「子どもの権利に関する条約」について政府は「児童の権利に関する条約」と訳しているが、広報上は双方の併用が認められている。この条約の特徴の第一は、すべての人間を無差別平等に保障する理念にたって、子どもも大人と同じ人権の主体として認めようとする点である。したがって国際人権規約(1966)によって大人に保障された人権のうち、「思想・良心や集会・結社の自由」(14条、15条)など、選挙権を除くすべてを子どもにも保障しようとしている。第二は、子どもの自立のための自己決定権を保障するための「意見表明権」(12条)を認めている点である。そのためには子どもにも責任が伴う。第三は、とくに成長、発達の途上にある子どもに「生命・生存、発達の確保」(6条)や「名前・国籍の取得権」(7条)などを保障し、その保障の第一次責任を親に義務づけて、国はその親の生活を支援する(18条)など、いわば人間主義に立脚している点である。
[永井憲一]
本条約では、国連に選ばれた人権専門家で構成される「子どもの権利委員会(児童の権利に関する委員会)」を常設して、締約国に批准後2年、その後は5年ごとに子どもの人権保障の実施に関する状況報告を義務づけ、問題があればその改善を勧告するなどして、各国が同一歩調をとって地球的規模で本条約の理念を実現することを目ざしている(43条~45条)。
2010年(平成22)5月27~28日に、ジュネーブで国連子どもの権利委員会(第54会期)が開かれ、日本政府の第3回報告が審査された。その結果、同委員会は、日本における「子ども・若者育成支援推進法」(2009年7月)の制定などを一歩前進とみたものの、これらの文書が子どもの権利を基盤としたものであるかどうかについて疑念を示し、日本政府に対して、「子どもの権利基本法」などを制定する意思があるかどうかを問い、「子どもの権利に関する包括的法律」の採択を促した。
同委員会が勧告文のなかで「強く勧告するstrongly recommends」と表記した箇所が3か所ある。国連の勧告権には法的な拘束力はないが、それでもできるだけ勧告に従ってほしいという国連の強い意思が伝わってくる。一つは、上記の(1)子どもの権利基本法の制定への要請であるが、残りの2か所は、(2)国・自治体の子ども予算の優先的な配分、および(3)家庭・施設を含めた全面的な体罰禁止の立法化である。「子どもの貧困」問題がいわれるなかで、子ども予算の優先的な配分が求められている。また、児童虐待の深刻化と増加に対して、その温床となっている「親による体罰」の禁止が優先的な課題になっていることが注目される。
なお、こうした国連からの日本政府への強い要請があるにもかかわらず、日本政府は、一、二の例を掲げれば、現行の民法第731条(婚姻適齢)として男子は18歳、女子は16歳としている男女差別を改めていないし、第900条4項の非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1としている差別規定をそのままにしている。
また、この条約を推進する基本施策を明確にする「子どもの権利基本法」も制定されておらず、それを実施する「子ども庁」も設定されていないが、この条約の実施を強く要望する国民は、おもに市民運動として、身近な地方自治体に「子どもの権利条例」を制定して、これを実現しようとする動きが目だっている。すでに、兵庫県「川西市子どもの人権オンブズパーソン条例」(1998)や神奈川県「川崎市子どもの権利に関する条例」(2000)などを皮切りとして100近い子ども条例が制定されてきている。
[永井憲一]
『永井憲一編『解説子どもの権利条約』(1990・日本評論社)』▽『子どもの権利条約フォーラム実行委員会編『検証・子どもの権利条約』(1997・日本評論社)』▽『永井憲一監修『自治体でとりくむ子どもの権利条約』(1997・明石書店)』▽『永井憲一編『子どもの人権と裁判』(1998・法政大学出版局)』▽『子どもの権利条約総合研究所編『子ども条例ハンドブック』(2008・日本評論社)』▽『喜多明人・森田明美他編『逐条解説 子どもの権利条約』(2009・日本評論社)』▽『子どもの権利条約総合研究所編『子どもの権利条約ガイドブック』(2011・日本評論社)』