「増資」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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